76 / 88
10
2
しおりを挟む「二人ともここにいたんだね」
「リュイさん」
アーシャとこうして話していると必ずと言って良いほど毎回現れるようになったのだ。
今までも竜舎に遊びに来たら顔見せてくれていたけれど、もちろん竜達が優先なのだからこちらにかかりっきりという感じではなかった。
でも最近のリュイさんは今までよりも遥かに長い時間俺達の傍にいる気がする。
そう、俺達。
つまりアーシャがいる時に限って長い時間一緒にいるのだ。
これってつまりそういう事だよな?
モテないおっさんでも流石にわかる。
リュイさんは確実にアーシャを気にしているに違いない。
(ふふ、ふふふ、両思いかあ良いねえ)
男前なリュイさんと可愛らしい雰囲気のアーシャが並ぶと物凄く絵になる。
お似合いだ。
というのも実はこの前リュイさんに呼び止められ、久しぶりに二人きりで話をしたのだ。
※※※
「エル、ちょっと良いかな?」
「リュイさん」
ダリアとの婚約話が落ち着いた直後だった。
「どうしたんですか?」
普段竜舎にいるリュイさんがわざわざ校舎の方に来て声をかけてくるなんて珍しい。
「ちょっとだけ話があるんだけど、良い?」
「もちろんです」
すぐ傍に向かい、廊下の端に寄りリュイさんの言葉を待つ。
リュイさんは少しだけ言い難そうにしていたが、すぐに口を開いた。
「その、アーシャの事なんだけど」
「アーシャ?」
え?アーシャ?
アーシャがどうかしたのだろうか。
「最近良く竜舎に来るようになったでしょう?エルとも良く話しているみたいだから、仲良いのかなって思って」
「!!!」
こ、これは……!!!
ぴーんときた。
これは完全に『最近良く見かける子が気になり始めたけど、でも他の子とも仲良さそうで本人には聞けずその他の子にずばり聞いてどういう関係なのかをこっそりと確かめようとしている』パターンなのでは!?
おおう、こんな少女漫画みたいな展開がまさか俺に降りかかるとは。
ちょっと興奮してしまった。
落ち着け俺。
「アーシャですね、はい、仲良いですよ。最近仲良くなったんです。あっちも竜に興味あるから、それで盛り上がって」
嘘は言っていない。
それ以上にリュイさんに興味あるってだけで、竜に興味があるのは本当だ。
「友達ってこと?」
「はい」
「……そっか」
複雑そうな表情がホッとしたものに変わる。
んんん、これは確実に気になっちゃってるよね!?
アーシャと俺の関係疑うなんて、リュイさんも好きな子相手には随分嫉妬深くなっちゃうんだなあ。
俺とアーシャがどうにかなるなんてありえないのに。
(アーシャはリュイさんが好きなんですよ)
って教えてあげたい!
でも出来ない!
自分の気持ちはちゃんと自分で伝えたいだろうから頑張ってお口にチャックだ。
※※※
なんてやりとりがあって、俺は二人の両思いを確信した。
(いやあ、それにしても傍で見ているだけってのももどかしいもんだな)
恋のキューピッドなんて役、俺には出来るはずもないしそんなチャンスもないと思っていたが、俺にもそれをするチャンスが巡ってきたのかもしれない。
いやでもそういえばダリアには何もするなって釘刺されてたな。
まあ二人が二人だけでどうこうなってくれるのが一番だから俺は暫く見守っていよう。
それにしてもこの二人が付き合う事になったら竜舎に来る回数減らした方が良いかな。
でもユーンには会いたいしなあ。
もう寮の部屋に入れられるサイズじゃないから前のように四六時中は一緒にいられないのが寂しい。
これで会う回数まで減ったら俺はユーン不足で参ってしまう。
(……二人の邪魔しないように通えば良いか)
うんうんそうだなそうしよう。
俺が一人でそんな事を考えている間にも二人は何やら話している。
距離が近いのが二人の関係の近さを現しているようで微笑ましい。
「あ、じゃあ俺はこれで」
「え!?もう!?」
「もっとゆっくりしていけば良いのに」
二人の邪魔にならないようにさっさとユーンの所に退散しようとすると、アーシャもリュイさんも俺を引き止めてくれる。
二人きりになるのが恥ずかしいのかな?
でも今日は思う存分一人でユーンを甘やかすって決めてるからな!
「ユーンが俺を待ってますから」
グッと親指を立てそそくさとユーンの元へ向かう。
その途中ちらりと二人を盗み見たら、しっかりと見つめ合っていた。
(ふふ、ふふふふふ)
我ながら気持ち悪いと思いつつ笑いが止まらない。
「ユーン!お待たせー!」
キュー!!!
そして上機嫌のまま、嬉しそうに翼を広げ待ち構えていたユーンの胸の中に飛び込んだ。
65
あなたにおすすめの小説
お決まりの悪役令息は物語から消えることにします?
麻山おもと
BL
愛読していたblファンタジーものの漫画に転生した主人公は、最推しの悪役令息に転生する。今までとは打って変わって、誰にも興味を示さない主人公に周りが関心を向け始め、執着していく話を書くつもりです。
優秀な婚約者が去った後の世界
月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。
パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。
このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。
【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~
TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】
公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。
しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!?
王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。
これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。
※別で投稿している作品、
『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。
設定と後半の展開が少し変わっています。
※後日譚を追加しました。
後日譚① レイチェル視点→メルド視点
後日譚② 王弟→王→ケイ視点
後日譚③ メルド視点
俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします
椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう!
こうして俺は逃亡することに決めた。
マリオネットが、糸を断つ時。
せんぷう
BL
異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。
オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。
第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。
そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。
『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』
金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。
『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!
許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』
そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。
王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。
『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』
『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』
『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』
しかし、オレは彼に拾われた。
どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。
気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!
しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?
スラム出身、第十一王子の守護魔導師。
これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。
※BL作品
恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。
.
大嫌いなこの世界で
十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。
豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。
昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、
母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。
そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。
王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?
人生2929回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途なαが婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。
・五話完結予定です。
※オメガバースでαが受けっぽいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる