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ヴェリシア編④守護者 ファルネーゼ
第2の守護者 青炎のファルネーゼ
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灰色の雲が流れる空の下。
健司たちは、炎の一族の王が住むという塔へ向かって歩いていた。
焦げた大地が続いていた。
どこまでも黒く焼けた土地の中に、遠く一本の塔がそびえている。
その頂から、ゆらゆらと炎の光が立ちのぼっていた。
「……あれが、炎の王の塔か」
健司がつぶやいた。
その横で、アナスタシアが風に揺れる白髪を押さえながら、静かに頷く。
「ええ。炎の王の魔女がいる場所。炎の一族の頂点……。
けれど、そこに行くまでに“二つの壁”があると聞いたわ」
リセルが辺りを見回す。
焼け焦げた地面の熱がまだ残っており、足を踏み出すたびに靴底が焦げるようだった。
「バーネ……あなたの一族は、どうしてここまで荒れたの?」
問われたバーネは、沈んだ目で大地を見つめていた。
彼女の体にはまだ戦いの傷跡が残っている。
ヴェリシアに敗れたとき、心まで焼け尽きたような空虚な瞳だった。
「……すべては炎の誇りのため。そう教えられてきた。
敵は燃やせ、裏切りは許すな。愛は弱さ、情は裏切り。
そういう時代だった」
彼女の言葉に、健司は静かにうなずいた。
けれど、バーネはそのまま視線をアナスタシアに向けた。
「人間、ひとつ聞かせてくれ。
なぜ……その女を信じられる?」
アナスタシアが目を細める。
健司は一瞬、答えに詰まった。
だが、真っ直ぐにバーネを見つめた。
「アナスタシアさんを信じています。
僕が知っているアナスタシアさんは、人の心を感じ、涙を流せる人です。
それが、すべてです」
「……人の心、だと?」
バーネが眉をひそめた。
その言葉が信じられないように。
「この女はな、かつて残虐非道だった。
水の一族の当主になったきっかけの十五の時……
命令だからといって、何百という炎の民を氷漬けにした。
それが、アナスタシアという女だ」
空気が張り詰めた。
リセル、クロエ、ミリィ、そしてヴェリシアまでもが息をのんだ。
アナスタシアは静かに目を閉じた。
「……昔の私は、若かった。
一族の命令に逆らえず、命じられるまま……やった。
何も見えていなかった。何が正しいかも」
健司はその言葉を聞いて、ゆっくり頷いた。
そして、穏やかな声で言った。
「でも、今は違う。
アナスタシアさんは自分のしたことを後悔している。
もう、誰かを凍らせるために生きていない」
アナスタシアが驚いたように健司を見つめた。
その視線の奥に、わずかな光が揺れた。
だが——その時だった。
突如、辺りの空気が変わった。
風が止まり、熱が立ちこめる。
大地の下から、何かが燃え上がる音。
「……来る!」
ヴェリシアが構えを取った。
瞬間、周囲の地面が爆ぜた。
青い炎——。
赤でも白でもない、純粋な蒼炎が地を這い、空へと昇る。
健司たちを囲むように炎が円を描いた。
空が蒼く染まり、まるで世界そのものが青い炎に飲み込まれていく。
「この炎……」
バーネの顔が強張った。
その目に、明らかな恐怖が宿る。
「まさか……あいつが……!」
炎の中から、ひとりの女が歩み出た。
青髪が揺れ、青炎がその身体を包んでいる。
瞳は氷のように冷たく、だがその奥に燃える狂気の光が見えた。
「第2の守護者——ファルネーゼ」
バーネが小さく呟いた。
その瞬間、青い炎が一気に広がり、バーネの足元を焼いた。
「バーネ、何をしている?
まさか……アナスタシアに絆されたのか?」
ファルネーゼの声は鋭く、まるで刃のようだった。
炎が一筋、バーネを貫いた。
バーネは苦しみの声を上げ、膝をつく。
「違う……私はただ……!」
「黙れ。裏切り者に言葉は不要だ」
ファルネーゼが手を掲げる。
青い炎が渦を巻き、バーネを包もうとした。
だが、瞬間——
その炎が霧のように消えた。
「な……?」
ファルネーゼが目を見開く。
健司の手が、青い炎を掴むように伸びていた。
触れた瞬間、炎が霧散していった。
「やめてください! 仲間でしょう? なぜ攻撃を!」
健司の声には怒りではなく、哀しみがあった。
それが、かえってファルネーゼの心を逆撫でした。
「仲間? 冗談を言うな、人間。
アナスタシアの仲間は、等しく私の敵だ」
「どうして……そこまで憎むんですか?」
その問いに、ファルネーゼの目が見開かれた。
次の瞬間、青炎が轟音を上げて爆ぜた。
「どうして、だと? 貴様に何がわかる!」
炎の壁の中に、過去の光景が揺らめいた。
小さな塔。笑い声。子供たちの姿。
そして、それが一瞬で——氷に包まれる光景。
「アナスタシアが“水の一族”を率いた十五の時、
塔にいた子供たちを——氷漬けにした。
私の……両親も、そこにいた!」
アナスタシアが息を呑んだ。
その目に、苦しみが走る。
「……そう。あの時の……」
「覚えているのか? なら、なおさらだ!」
ファルネーゼが叫び、炎を地面に叩きつけた。
青炎が地を這い、空へと噴き上がる。
炎が健司たちを包み込む。
ミリィが悲鳴を上げ、クロエが結界を張る。
だが、青炎はただの熱ではない。
“怒り”そのものが燃えていた。
「この炎は、私の魂そのもの!
