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番外編
バレンタイン
しおりを挟むそれはバレンタインを間近に控えたとある日の事。
思考の九十パーセント以上を占めるのはやはり大好きなあの子のことで、果たして明日は彼からチョコを貰えるのかどうか。
「森ちゃんから貰えるかな?な?」
「無理だろ」
「なんでさ!」
「森がバレンタインにチョコやるようなタイプかよ。つかそれ以前に男にやるかよ」
「わかんねーじゃん!もしかしたら貰えるかもしれないだろ!?貰ったらどうしよう!嬉しい、ありがとう、とか?勢い余って抱き締めたりちゅーしたりもありかな!?」
「はっ、ありえねえ」
貰える確率なんてこれっぽっちもないのに夢見てんじゃねえよと鼻で笑われる。
石野め。
「でも欲しいーっ」
「無理だな」
「欲しい欲しい欲しい!」
「うるせえ」
「……あ!つかオレからあげたらいいんじゃん!」
逆チョコなんてものが流行っているのだからオレが森にあげたってなんの不思議もない。
そうだそうだその手があったと、早速面倒がる石野を引きずりチョコを買いに行く。
女の子だらけの売り場でかなり目立っていたけれど気にしない。
(ふふふ、森ちゃん喜んでくれるかなー)
明らかに本名とわかるちょっと奮発した美味しそうなチョコを買い、いざバレンタインデー当日。
「森ちゃん、おっはよー!」
登校してすぐいつものように真っ先に森の元へと直行し、チョコを渡そうとしたのだが。
「おはよう。ちょうど良かった。ん、これ」
「え?」
挨拶と共にずい、と無造作に差し出された可愛らしいオレンジ色の小さな包み。
反射的に受け取ってはみたものの、何事かわからずに数秒包みを見て。
「!!!!」
まさかと期待して森を見る。
「も、も、ももも森ちゃんこれってもしかして……!?」
今日という日にプレゼントなんてこれはもうアレしかないだろう。
アレってアレだ。
甘い甘い、
「チョコ」
「マジでええええ!?!?!?」
思わず叫んでしまった。
嘘本当にそうなの本当にマジでチョコ!?
一気にテンションが上がる。
やだどうしようあげる前に貰っちゃった!
「オレに!?」
「お前以外に誰がいるんだよ」
さらりと言われて更に驚く。
「だ、だ、だってだって森がオレにチョコって……!」
「は?オレ?」
「え?」
きょとん、と目を瞬かせる森につられる。
「え、だってこれ森からでしょ?」
「はあ?違えよバカなんでオレがお前にあげなきゃなんねえんだよ」
なんでも何もじゃあ今さっき手渡してくれたこれは一体なんだというのか。
「それ、三組の阿部さんから」
「は」
「ぶは……ッ」
いつの間にいたのか石野が盛大に吹き出す。
睨んでみたがそれどころじゃない。
「さっき頼まれたんだよ、渡してくれって」
「はああ!?何それえええ!?」
「だからチョコだって」
「違ーう!!なんで頼まれてくんのそういう事を!?そんでなんで何でもないみたいにくれちゃうかなあ!?」
「なんだよ、何そんな怒ってんだよ」
チョコ貰えて良かったじゃん、さすがモテる男は違うな、なんて言われても嬉しくもなんともない。
オレは、オレは、
「森ちゃんからチョコ貰いたかったのにいいい!!!!!」
三組の阿部さんなんて初めましての相手からよりも、愛しの愛しの森からのが何倍も何百倍も何千倍も比べものにならないくらい嬉しいに決まっている。
じたばたと子供のように駄々をこねると、やはりというか、非常に冷めた目でもって返された。
「ばっっかじゃねえの?なんでオレが?よりによって今日?お前に?あげるわけねえじゃん」
「だから欲しいんじゃんだから欲しいんじゃんだから欲しいんじゃんんんん!!!」
「うっるさ」
ああもうその眉を寄せて心底うざそうで嫌そうな顔まで堪らなく可愛い。
「つかお前いっぱい貰ってんじゃん。まだ欲しいの?」
確かにいっぱい貰った。
まだ朝だけど来る途中とかにも貰ったし下駄箱の中にも大量に入ってたけどそれとこれとは訳が違う。
「森からのが欲しいの!」
「だから嫌だって」
「……っ」
「つーかオレが欲しいくらいだっつのになんでみんなこんな変態にばっかりやるんだよありえねえ」
ちぇ、なんて唇を尖らせてぼそりと呟く森。
何その顔可愛い。
その唇はむっと食べてしまいたい。
いやむしろ食べられたくて尖らせているのでは???
