高塚くんと森くん

うりぼう

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顔はやめてボディにして

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「……ダメ、かな」
「え、と」

突然の申し出に、訳がわからず一瞬思考が停止した。







※高塚くん視点


「わー……」

雨が降る事は知っていた。
だが朝家を出る時はそれはもう眩しい太陽が顔を覗かせていて、雲一つない空だったから降るにしても夕方から夜にかけてだろうと高をくくっていたのがいけなかった。

四時間目の終わり頃にはどんよりと暗くなり始め、明るかった空は嘘のように厚い雲に覆われた。
昼休みを過ぎ五時間目が始まる頃には既に土砂降り。
放課後までその勢いは止むことなく、傘を持たないオレはどうしたものかと教室の窓に額を預けるハメになった。

(誰かに入れてもらう…っても男と相合い傘なんて冗談じゃねえしなあ)

さっきから女の子達が一緒にと誘ってくれているけど、そんな気分じゃない。
というか是非とも一緒に帰りたいコはいるのだが既に拒否され済み。
冷たいんだからもう。

「あーあ、どうしようかなあ……」

どでかい独り言の後に、はーあ、と溜め息を吐いたところで背後に気配が。
というかドアの開く音がしてそちらを振り向く。

「森ちゃん」
「……げ」

入ってきたのはとっくに帰っていたと思っていた森。
嫌そうに顔をしかめたのは見なかった事にする。

「なんだよまだ残ってたの?あ、オレと一緒に帰ろうとしてくれたとか?」
「んなわけねえだろうが呼び出されてたんだよ」

満面に笑みを浮かべて問うと、溜息を吐きながらのなんとも可愛くないお返事。
たまには可愛く首を傾げちゃったりなんかして「一緒に帰ろ」とかハートマーク付きで言ってくれても良いんじゃないだろうか。
まあやらないのが森なんだけど。

それにしても気になる単語があった気がする。

「……呼び出し?」
「あ」

疑問をそのまま口にすると、森の体が不自然に揺れる。

「……」
「もーりーちゃん?」
「な、なんだよ」

鞄を取りに窓際の席まできた森の背後に詰め寄る。
目と鼻の先にある後ろ姿に抱きつきたい衝動に駆られた。

「なーに隠してんのかなあ?」
「べ、別に、なんも隠してねえよ!」
「んー?」

言いながら鞄の中に筆記用具やらをぐちゃぐちゃに放り込む森。
怪しすぎる。

「つーか、お前に話す必要ねえし!」

確かにその通りなのだけれど、こうも頑なに拒否されると意地でも聞き出してやりたい。
というか単に森の事を何でも知っておきたいだけなのだが。

「教えてほしいなー」
「嫌だ」
「ねー」
「だから、嫌だっつって……ッ」

しつこいと振り向こうとした顔の両側から手を伸ばし、胸に抱き込み体重をかける。
先程よりも大きく震える体は征服したいという欲求を沸き起こすには十分すぎるくらいに十分だった。
押し倒してぐちゃぐちゃに溶かしてしまいたいと喉が鳴りそうになったが、今は我慢我慢。

「な、何してんだよ離せ!重い!」
「イヤ」

案の定森はじたばた暴れたけれど、聞くまでは離しません。

「高塚!おま、マジで離せよ暑苦しい!」
「だーかーら、イヤだってば」
「ざけんな変態!」
「変態だもーん。ところで森ちゃん、呼び出しって誰から?」
「……っ」

こういう時は普段の倍以上騒いで暴れて怒鳴りまくる森が珍しく言葉に詰まり固まった。
これは相当言いたくないんだろうかなあ。

「言わないとちゅーしちゃうよ?」
「は?」

物凄く嫌そうに眉を寄せてこっちを見る。
元々くっついているから顔同士がかなり近い。
これはマジでちゅーしちゃいそう。

「ち、近……っ」
「ほらほら言わないとほんとにやっちゃうよ?」
「ざけんな……ってだから近い近い!」

ぐぐぐ、と僅かな距離を詰めると額と頬を手の平で押し返される。

あ、ちょっと、髪引っ張ったり爪立てたりは勘弁、地味に痛い。
このままでは足の甲を踏まれるのも近いなと感じ、徐にカウントダウン開始。

「はい、さーん」
「っ、ゲ」

森はオレの声に顔を青醒めさせ口元を引き吊らせた。

「にーい」
「ちょっと待っ」
「いー」
「ッ、わかった!言う!言うから離れろおおお!!」
「ちっ」
「舌打ちしてんじゃねえぞコラ」

どうせならちゅーした後に折れてくれれば良いのにと思わずしてしまった舌打ちに、憎々しげな視線を寄越される。
まあしようと思えば出来たのだけど、結果しなかったのだからこちらとしては誉めてほしいくらいだ。

「……おい、離せっつってんだけど」
「ちゅーはしないけど離しません」
「……っ」

睨まれても怖くなんてありません。
むしろ可愛すぎます斜め下からの上目遣い。
いただいていいんですかねえちょっと。
いただいちゃいますよ!?
我慢するけど!

