魔女達に愛を

リーゼスリエ

文字の大きさ
200 / 200
クロエ編⑤ミリィ対メルガ

魂に触れた日 ― メルガ対ミリィ ―

しおりを挟む
街を包む霧が、まるで生き物のように蠢いていた。
 空は血のような赤。
 魔女メルガが放った「魂の風」が、街全体を覆っていた。

「メルガ……何をする気だ?」
 
健司が問う。

 メルガは微笑した。その瞳は冷たく、どこか哀しげだった。

「健司。あなたは“愛”を語ったね。
 この世に愛があるって、本気で信じてるの?」

「あるさ。」
 
健司の答えは、短く、迷いがなかった。

「なら――見せてあげる。」

 彼女が手をかざした瞬間、空気が軋んだ。
 霧が渦を巻き、黒い光が街の中心に凝縮する。

「愛なんてものが本当にあるなら、
 これを止めてみせなさい。」

 メルガの声が響いた瞬間、三人の魔法が同時に発動した。
 太陽、月、そして回復。
 それぞれの魔法が融合し、嵐のように健司たちへ襲いかかる。

 爆発の音。
 瓦礫が飛び、地面が裂ける。
 健司達は咄嗟に防御結界を張ったが、力の余波で弾き飛ばされた。

「くっ……!」

 彼の肩を支えたのは、ミリィだった。
 その瞳には、決意の光が宿っていた。

「私が証明してあげる。愛が、あるってことを。」

 メルガが冷笑した。

「小娘が……笑わせないで。おまえも魂の餌食になるだけ。」

 ミリィは静かに一歩、前に出た。

「――ラブ・コントロール。」

 空気が一瞬、柔らかく震えた。
 それは攻撃ではなかった。
 花が咲くような、優しい波動。

 メルガの放った魂たちが、その場で止まった。
 ソレイユ、セレナ、リーネ――その瞳に微かな光が戻る。

「何……? 動かない?」

「ラブ・コントロール。」

ミリィが言った。

「愛が溢れている状態になる魔法よ。
 相手は、動けなくなるの。」

 メルガは唇を噛んだ。

「そんな馬鹿な……!」

 次の瞬間、彼女の周囲に黒い光が溢れた。
 「魂の鎖」がミリィに向かって伸びる。
 だが――ミリィの瞳が一瞬だけ輝いた。

「――マインド・ラブ。」

 柔らかい光が、メルガを包んだ。
 それは暖かく、痛みをもたらすような優しさだった。

「……な、何……これは……?」

「あなたに“愛を与える”暗示よ。」
 
ミリィの声は、どこか遠くで響くようだった。

「あなたが否定した“心”を、見せてあげる。」

 世界が歪む。
 メルガの視界が白く染まり――気づけば、そこは見知らぬ場所だった。

***

 風が吹く。
 丘の上に、健司が立っていた。
 その周りには、数多の魔女たち――カテリーナ、アウレリア、アナスタシア、フラム、そしてソレイユがいた。

 皆が笑っていた。
 戦いの後でも、痛みの中でも、彼らは笑っていた。

 互いに信じ、支え合い、時にぶつかりながら、それでも繋がっていた。
 その姿は、メルガには眩しすぎた。

「……これが、愛?」

 メルガは呟いた。

「でも、まやかしだ。いつか裏切られる。壊れるだけだ。」

 その時、声がした。

「本当にそう?」

 振り返ると、そこに若い頃の自分――まだ魔女になる前のメルガが立っていた。
 白い服を着て、優しい目をしていた。

「あなた、本当は羨ましいんだよね。」

「な……にを言ってる。」

「心から繋がってる人たちが。
 誰かと笑い合えることが。
 本音で話せる関係が――羨ましかったんでしょ?」

 その言葉が、胸を貫いた。
 メルガは息を呑み、膝をついた。

「心……そうか……私が本当に欲しかったのは……」

 言葉にならない感情が、胸の奥から溢れ出した。
 温かくて、苦しくて、懐かしい。

 カーツリッチの顔が浮かぶ。
 失われた街、あの日の風、白い花。
 「感情が乏しい」――あの言葉が、遠い記憶の奥から甦る。

 彼女の頬に、初めて涙が伝った。

***

 現実に戻る。
 メルガは膝をつき、震える手で顔を覆っていた。
 ミリィは静かに立ち、健司は彼女を見つめていた。

「21位の魔女、メルガ……」
 
彼女は震える声で言った。

「私は……初めて、心を知ったよ。」

 涙が頬を伝い、地に落ちた。
 その涙は、まるで光の粒のように輝いていた。

「羨ましかったんだ……健司。
 本音で話し合える関係が。
 誰かに“わかってほしい”って、ずっと思ってたんだ……」

 ミリィがそっと彼女に近づき、肩に手を置いた。

「誰だってそうよ。
 でも、気づいたなら……それでいいんだよ。」

 メルガは微笑んだ。
 弱々しく、けれど確かに“人間らしい”笑顔だった。

「……ありがとう。あなたの“愛の魔法”、負けたよ。」

 その言葉とともに、メルガの身体を包む黒い光が消えていった。
 魂の鎖がほどけ、霧が晴れる。
 リヴィエールの空に、朝日が戻ってくる。

 静寂の中で、メルガは立ち上がった。