というのはまあさておき。
「……欲しいの?」
「欲しい」
「っ、あげちゃうー!もうもういくらでもあげちゃう!」
「ちょっ、わっ、バカ、これお前が貰ったやつだろ!?」
ばっさばさと今日これまでの収穫を森に差し出したら怒られた。
「なんで怒ってんの?」
「なっ、ばっ、これは皆がお前のためにって一生懸命作ったり選んだりしたやつだろ!?ほいほい誰かに渡してんじゃねえよ!くれた子に失礼だろうが!受け取ったんだからそれはお前がちゃんと全部責任持って食え!」
「……あ、そっか」
そりゃそうだ。
オレだってオレのあげたやつを森が他の誰かにあげちゃったら悲しくて仕方がない。
(……あ)
ここで自分も森にチョコを買っていたのだと思い出した。
森から手渡しされたのが衝撃的すぎてすっかり忘れてしまっていた。
慌ててそれを手に取り差し出す。
「はい!」
「だから人から貰ったもんは……」
「違う違う!これはオレが森にあげるために買ったやつ!」
「………は?」
「オレの気持ち受け取って!」
「いらね」
「ちょっ、受け取ってくれるくらい良いじゃん!」
「嫌だ。じゃあ石野にやる」
「さっきと言ってる事が違ううううう!!!」
森によりオレの手から石野の手へと渡ったチョコ。
貰ったものは人に渡すな自分で責任持って食べろって言ったばかりのくせに!
「オレは受け取ってない。石野に手渡しただけ」
「何その屁理屈!ちゃんと貰ってちゃんと食べてよ!」
「なんか変なもん入ってそうだから嫌」
「入ってないよ買ってきたやつなんだから!」
「でも、や」
「……っ、っ」
べ、と舌を出して頑なに拒絶する森。
(だっからもう可愛いなもうその舌に絡めたいオレの指とか舌とかアレとか舐めさせたいああああああ……ッ)
悶々としていると、仕方ねえなと小さな溜息が斜め前から聞こえた。
石野の声だというのはわかるけど、何が仕方ないんだろうと首を傾げた瞬間。
「森」
「ん?」
「あーん」
「あー?」
「!!!!?」
目の前で、森が石野に言われるがまま口を開けされるがまま中にチョコを放り込まれているではないか。
「な、な、何してんのーっ!?」
「あ、うまい」
「だろ?」
「石野このやろ……!」
オレの森になんて羨ましい事してくれちゃってんのねえそんでなんで森も素直に食べちゃってんの!?ていうか石野ってば興味ないふりして森狙ってたわけ!?いつの間にチョコなんて用意してたんだ!?
めらめらと嫉妬の炎を燃やし石野を睨み付けると、呆れたような目が返ってきた。
「ばか、良く見ろ」
「何……?」
何を良く見ろと言うのだろうかと石野の手元を見ると、それはオレが森へと上げたチョコ。
包みが開けられ中身は当然減っている。
ということは。
「!!!」
森が食べたのはオレが買ってきたやつだ!
見るに見かねて協力してくれたのだろうかと目で伺うと、口の端だけを上げ実に男前な笑みを返された。
「石野くんありがとう愛してる!けど森にあーんってすんのはオレだから!そんで手についた溶けたチョコ舐めてもらうのもオレだから!」
「寝言は寝て言え」
石野の協力に感謝しつつも妄想全開。
先程オレと同じタイミングで食べたチョコがオレからのだと気付いたものの、本当においしかったのかそれとも既に一つ食べてしまったからどうでも良くなったのか、残りをさっさと啄む森に尻を蹴り上げられてしまった。
何はともあれハッピーバレンタイン!
終わり
1
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