魔女達に愛を

リーゼスリエ

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アスフォルデの環①ヴェリシア・ローザ

組織に生きる魔女たち

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焚き火の明かりが、ゆらゆらとクロエの横顔を照らしていた。
彼女の瞳は炎を見つめながらも、どこか遠く――過去を見ているようだった。

「健司」

彼の名を呼ぶ声は、風に乗って耳に届いた。
焚き火の向かいに座っていた健司は、顔を上げる。

「ん? どうしたの?」

「ひとつ、忠告しておくわ」
クロエは、炎の影に揺れる顔のまま、低い声で言った。

「魔女の中には……徒党を組んで、“組織”を作っている者たちがいる。国のような体を成している場所もあるわ」

健司は眉をひそめる。

「国、か……」

「ええ。彼女たちは、ただ逃げ隠れしてるだけじゃない。自分たちの力と知恵を使って、結束し、社会を築いているの」
「その中には、外の人間を敵と見なしているところもある」

ルナとミイナも話を聞いていて、緊張が走った。

「それって……敵、ってこと?」ミイナが不安げに問う。

「必ずしも敵対してくるとは限らないわ。ただ……“よそ者”が簡単に受け入れられるとは思わない方がいい」

健司は、少しの間黙り込んだ。
愛を届ける旅――その理想の裏に、現実が静かに顔を出したようだった。

「クロエさんは、その組織のことを……どこまで知ってるの?」

「すべてを知っているわけじゃない。けれど、私が過ごしていた時代にも、幾つかの魔女の国があった」
「その中のひとつは、“血統”によって力を継承する家系で、外部者を徹底的に排除していたわ」

クロエの瞳には、警戒だけでなく、哀しみの色も混じっていた。
おそらく、彼女自身にも、その組織と関わった過去があるのだろう。

「健司、あなたの言う“愛”は、美しい。でも……それが通じない場所もあるのよ。特に、魔女同士の傷や恨みが積み重なった場所では」

「それでも……」
健司は、拳を軽く握った。

「それでも、諦めたくない。僕は“魔女”っていう存在を、ひとつの偏見でまとめたくない」
「力の使い方を間違えても、過去に傷ついても……人として向き合えるって信じてる」

健司の言葉に、クロエは目を細めた。
どこかで聞いたような――そう、かつて愛したレオンが語っていた理想に似ていた。

「理想に殉じた男を、私は一人知っているわ」
「彼は、同じように“誰かを信じたかった”。けれど……命を落としたの」

健司は言葉を失い、黙ってその話を受け止めるしかなかった。

「私は、あなたがそうなるのを見たくないのよ」
「だから、これから出会う魔女たちの中には……あなたの敵になる者がいるかもしれない、そう覚悟しておいて」

焚き火の火がパチンと弾けた。
しばらくして、ルナがそっと手を挙げるようにして口を開いた。

「でもさ……そういう国とか組織にも、きっと“救い”を求めてる魔女はいるよね?」

ミイナも頷く。

「健司さんが出会ってきた私たちみたいに、信じたいって思ってる人も、絶対いると思う」

クロエは、ふたりの言葉を否定はしなかった。
ただ――冷静に現実を見つめる目で告げた。

「ええ、いるわ。でも、そういう“少数派”の魔女は、たいてい、立場が弱いの」
「声を上げれば消される。思いを持てば、裏切り者と呼ばれる。そんな場所で、どう生きるかは……簡単じゃない」

健司はゆっくり立ち上がった。
夜風が、焚き火の煙を押し流していく。

「それでも、僕は行くよ」
「力で支配する国があっても、恐怖で縛る組織があっても……その中に一人でも、心を求めている魔女がいるなら、会いに行く」

クロエは微笑んだ。
その笑みはどこか寂しげで、同時にどこか誇らしげだった。

「そうね。あの人も、きっと、そう言ったわ……」

夜が更けていく中で、風が森を鳴らし、遠くでフクロウの声が響いた。
それでも焚き火の炎は、まっすぐに立ちのぼっていた。

誰かを恐れる夜ではない。
誰かと向き合うための夜が、静かに始まっていた。
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