「はい、じゃあ誰に呼び出しくらって何してたのかさっくり吐いてみようか」
「……」
「……」
「……」
「……往生際が悪いぞ森ちゃん」
「よくそんな難しい言葉知ってたな」
「森、オレの事どんだけバカだと思ってんの」
「果てしなく」
「話逸らそうとしてもダメだよ」
「ちっ」

今度は森が舌打ち。
あわよくばと思っていたのだろう。
甘い甘い。

「さ、吐け」
「……聞いても楽しくもなんともねえぞ?」
「良いから早く」

こっちとしてはこのままひっついてても全然全く構わないんだけどね。
あーそれにしてもすんげえイイ匂いする森の髪の毛。

「誰に呼び出されてたの?」
「三年の、羽島とかいう先輩」
「知り合い?」
「いや、今日が初」
「男?女?」
「……男」
「……ふうん」

尋問するような形になったがなんだかんだで素直に答えてしまっている森。
ちょっと楽しくなってきた。

けど、他の男と一緒だったというのが嫌で。
そもそも三年が森に一体何の用だと、すっと目を細めてしまった。

「?な、なんかお前怒ってねえ?」

それを敏感に感じ取りおずおずと様子を伺う森。
あーもう、だからそんな可愛い態度とったら大変な事になるって言ってるのに。

「んーん、怒ってないよ」
「でも、なんか」
「そんで、その羽島とかいうのが森ちゃんに何の用だったの?」

言葉を遮りにっこりと促せば、森は一瞬息を飲み、瞼を伏せ目を泳がせる。

「……や、その」
「うん?」
「なんつーか」
「うん?」
「…………………………た」
「……何?」

聞こえなくて聞き返すと、

「だ、だから」
「うん」
「こ……っ」
「こ?」
「…………………………告、られた」
「…………は?」

え、今このこ何て言った?
告……って、え!?

「はッ!?」
「わっ!?」

驚きすぎて、思わず森の体を離しこちらを向かせ正面から両肩を掴み問いつめる。
耳元での大声や突然体を回転させられたことに森も驚いている様子。

「こ、告白!?三年から!?何それオッケーしてないよね!?」
「するわけねえだろうが相手男だぞ」
「オレも男だもん!」
「もんとか言ってんじゃねえよキモイ。つか付き合ってねえし」
「はっ、もしかして押し倒されたりとか……!」
「みんながみんなお前みたいな性欲の塊だと思うなよ」
「でも、森可愛いし何気に細いし小さいしとにかくすっげえかわ」
「喧嘩売ってんのかお前えええ!!!」
「ぐっは!」

細い体を捻りその勢いで繰り出す渾身の拳が頬にヒット。
毎回毎回思うけどかなり痛い。

ていうかオレの顔殴るのなんて森くらいだよ全くもう。
石野達ですら顔以外取り柄なんてないからと、嫌み混じりだが頭かボディ狙ってくるのに。

「つか、お前がそんなんだから変な勘違いする野郎が現れんだろうが!」
「だって森が可愛いのは事実だも」
「黙れえええ!お前、あの三年が何つったかわかるか!?高塚でダメなら顔じゃなくて体だろって、オレみたいなのどう、とか言ってきやがったんだぞ!?ああああっ思い出すだけで鳥肌立つあの筋肉ばか!!!」

初対面の先輩に対して酷い言い様。
聞いたところによると、呼び出されて告白をされ、訳がわからずに固まってしまった森。

『高塚とは付き合ってないんだろ?なら、オレにも望みあるんじゃないかと思って』

と、困惑する森に最初はしおらしかった体育会系バカは押し倒しはしなかったものの突然掴みかかってきたらしく。
その時の顔がかなり気持ち悪くてオレにしたのよりも更に威力を増した拳をぶつけ、二度と話し掛けるなという旨を伝えて走り去ってきたらしい。

