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しおりを挟む「す、き?」
「ああ」
「俺を?」
「そうだ」
俺は夢を見ているのだろうか。
実はもう既に処刑されていて、その中でほんの少しの希望に縋っているのだろうか。
それとも魔法がかかっていないなんて真っ赤な嘘で、実はまだ魔法が解けていないのではないか。
即座にそんな事を考えてしまった。
「言っとくが、夢でもまだ魔法が解けていない訳でもないからな」
「!どうして……!」
「何となくだ。図星か」
「……っ」
「ふっ、わかりやすいな」
「でも、どうして……?俺はレイノ様に好かれるところなんてどこも……」
そうだ、レイノ様に好かれるところなんて何もない。
容姿も普通。
魔法の才能もあまりない。
声をかけられれば答えるが、人とコミュニケーションを取るのは苦手だ。
明るい性格とは言えないし、友達も少ない。
地位はもちろん財力なんて一握りもない。
そもそも俺がレイノ様に惚れるきっかけはたくさんあれど、レイノ様が俺を気にかける場面などどこにもなかったはずだ。
全く接点という接点がなかったのだから。
レイノ様は俺のどこを見てそんな風に言って下さっているのだろう。
「一目惚れだ」
「え?」
「……前に、街でタチの悪いのに絡まれてただろ」
「……はい」
レイノ様と初めて会った時の事だ。
あの日は体調が悪く、いつものように雑用に出た先で酔っ払いに思いきりぶつかってしまったのだ。
大声で怒鳴ってくるその人の声が頭に響き、うまく返せず。
胸倉を掴まれ殴られそうになっていたところをたまたま通りがかったレイノ様に助けてもらった。
「あの時、俺はいつもの外面を投げて今みたいな口調でお前に話かけた」
「そうだったんですか?」
「覚えてねえのもムリはねえな。お前、あの後高熱出してぶっ倒れたんだろ?」
「……はい」
「いつもならよ、この見た目に騙された連中はこの口調で話し出すと全員幻滅するんだ」
「幻滅、ですか?」
「そんな乱暴な人だと思わなかった、とか。下品な話し方だ、とかな」
「そんな……!」
口調が乱暴でもそうでなくてもレイノ様はレイノ様だ。
それだけで人柄が変わるわけではない。
「ああ、お前はあの時もそう言った」
「え?」
「『助けて下さってありがとうございます。いつものレイノ様も素敵ですが、こちらのレイノ様も新鮮で素敵ですね』」
「!」
「お前はぼけーっとしながら俺にそう言ったんだ。それだけでこの百戦錬磨の俺が一瞬で落とされた」
「そ、そうだったんですか!?」
助けてもらった事は覚えているのにその後のやりとりを覚えていないなんて、なんて間抜けなんだ。
レイノ様の貴重なお姿を忘れてしまうなんて……!
もったいない!
「……ですが、レイノ様は俺と目を合わせてくれませんでしたよね?合ったとしてもすぐに顔も逸らされましたし……」
「それはお前……」
あの時助けてくださったレイノ様に改めてお礼を言おうとしたが、目を逸らされ不快そうに眉を寄せるレイノ様に近付く事が出来ず、結局お手紙でのお礼となってしまった。
そのことを告げるともごもごと口籠るレイノ様。
こんな姿も珍しい。
レイノ様の言葉を漏らすまいとその口が開くのを待っていると。
「て、照れてたんだよ」
「……え?」
「だから、お前があんまり可愛い顔でこっち見てるから、照れてたんだっつーの!!」
「…………ええ!?」
レイノ様の言葉に驚き声をあげる。
「庭にお前が来た時、チャンスだと思った。でもお前は毎回すぐに逃げちまうし」
「それは、レイノ様は一人でここにいるのが好きだと聞いたので……」
「まあな。お前と出会う前は確かにそうだった。でももう違う」
「!」
掴まれていた腕ごと引き寄せられ、腰を強く抱かれる。
「ニコ」
「は、はい」
「魔法の事は誰にも言ってない」
「!」
「俺には効いてないんだから、報告する義務もねえだろ」
「でも……!」
「それだけ俺が欲しかったんだろ?」
「……っ」
「俺はそれが嬉しかった。俺もお前が欲しかったからな。だから魔法にかかったフリをしたんだ。きっかけなんてなかったし、そうして既成事実さえ作っちまえばお前は逃げられないと思ったからな」
「既成事実って……っ」
「こういう事だ」
「ん……ッ!?」
唇を塞がれた。
「れ、レイノ様……!?」
「もちろん、これ以上もだけどな」
「……っ、っ」
「まさかあそこで逃げ出すとは思わなかった」
「す、すいません……!」
「それはもう良い」
何度も謝ってしまう俺を、レイノ様は苦笑いで制す。
「だが、これからはもう拒むなよ」
「あ……っ」
「これから先、この唇も、この身体も、全てが俺の物だ」
「レイノ様……っ」
「一日だけじゃ足りない。これから一生、俺を縛り付ける事が出来るのはお前だけだ」
「……ッ」
「わかったか?」
「……っ、はい!」
抱き締められ、真剣な目に見つめられてのその言葉の数々に、俺は一も二もなく頷いた。
たった一日だけの魔法は効いていなかった。
魔法のせいで告げられていたと思っていたセリフにはただ胸が痛むだけだったのだが。
「ニコ、好きだ」
「俺も、レイノ様が大好きです」
魔法のせいではない、彼の本心からの言葉はこんなにも俺を幸福にさせた。
終わり
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