婚約者の恋

うりぼう

文字の大きさ
35 / 88
6

4

しおりを挟む




悔しい。
悔しすぎる。

「なーんか全然歯ごたえなかったんだけどー」

笑いながら首を傾げるその姿も腹が立つ。
けれど確かにアルの圧勝なのは間違いない。

「全然攻撃出来なかった……」

ええい負けは負けだ。
潔く認めなければ。
最初の一撃しか攻撃を繰り出せなかったのが情けなくてがっくりと項垂れる。

何でだ?
アルが強いのは確かなのだがそれでも結界で防ぎつつ攻撃を仕掛けられたはずだ。
なのに結界で手一杯になってしまい全く攻撃に繋げられない。
今のを振り返ってダメなところを探していると……

「全くなってないな」
「え?」

黙って見ていたリースがぽつりと呟いた。

「何が?」
「……」

それに反応して問うがリースはそっぽを向いたまま答えようとはしない。

よし良い度胸だ。
また無視攻撃だな。だんまりするつもりだな。
おっさんのしつこさナメんじゃねえぞ。

ぴきりと青筋を立て矢継ぎ早にリースへと問おうとしたのだが、その前にダリアに答えられてしまった。

「魔力の調節だ」

ちっ、先に答えるなよ。
とは思うが、答えられてしまったのなら仕方がない。

(っていっても、魔力の調節?)

はて、と首を傾げる。
魔力の調節とはその名の通り、魔法の力を自分で調節するものだ。
自由自在、とまではいかないが、ある程度は自分で好きな量の魔力を放つ事が出来る。
初歩中の初歩で、それこそ4、5歳の子供が学ぶような事だ。
それを今になって全くなってないと言われてしまった。

「調節出来てないってことですか?」
「そうだな、無駄に放出しすぎていると思う」
「あーだから結界はめちゃくちゃ強いのに全然攻撃に回らなかったんだ」
「え?え?嘘だろ、ちゃんと調節してるつもりだったのに」
「無駄があるのは確かだな」

リースとアルに続き、ダリアが溜め息を吐きながら近付いてくる。
そっと差し伸べられた手をじとりと見つめる。

「……一人で立てますけど」
「抱き上げられる方が良いか?」
「遠慮しておきます」

そう言ってダリアの手を無視して一人で立ち上がる。

「そこは素直に手借りれば良いのに」
「骨でも折れてれば借りるよ」
「うーわー素直じゃないんだからー」
「はいはいすいませんねー」

アルと軽口を叩き合っているとリースがきょとんとした顔をしていた。
どうしたのだろうと目を向けるがすぐに視線が逸らされる。

何なんだ?
まあ良いか。
それよりも今は俺の魔力の無駄使いについてだ。

「エル、手を出せ」
「え、何でですか?」
「良いから」
「あ……」

先程とは違い、有無を言わさず手を掴まれる。

「魔力の流れを調べるだけだ。そんなに嫌そうな顔をするな」
「……口で伝えられないんでしょうか」
「実際に感じる方がわかりやすい」

片手に魔法具を握りしめたまま下から包むようにダリアの手が重なる。

「何でも良い、使ってみろ」
「はい」

言われるまま魔力を込める。
この距離で攻撃をするわけにもいかないので、光を浮かべる魔法にした。
これも魔力の調節と同じで初級中の初級の魔法。
暗闇で凄く重宝するんだよな、これ。
懐中電灯いらず。
急な停電にも即対応出来るのが素晴らしい。
ぽわぽわっと俺達の周りにテニスボールくらいの光の玉がいくつも浮かぶ。

「……やはりな」
「え、どこかおかしいですか?」
「光の大きさを調節出来るか?」
「ええと、こうですかね」

大きさの調節、大きさの調節、と。

「……あれ?」
「うわあ、とげとげー」
「え?あれ?何でだ?」

大きくしようとしたら光の玉が中から膨張しているようにうようよと動き安定しない。
アルの言う通りにあちこちとげが生えたような形になってしまっている。
どういう事だとダリアを見上げると。

「見ての通りだ。魔力の調節が出来ていれば……」
「おお……!」
「この通り、大きさも量も自由に操れる」

言葉よりも見せた方が早いとばかりに今度はダリアが光の玉を浮かべる。
色を赤く変えているからどちらがどちらのものなのか一目瞭然だ。

「エルの魔力は安定していないんだ」
「え、そうだったんですか?」
「ここ数か月だけどな」
「良く見ていらっしゃることで」
「エルの事だからな」

はいはい、本当に良く見ていらっしゃる。
しかし魔力が安定していないとは気付かなかった。
あまり無駄に放出しすぎていると魔力切れを起こす場合があるし、体力と同じでだんだんと力が入らなくなり、最悪意識を失う事もある。
今まではそんな事なかったが、大会が始まるといつも以上の魔力を消費するので倒れてしまうかもしれない。
ここにきての問題発覚である。
代表に選ばれたのは単純に魔力量が多いし授業でも活躍していたからという事なのだが、これではいけない。

「ちなみに今の魔力の動きはこんな感じだ」
「うっわ……っ」

ダリアの手から伝わってくる魔力にぞわりと肌が粟立つ。
なんというか、気持ちが悪い。
大きかったり小さかったりつつくように触れたりがっつりと掴まれたり、そんな色々な感覚に襲われる。

「きちんと魔力の調節が出来ているとこうだ」
「……!」

こちらも、目で見るよりも明らかだった。
俺の魔力の使い方を模したのとは全く違う、安定していて物凄く心地良い魔力の流れ方。

「……すごいですね」
「伊達に優勝した訳ではないからな」

強い人には強い人なりの理由があるものだと改めて実感する。

(前は出来てたんだよな?)

ダリアが気になり始めたのは数か月前。
という事は前世を思い出してからという事になる。

今まで抑えていたものが爆発してしまったのだろうか。
純粋に魔法使うのが楽しすぎて、魔力の調節なんて考えていなかった。
それとも前世を思い出した事で何か不都合が生じたのだろうか。
どちらにしろ気を付けなければならない。

「それにしても、その内以前のように戻るかと思ったんだが戻らなかったな」
「それって練習すれば戻りますか?」
「ああ、もちろん。ただ使い慣れているものを根本から変えるから少し時間がかかるかもしれん」
「わかりました、練習します」

時間がかかろうがやるしかない。
大会中に魔力切れで退場なんて情けなさすぎる。
そのくらいの調節は出来るようにならなくては。
今後の為にも!




しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?

麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...