みどりとあおとあお

うりぼう

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※翠視点



廊下にぽつりと取り残されたオレと晴太。
共に碧に言われたセリフにショックを受けて固まっている。

「……好きな相手って」

何の事だと呆然とする。

好きな人なんて初耳だ。
というか碧の口から誰かを好きになっただなんて今まで聞いた事がなかった。
まだ興味なんてないと思っていた。
母のお腹の中にいる時からずっと一緒で、なんでも同じように一緒にやって、笑うのも泣くのも怒るのも全部同じだったのに。
まだまだ自分だけの碧でいてくれると思っていたのに好きな人とは一体何事か。

いやそれよりも待て。
碧はなんと言っていた。

『翠といると惨めな気持ちになる』
『暫く話したくない』

碧のセリフが頭の中で反芻する。
考えたくないけどこれはもしかして。

「もしかして、オレ、碧に嫌われた?」

どうしよう。
碧がいたからいつも元気でいられたのに。
碧が笑うから、碧が喜ぶから、碧に褒められたいから、碧の自慢の弟になりたいから今まで頑張ってきたのに。
他のみんなはどうだっていい、でも碧に嫌われたら生きていけない。

(なんで……)

考えて、そういえば晴太も何か言われていたなと気付きそちらを見ると、碧の行った方を見てこちらも呆然としていた。
普段大人しい碧があんな風に叫んでいたのに驚いたのだろうか、それとも突然の兄弟喧嘩に巻き込まれたからなのか。

いやそんな事はどうだって良い。
晴太の事よりも今は自分と碧の事の方が大切だ。

でもどうしたら良いのかが全然わからない。
追いかけるべきなのはわかっているのに足が動かない。

(どうしよう……!?)

頭が働かない。
どうしようしか考えられない。

「晴太、どうしよう、なあ」

思わず晴太の制服の腕をぎゅっと握り縋る。
どうしようも何も、晴太は関係ないとわかっているのに聞いてしまう。

だがしかし、後から考えると大元の原因は晴太なのだから、オレの選択は正しかったと言える。

「オレ、碧に何かしたのかな?どうしよう……?」

震えそうになる足を踏ん張り問うと。

「……違う」
「え?」
「違う……オレだ」
「……晴太?」

晴太がぼそりと呟き、腕を掴まれたままずるずるとその場にへたれ込んだ。











※市川視点


初めて会ったのは委員会の席。
翠の双子の兄という事で以前から有名だったから顔は知っていた。
目立つ翠のまるで影のような碧。
同じ顔なのに地味で暗くてつまらない。
確かに一見するとそうかもしれない。
けれどオレの場合は翠がしつこいくらいうざいくらいに自慢してきていたから『碧』の中身も良く知っていた。

好きな本。
好きな音楽。
野良猫を見る度にきょろきょろと辺りを確認して人目がない事を確かめてから構う事。
その時の表情が酷く愛しげで可愛い事。

他にももっともっとたくさんの事を知っている。
知る度に、どんどんと惹かれていった。
自然と目で追いかけるようになった。
そしてふとした瞬間に見えた眼鏡の奥の瞳が細められるその姿に心を奪われた。

だからあの時。

『オレと付き合ってくれない?』

階段の踊場で一人弁当を頬張る姿にチャンスだと思った。
碧を手に入れるチャンスだと。

男同士だし、断られるのは覚悟の上。
断られたら冗談だと流し、それをきっかけにして友達にでもなれれば今はそれでも良いと。
翠にも見せる顔を見せてくれればそれだけで良いと、そう思っていた。

驚いた事に返ってきたのはいいよという色好い返事。
自分でも驚くくらいに舞い上がり、その日の部活は絶好調だった。

それから昼休みの度、登下校の度に碧を迎えに行った。
休日も誘い出し、けれど家にいてのんびりするのが好きだとわかっているから遠出はせずにゆっくりできるところを探したり。
自分の好きなものを薦めたり。
何を察したのか、翠がやたらと付き纏ってくるのには困った。
きっと翠のことだ、オレ達が付き合っているとは言っていないが、突然近付いたオレを怪しんだのだろう。
可愛い碧に余計な虫が付かないかを見張っているような空気を醸し出していた。
事あるごとにいちゃついているのは見ていて正直腹が立ったが、双子なのだから普通の兄弟よりも距離が近いだけなのだろうと、気安く触るなと言い出しそうになる口を必死に抑えた。

ある時を境に翠が何やら用事があるとかで、これを機に少しずつ二人でいるのに慣れさせた。
用事なんてきっと嘘だ。
オレが妙な事をしないか監視して、その気配がないから安心して預けてくれたのだろう。
ここぞとばかりに距離を縮めていくと次第に翠に見せるのと同じような表情も見せてくれるようになった。

そんなある日の事、勇気を出して家に誘った。
断られるかもしれないと思ったが幸運にも返事はイエス。
自分の部屋に碧がいると思うとそれだけで緊張して胸が踊り高鳴ったのを覚えている。
確か最近はまっているという小説の話だっただろうか、一生懸命夢中になって話しているその姿があんまり可愛くて、つい唇を寄せてしまった。

付き合うのは初めてだと言った碧。
きっと唇を合わせたのもオレが初めてなのだろう、がちがちに固まってしまっていたが、それがまた可愛くて愛しくて。
そして、抵抗がなかった事にひっそりと胸を撫でおろした。

それからも何度かそういう事を繰り返し、ついにはとある映画で目に涙を滲ませる横顔に、我慢が出来ず襲ってしまった。
今まで優しくしか触れてなかったのに突然乱暴になってしまったオレに怯え、震える碧に一気に頭が冷えた。

(しまった、なんて事を……!)