 そして、健司を見つめて言った。

「あなたたちの言う“愛”――
 もう少しだけ、信じてみてもいいかもね。」

 その瞳には、わずかに光が宿っていた。
 それは、何年ぶりに取り戻した“心”の光。

 ミリィは微笑み、健司も静かに頷いた。

 夜風が吹く。
 月が彼女の涙を照らし、淡く輝かせた。

 魂の魔女メルガ。
 彼女は、愛の中で――初めて、生き返った。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

側妃に追放された王太子

基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」 正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。 そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。 王の代理が側妃など異例の出来事だ。 「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」 王太子は息を吐いた。 「それが国のためなら」 貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。 無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

勘当された少年と不思議な少女

レイシール
ファンタジー
15歳を迎えた日、ランティスは父親から勘当を言い渡された。 理由は外れスキルを持ってるから… 眼の色が違うだけで気味が悪いと周りから避けられてる少女。 そんな2人が出会って…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

雷王、大いに懊悩す~ラスボス魔王、使命を果たして元の世界に戻りたくない異世界転移チート勇者によって全力で延命させられるの巻~

朽縄咲良
ファンタジー
 ――「要するに、アンタには死なれちゃ困るんだよ。俺が、この異世界で幸せな一生を送って、天寿を全うするまで、な」  魔族を統べる魔王イラ・ギャレマスは、自身の城へと攻め込んできた“伝説の四勇士”の三人、ジェレミィア・ファミィ・エラルティスを、その圧倒的な力を以て圧倒する。  残るは、黒髪黒目の冴えない男――シュータ・ナカムラのみ。  だが……シュータは、魔法陣で三人の仲間を魔王城の遥か彼方へと吹っ飛ばし、ただひとりで魔王と対峙する。  ――そして、二十分後。  不様に大理石の床に這いつくばっていたのは、魔王ギャレマスの方だった。  シュータの繰り出す圧倒的なチート攻撃の前に為す術もないギャレマスは、自身の敗北と迫りくる死を覚悟するが、そんな彼に対し、シュータは不敵な笑みを浮かべながら、意外な提案を持ちかけるのだった――。 「なぁ、魔王。ここはひとつ、手を組もうぜ……!」  『地上最強の生物』だが、めっぽうお人好しで、バカが付くくらいに娘の事を溺愛している中年オヤj……ナイスミドル(忖度)の魔王が、反則級のチートマシマシ異世界転移勇者をはじめとした周囲の者たちに翻弄されまくるコメディファンタジー、ここに開幕!  哀れな魔王の、明日はどっちだ……? (表紙イラストは、ペケさんから戴きました) *小説家になろう・ノベルアッププラスにも、同作品を掲載しております。

母は何処? 父はだぁれ?

穂村満月
ファンタジー
うちは、父3人母2人妹1人の7人家族だ。 産みの母は誰だかわかるが、実父は誰だかわからない。 妹も、実妹なのか不明だ。 そんなよくわからない家族の中で暮らしていたが、ある日突然、実母がいなくなってしまった。 父たちに聞いても、母のことを教えてはくれない。 母は、どこへ行ってしまったんだろう! というところからスタートする、 さて、実父は誰でしょう? というクイズ小説です。 変な家族に揉まれて、主人公が成長する物語でもなく、 家族とのふれあいを描くヒューマンドラマでもありません。 意味のわからない展開から、誰の子なのか想像してもらえたらいいなぁ、と思っております。 前作「死んでないのに異世界転生? 三重苦だけど頑張ります」の完結記念ssの「誰の子産むの?」のアンサーストーリーになります。 もう伏線は回収しきっているので、変なことは起きても謎は何もありません。 単体でも楽しめるように書けたらいいな、と思っておりますが、前作の設定とキャラクターが意味不明すぎて、説明するのが難しすぎました。嫁の夫をお父さんお母さん呼びするのを諦めたり、いろんな変更を行っております。設定全ては持ってこれないことを先にお詫びします。 また、先にこちらを読むと、1話目から前作のネタバレが大量に飛び出すことも、お詫び致します。 「小説家になろう」で連載していたものです。

処理中です...