魔女達に愛を

リーゼスリエ

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クロエ編⑤ミリィ対メルガ

対峙 ― 魂の魔女、現る ―

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朝日が差し込む前の、薄い光の時間帯。
 風が止まり、リヴィエールの街は、夜の夢をまだ手放せずにいた。

 そんな静けさの中、悲鳴が響いた。

「リーネが……! リーネが倒れてるの!」

 誰かの声に健司は飛び起きた。
 胸が締めつけられる。
 昨日、外に出ていったリーネの後ろ姿が脳裏に浮かぶ。
 嫌な予感が、確信へと変わっていった。

 彼は部屋を飛び出した。
 カテリーナ、エルネア、ラグナ、そしてアウレリアたちも、ほとんど同時に駆けつけた。

 そこに、リーネがいた。
 石畳の上に静かに横たわっている。
 その顔は、戦いの後とは思えぬほど穏やかで、まるで安らかな夢を見ているかのようだった。

「リーネ!」
 
健司は膝をつき、彼女の手を握った。冷たい。けれど、かすかに温もりが残っている。

「……何て顔だ。」
 
アウレリアが呟く。

「まるで、救われたみたいな顔ね。」

「リーネ、頑張ったね。ありがとう。」
 
健司の声が震えた。
 彼女が何と戦ったのかはまだ分からない。だが、全力で誰かを守ろうとしたのだということだけは伝わってきた。

 周囲の空気が重くなった。
 そのとき、背後から重い足音が近づいてきた。

「――そこにいるんだろう?」
 
低く響く声。ラグナだった。

 彼女は鋭い眼差しで周囲を見渡す。

「出てこい、魂の魔女。そして透明の魔女も。」

 空気がひずんだ。
 朝の光が歪み、空間が波打つ。

「……やっぱり、バレてたか。」
 
透き通るような声が空から落ちてきた。
 姿を現したのは、二人。
 漆黒のローブを纏い、冷ややかな笑みを浮かべた女――魂の魔女メルガ。
 その横には、薄い光の膜に包まれたスルネ。透明の魔女。

「ハハハ、はじめまして、みなさん。」
 
メルガは深々と一礼した。

「魂の魔女メルガ、そして透明の魔女スルネ。どう? 絶望の味は。」

 その笑みは美しくも、どこか壊れていた。

「やっと姿を見せたか……!」
 
カテリーナが怒気を帯びて言う。

「よくも……リーネを!」

 エルネアも魔力を高め、風が渦巻いた。
 しかし、健司だけが動かない。
 ただ静かに、メルガを見ていた。

「……絶望?」

 健司が呟いた。

「君たちほどじゃないよ。」

「は?」
 
メルガの眉がぴくりと動いた。

「どういう意味だ?」

「君は、“心がない”と言われたことがあるんじゃないか?」

 その言葉に、空気が止まった。

「……何を言っている。」

「もしかして――誰かを愛したんじゃないか? でも、その人に“心がない”って拒絶された。
 だから、魂を弄ぶんだろ?」

 メルガの瞳が揺れた。
 ほんの一瞬、何かが崩れるように。

「おまえに……何が分かる!」
 
叫びと共に、周囲の地面が爆ぜた。

「拒絶されたんだ! 心も、存在も! 愛なんて――初めからなかった!」

 メルガの叫びは痛みに満ちていた。
 しかし健司は、それを否定しなかった。

「いや、あるさ。」

 穏やかな声で。

「リーネの顔を見れば、分かる。」

 メルガはリーネに視線を向けた。
 眠るような表情。穏やかで、静かで――それは確かに、誰かを信じ切った者の顔だった。

「やめろ……!」
 
メルガが唇を噛みしめた。
 胸の奥で、何かがざわついた。

「そうやって、“愛されること”を信じる顔を、私は壊してきた。
 それなのに――なんで……こんなに……!」

 その声が震えた瞬間、メルガの手が赤黒く光った。

「そうか……絶望を見せてやる。」

 彼女が魔法陣を展開する。
 空間が歪み、冷たい風が吹き抜けた。
 黒い鎖が地面から伸び、空を裂いた。

「《ソウル・ゴースト》――!」

 叫びと共に、鎖の中から三つの光が現れた。
 淡く、儚く、それでいて確かに“人の形”をしていた。

「……まさか。」

 カテリーナが目を見開いた。
 そこに現れたのは――ソレイユ、セレナ、そしてリーネ。

「嘘……魂……?」
 
エルネアが震え声で呟いた。

 ソレイユは穏やかな表情で立ち、セレナはどこか悲しげに目を伏せていた。
 そしてリーネは、まだ何も言葉を持たず、光だけを纏っていた。

 メルガが笑った。

「これはね、彼女たちの魂だよ。」
 
その声は冷たいが、どこか誇らしげでもあった。

「気をつけてね。魂を攻撃すれば――本人にもダメージがいく。」

「卑劣な……!」
 
カテリーナが叫ぶ。

「人の心を、魂を、何だと思ってるの!」

「心? そんなもの、あっても苦しむだけだ!」
 
メルガが叫んだ。

「魂なんて、いくらでも弄べる。壊せる。私が証明してあげる!」

 しかし、スルネは隣で何も言わなかった。
 ただ、じっと健司を見ていた。

 健司は静かに立ち上がった。
 その目には怒りも憎しみもなかった。
 ただ、深い哀しみだけがあった。

「……メルガ。」

 その声に、メルガの魔力が一瞬、乱れた。

「君は、自分で言った。“愛なんてない”って。」

「そうだ!」

「でも――君は今、“愛されなかった”ことを怒っている。」

 沈黙が落ちた。
 その沈黙の中で、誰も動けなかった。
 メルガの肩が震える。目を伏せる。
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