無理矢理にするのは望んでいない。
急いてしまった事を謝り、取り繕うように映画の続きを見ようかと促した。

後悔したって遅いけれど、碧の態度がおかしくなったのはこの日から。

そして今日。

『もう終わりにしよう?』

泣きっ面に震える声で言われ、呼吸が止まるかという程に衝撃を受けた。
付き合ってみたはいいものの想像と違ったためにふられたのだと思った。
しかしどうやら違うようだ。

いくら似てても代わりにはなれない。

そう言わなかったか。

(代わりなんて)

誰かの代わりにした事なんて、一度だってなかった。

オレは最初から碧しか見ていなかったんだから。




※市川視点終わり










「ただいま」

あれから数日が経った。

まっすぐ家に帰るのが嫌で色々なところに寄り時間を目一杯潰して、日がとっぷりと暮れてから帰宅した。
玄関の扉を開けぼそりと呟くと、それでも聞こえたのか台所から母がひょっこりと顔を出した。

「おかえりー、すぐご飯だからね」
「んー」

母にやる気のない返事をしながら靴を脱いでいると。

「ただいま……あ」
「……」


タイミング良く翠も帰ってきた。
玄関先で暫し無言のまま見つめ合う。
まともに目を合わせたのは数日ぶりのことだ。

「あ、碧」

つい、とこちらから目を逸らす。
 
「碧」
「……」
「あ……」

靴を脱ぐのに手間取って慌てて追い、呼び掛ける声を無視してドアを閉める。
ばたばたと廊下を走り階段を駆け上る音、そして静かにしなさいと怒る母の声がその向こうから聞こえた。
高校生になって初めて出来た自分の部屋がこれ程ありがたかった事はない。

鞄を投げ出しベッドに突っ伏す。

二人を避けるようになったら驚く程学校で話す事がなくなった。
いかに自分自身の友人が少ないかを知り悲しくもなったが、余計な詮索をされないことがありがたかった。

翠も市川もずっと何か話したそうにしていたけれど、見ないふりをした。

最初のうちはみんなが翠しか見ていないことへの苛立ちや悲しみが前に出て、募り募ったものをつい吐き出してしまったのだが今思うとあれはただの八つ当たりに過ぎない。

(わかってたけどさ)

他の誰でもない、市川がやはり翠の事を好いていること。
最初からわかっていたけれど改めて痛感するはめになったのはひとえに自分が呆けに呆けて市川に酔っていたからである。
後悔はしていないけれど、ショックは大きい。

(翠も……)

翠も市川が好きなのだろうか。

翠の周りにはたくさんの人が溢れていて、良い人も中にはどうしても好きになれない人もいるだろう。
けれど、よりによってその大勢の中から市川を、自分が好きになってしまった相手を選ばなくても良いじゃないかと。

「……」

考えて、大きな溜め息を吐き出す。

バカだ。
そんなのありえるはずがない。
翠の市川に対する態度はどう考えても友人に対するそれだ。

(……謝らなきゃ)

勝手な想像で喚き散らして翠を傷付けた。
これまで何度も思ったには思ったけれど、謝るタイミングがつかめない。
話そうとしても変な意地がそれを邪魔する。

いっその事誰かきっかけを作ってはくれないだろうかと他力本願にも程があることん思い枕に顔をすり付けると。

「こら!碧!」
「!?」

バターン!と、大きな音を立ててドアが開いた。
部屋へと入ってきたのは、眉を吊り上げ片手を腰に当てもう片方の手で翠の首根っこを掴んだ母だった。
上体を起こすと畳み掛けるように怒鳴られた。

「全く、何があったか知らないけどいつまでもふてくされてないで早く仲直りしなさい!」
「……」
「翠も!どうせまたあんたがいたずらでもしたんでしょ!?さっさと謝りなさい!」
「母さん痛い!」
「返事!」
「っ、はい」
「碧は!?」
「……かも
「碧!」
「は、はい」
「よし、仲直りするまでご飯抜きだからね!ちゃんと二人で降りてきなさいよ!」

言うだけ言って母は階下へと降りていく。
まるで嵐だ。
それにしては一瞬で過ぎ去ってくれたけど。

「……」
「……」


気まずい雰囲気。
誰かきっかけをくれないかと思ってはいたけれど急すぎる。

「……」

翠の口が開いては閉じてはまた開きそして閉じ。
やがて覚悟を決め、沈黙を破り先に言葉を発したのは……

「……碧」

翠の方だった。




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