アナスタシア、お前の氷が何を守ろうと、私は許さない!」
ファルネーゼの怒りは、世界を焼くほどに純粋だった。
健司たちは、炎の一族の王が住むという塔へ向かって歩いていた。
焦げた大地が続いていた。
どこまでも黒く焼けた土地の中に、遠く一本の塔がそびえている。
その頂から、ゆらゆらと炎の光が立ちのぼっていた。
「……あれが、炎の王の塔か」
健司がつぶやいた。
その横で、アナスタシアが風に揺れる白髪を押さえながら、静かに頷く。
「ええ。炎の王の魔女がいる場所。炎の一族の頂点……。
けれど、そこに行くまでに“二つの壁”があると聞いたわ」
リセルが辺りを見回す。
焼け焦げた地面の熱がまだ残っており、足を踏み出すたびに靴底が焦げるようだった。
「バーネ……あなたの一族は、どうしてここまで荒れたの?」
問われたバーネは、沈んだ目で大地を見つめていた。
彼女の体にはまだ戦いの傷跡が残っている。
ヴェリシアに敗れたとき、心まで焼け尽きたような空虚な瞳だった。
「……すべては炎の誇りのため。そう教えられてきた。
敵は燃やせ、裏切りは許すな。愛は弱さ、情は裏切り。
そういう時代だった」
彼女の言葉に、健司は静かにうなずいた。
けれど、バーネはそのまま視線をアナスタシアに向けた。
「人間、ひとつ聞かせてくれ。
なぜ……その女を信じられる?」
アナスタシアが目を細める。
健司は一瞬、答えに詰まった。
だが、真っ直ぐにバーネを見つめた。
「アナスタシアさんを信じています。
僕が知っているアナスタシアさんは、人の心を感じ、涙を流せる人です。
それが、すべてです」
「……人の心、だと?」
バーネが眉をひそめた。
その言葉が信じられないように。
「この女はな、かつて残虐非道だった。
水の一族の当主になったきっかけの十五の時……
命令だからといって、何百という炎の民を氷漬けにした。
それが、アナスタシアという女だ」
空気が張り詰めた。
リセル、クロエ、ミリィ、そしてヴェリシアまでもが息をのんだ。
アナスタシアは静かに目を閉じた。
「……昔の私は、若かった。
一族の命令に逆らえず、命じられるまま……やった。
何も見えていなかった。何が正しいかも」
健司はその言葉を聞いて、ゆっくり頷いた。
そして、穏やかな声で言った。
「でも、今は違う。
アナスタシアさんは自分のしたことを後悔している。
もう、誰かを凍らせるために生きていない」
アナスタシアが驚いたように健司を見つめた。
その視線の奥に、わずかな光が揺れた。
だが——その時だった。
突如、辺りの空気が変わった。
風が止まり、熱が立ちこめる。
大地の下から、何かが燃え上がる音。
「……来る!」
ヴェリシアが構えを取った。
瞬間、周囲の地面が爆ぜた。
青い炎——。
赤でも白でもない、純粋な蒼炎が地を這い、空へと昇る。
健司たちを囲むように炎が円を描いた。
空が蒼く染まり、まるで世界そのものが青い炎に飲み込まれていく。
「この炎……」
バーネの顔が強張った。
その目に、明らかな恐怖が宿る。
「まさか……あいつが……!」
炎の中から、ひとりの女が歩み出た。
青髪が揺れ、青炎がその身体を包んでいる。
瞳は氷のように冷たく、だがその奥に燃える狂気の光が見えた。
「第2の守護者——ファルネーゼ」
バーネが小さく呟いた。
その瞬間、青い炎が一気に広がり、バーネの足元を焼いた。
「バーネ、何をしている?
まさか……アナスタシアに絆されたのか?」
ファルネーゼの声は鋭く、まるで刃のようだった。
炎が一筋、バーネを貫いた。
バーネは苦しみの声を上げ、膝をつく。
「違う……私はただ……!」
「黙れ。裏切り者に言葉は不要だ」
ファルネーゼが手を掲げる。
青い炎が渦を巻き、バーネを包もうとした。
だが、瞬間——
その炎が霧のように消えた。
「な……?」
ファルネーゼが目を見開く。
健司の手が、青い炎を掴むように伸びていた。
触れた瞬間、炎が霧散していった。
「やめてください! 仲間でしょう? なぜ攻撃を!」
健司の声には怒りではなく、哀しみがあった。
それが、かえってファルネーゼの心を逆撫でした。
「仲間? 冗談を言うな、人間。
アナスタシアの仲間は、等しく私の敵だ」
「どうして……そこまで憎むんですか?」
その問いに、ファルネーゼの目が見開かれた。
次の瞬間、青炎が轟音を上げて爆ぜた。
「どうして、だと? 貴様に何がわかる!」
炎の壁の中に、過去の光景が揺らめいた。
小さな塔。笑い声。子供たちの姿。
そして、それが一瞬で——氷に包まれる光景。
「アナスタシアが“水の一族”を率いた十五の時、
塔にいた子供たちを——氷漬けにした。
私の……両親も、そこにいた!」
アナスタシアが息を呑んだ。
その目に、苦しみが走る。
「……そう。あの時の……」
「覚えているのか? なら、なおさらだ!」
ファルネーゼが叫び、炎を地面に叩きつけた。
青炎が地を這い、空へと噴き上がる。
炎が健司たちを包み込む。
ミリィが悲鳴を上げ、クロエが結界を張る。
だが、青炎はただの熱ではない。
“怒り”そのものが燃えていた。
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アナスタシア、お前の氷が何を守ろうと、私は許さない!」
ファルネーゼの怒りは、世界を焼くほどに純粋だった。
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