婚約者の恋

うりぼう

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ダリアの婚約者候補の騒ぎがやっと収まり、尾ひれがつけられまくった噂もなんとか落ち着いた今日この頃、俺はいつものように竜舎へと足を運んだ。
騒動の真っ只中でも足繁く通っていたけれど、苛々もやもやが晴れた今何の心配もなくユーンと触れ合えるのが嬉しくて頻度が増えてしまっている。

今日のユーンはどんな様子かなあ。
この頃ユーンは成長期のピークなのか以前の大型犬サイズよりも更に大きくなり、俺の身長を追い越しそうだ。
もう流石に肩に乗せられないし抱っこも出来ないが、相変わらず甘えん坊で可愛い我が子に違いはない。
あともう半年もすれば大人の竜と同じように特大サイズにまで成長するんだろうな。
卵の頃から見守っている身としては感慨深いが、少し寂しくもある。

(お)

そんな事をしみじみ考えながら竜舎に着くと、そこには先客がいた。

「アーシャ」
「エル」

先客はアーシャだった。
以前学園内の大会で対戦した金髪で緑の瞳が眩しい美少年だ。
あの大会の後、よく竜舎でアーシャと会うようになった。
アーシャはリュイさんに会いに、俺はユーンに会いに。
だからしょっちゅう顔を合わせては他愛のない話をして、その内俺達が来た事に気付いたリュイさんがやってきて三人プラス一匹でお茶を飲むというのが定番になりつつある。

今日もやはり来ていたようで、その姿にいつものように声を掛けた。

「今日は早いな」
「まあね」

見るからに美少年!といった風貌のアーシャだが、ユーンと同じく成長期なのか俺より低かった背が同じくらいになっている。
羨ましい。
どうして俺は伸びないんだ。
そういえばダリアもまだ少し伸びているらしい。
あいつあれ以上身長いらないだろ。
俺に寄越してくれれば良いのに。

見上げる角度が僅かにあがっているのを思い出し、思わず舌打ち。

「……ちっ」
「え、何、どうしたの?」
「あ、ごめん。ちょっと思い出し舌打ち」
「何それ」

隣にいるアーシャが突然の舌打ちにびくりとし、俺の返事に訝しげな視線を向ける。
そしてすぐに合点がいったのか、溜め息と共に呆れたような目に変わる。

「まーた王子の事考えてたんでしょ」
「わかる?」
「エルがそんな顔するの、王子の事考えてる時くらいだからね」
「あはっ、そんなにわかりやすい?」

不敬とか今更なので仮にも『王子』を思い浮かべての表情でないとかそういうのは気にしない。

「そういえば王子の婚約者の話落ち着いたの?」
「ん?ああ、まあなるようになった感じかなあ。落ち着いたかどうかはわからないけど」

結局ダリアとベアトリスの婚約は白紙。
ダリアは俺以外と婚約しないと堂々と宣言してしまったものだから無言の圧力を感じるけれど、無理強いをするような態度はない。
むしろその話題には全く触れない。
俺が振り向くのを黙って待っているというか、見守られているというか、まあそんな感じだ。

「ふうん、じゃあ相変わらずエルが第一候補か。いや、第一っていうか唯一?」
「……………………まあ、そうだな」

不本意だ。
大変不本意だと、以前の俺なら声高々に言っていただろう。
でも何故か言えない。
何故かは……

(いや、考えちゃいけない、考えない方が良いやつだこれは)

例の騒動の時から継続して考えないようにしている。
結論が出てしまうのはまだ怖い。
……怖いと思っている時点でもうほとんどの結論は出てしまっているような気がするけれど、考えないったら考えない!

「俺の事は置いといて、アーシャは最近どう?」
「どうって?」
「好きな人と」
「っ、そ、それは……」

あえて名前を伏せて聞くと面白いくらいアーシャの顔が真っ赤になった。
初々しいねえ、最近どうかって聞いただけなのに。
『好きな人』とやらを思い出しただけでこの反応。
いやあ青春だねえ良いねえ。

「何々、何か進展あった?良い感じ?」
「いや、進展とか、そんなんじゃないけど……でも、たくさん話せるようになった、かな」
「へーえ、ふーん」
「ニヤニヤしないで!」

好きな人との場面を思い出しているらしいアーシャの段々と緩む表情を見てこちらも頬が緩む。
ああ可愛い。
恋する若者最高だなあ。
ついつい親目線でほんわか見守ってしまう。

アーシャがリュイさんを好きなのは例の大会で既にわかっている。
最初にリュイさんと話すアーシャ見た時めちゃくちゃ可愛かったなあ。
頬染めて焦って吃ってわたわたしてて緊張しているのが丸わかりだった。

最近では少し慣れてきたのか頬染めてわたわたって感じではないけれど、いい感じに仲良く出来ているんじゃないかと思う。
それにリュイさんも……
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