「……良かったああ、断ったのかよビビらせんなよ!」

本当に良かったと脱力するオレに森は呆れた表情を向ける。

「つーか、なんで男に告られてオッケーすると思うんだよ。バカか。アホか」

そうは言われても心配なものは心配。
例え男相手だとしても、森がオレ以外の奴と二人っきりでしかも告白なんてされていたら心配に決まっている。

ていうかオレも男だし且つオッケーさせようと思ってるし。
超頑張ってるし。

「あとヤラレてなくて良かった」
「あのなあ、オレ男の子なの、ほいほいケツ掘らせてたまるかっつんだ」
「あああちくしょう男前だな森!惚れ直した!」
「超迷惑!」

また抱き付こうとしたのを拒否されてしまった。

その後鞄を手に、これ以上ここに用はないとそそくさと教室を出ようとする森。

「じゃあオレ帰るから」
「えっ」

思わず声をあげてしまった。
え、帰っちゃうの?
一人で?

「なんだよ?」
「え、いや」
「……………ああ」

口ごもると、暫く考えた後。
ちょうど窓の方を向くように立っていた森は外の様子を見て合点がいったと頷く。

「そういや傘ねえんだっけか。午後から降水確率90パーなのに傘置いてきたんだっけか。とんだおばかさんだよな」

鼻で笑いながら言う。
小憎たらしいのに可愛いのがなんともムカつくところである。

日中頼んだ時も同じようにバカにされましたとも、ええ。

「お願いっ森ちゃん一緒に帰ろ!」
「嫌だ」
「いっつも一緒じゃん!」
「お前が勝手に付いてきてるだけだろ」
「いやあ、やっぱ好きなコとは離れ難いっていうか」
「じゃあな」
「わーっ待って待って待って!」

言ってすぐに歩き出してしまった森を、自分の鞄を手に慌てて追い掛ける。
足りないオツムをフル稼働させて何とか一緒に帰る術、もとい良い理由はないかを考えた。

(……あ)

すると、階段を下り下駄箱の前に着いたあたりで、例の三年らしき人物が玄関先にいるのを見付けてしまった。
誰かを待っているようで、そわそわと落ち着きなく。
背はオレより少し小さいくらいのガタイの良い、お世辞にもカッコ良いとは言えない容姿をした男だった。

これを使わないテはないだろう。

「森」

靴を履き替えた森の腕を背後から掴む。

「……なんだよ、離せ」
「今日はオレと一緒に帰った方が良いと思うな」
「は?」

何故そうなる、と訝しげな様子。
耳元に口を寄せて、羽島らしき奴がいる事を小声で告げると、逃げようともがいていたその身が止まった。

「アイツでしょ?筋肉バカ」
「……げ」

あからさまに嫌そうな表情でオレの読みが当たりな事を知る。
良かった外れてなくて。

「あの様子じゃ諦めきれなくて待ち伏せしてるって感じだね」
「最悪」
「どうする?このまま一人で帰ったら今度は掴みかかられるだけじゃ済まないかもよ?」
「……」

森が必死に考えているのがわかる。
あと一押し。

「後ろからいきなり突き飛ばされて押し倒されて……ってなるかもしれないよね」

いくら森の拳の威力が凄くても、あんな筋肉の塊みたいな奴に倒されて上から押さえつけられては適わないだろう。
それを理解出来ない森ではない。

「オレが一緒なら手出されないだろうし、もしかしたら諦めてくれるかもしれないよね」
「なんで」
「だって向こうはオレと付き合ってないって思ってるんでしょ?だったらオレとらぶらぶだって見せつけちゃえばいいじゃーん」
「らっ、は!?」
「だから、一緒に帰ろ?ね?」
「……」

らぶらぶ発言に若干とっかかりを感じていたようだが、渋々ながらも頷く森がいた。

まああの三年がいなくても、こんな土砂降りの中、森の事だから見るに見かねて傘に入れてくれるだろうけど。
それにしても役得役得。

「ほら、もっとくっついて」
「っ、おま、あんま調子こいてんじゃねえぞ!?」
「見てるよ、先輩」
「っ、クソ……!」

悪態をつきながらも素直に従ってしまう森にへにゃりと顔が緩むのが抑えきれない。

他の奴から見たらただの友達同士に見えるのだろうが、きっと奴にはいちゃいちゃしているように見えるのだろう。
一つの傘の下、密着した状態でちらりと背後を確認すると、遠目にもわかるくらいに悔しそうな男の姿が見えて、

(へっ、ざまーみろってんだ)

と、ニヤリとほくそ笑むと同時に。
これは暫く使えるかも、なんて思ってしまった。






end.

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