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しおりを挟む「よおバカップル」
「「!」」
翌日……は、諸々の事情で二人とも大学には行けなかったのでその更に翌日。
ユキの家から直接大学に行き、敷地内を歩いていたところでミヤが背後から声を掛けてきた。
「誰がバカップルだよ」
近寄りながらのセリフに眉を寄せたが、返ってきたのは普段と変わらぬ笑み。
この笑みには何故か全てを見透かされているようでたまに怖い。
「色々聞かれた?」
「……」
講義の真っ最中に席を立ち、引きずるように俺を連れて行ったユキの姿はそれはもう目立っていたらしい。
退屈な日常を過ごしていた連中に最高の暇潰しのネタを提供してしまったようだ。
喧嘩か、原因は何だと騒ぎ立てられ。
元は女たらしのユキだったから、女の取り合いかという意見が最有力候補のようだ。
やれどんな女を取り合ったんだとか仲が良いから好みも同じなのかとかもう仲直りしたのかとか女とはどうなったんだとか、それはもうミヤと会う前に色々と声をかけられ根掘り葉掘り聞かれた。
本当の理由を言えるわけじゃないから適当にごまかしたけれど。
ちなみにあの女についてはしっかりと説明してもらった。
そういえば前からちくちくと絡んできていたなあと思い出す。
(俺達が付き合ってるのに気付かれていたとは思わなかったけど)
でもそれで脅されたからってデートなんてしなくても良いじゃないか。
ユキにその気がないのは理解したけど、やはりその一点だけはどうしても気になってしまい、今後同じような事があったら絶対に相談するという約束を取り付けた。
俺としても誤解で即座に別れ話に繋げてしまったのは短気すぎたと反省した所だ。
『ごめん、俺が最初にちゃんと話聞けば良かったんだよな』
『ううん、誤解されるような行動した俺が悪い。場所も最悪だったし』
『……ん』
『それに酷い事言ったのは確かだし』
『……』
ユキによると俺に他に好きな人が出来たと思ったから嫉妬にかられてついあんなセリフを言ってしまったとの事。
もちろん言われた事は未だに少し棘になって刺さっているが、俺も同じようにユキの気持ちを信じず勝手に決め付けて『俺なんかより女の方がお似合い』だのなんだの言ってしまったのでおあいこだろう。
おあいこ、という事にした。
「あっはっはっ、まさか痴話喧嘩でした、なんて言えないもんな」
「ばかっ!しー!」
「おおうっ」
普通に痴話喧嘩なんて言うもんだから、慌ててミヤの口を両手で塞いだ。
「声がでかい!!」
「気にしすぎだって。シマの方が声デカいしこの状況の方が目立つぞ」
「お前は気にしなさすぎ……!!!」
小声でミヤに詰め寄ると、背後から手を掴まれべりっと引き離された。
何だと振り向くと、ユキがむっつりとむくれながら一言。
「近い」
「……は?」
「ぶは!!!」
ミヤが盛大に吹き出した。
俺はというと、ぽかんとした後に今の状態を理解した。
顔に熱が集中するのがわかる。
「やっぱりバカップルじゃん」
「っ、だから!」
「良いじゃんバカップルで。らぶらぶでしょ?」
「……っ」
もう既に死語なんじゃないのかというセリフを言われながら抱き締められ、手が出た。
手というか、この場合は足か。
ユキの足の甲を踵で思い切り踏みつけた。
「っ、っ、ちょっ……っ」
「近いのはお前だ!!ふざけたこと言うな!!」
「シマ、酷い……っ」
「照れちゃってまあ」
「ねー。ほんと可愛いんだから」
「うるさいぞそこ!!」
俺から離れ痛みに悶えるユキだったが、相変わらずニヤニヤとした笑みを浮かべてのミヤのセリフに普通に答えている。
それに怒鳴る俺がおもしろかったのか、ミヤはひとしきり笑った後。
「まあなんにせよ良かった良かった」
「……ん」
急に優しい表情になり、しみじみと告げられ、素直に頷いた。
「なんか、ごめんな。色々心配かけて。ありがとな」
「ははっ、気にすんなって。どうせ元サヤだろうなって思ってたから」
「……そっか」
そういえばユキに連れ去られた時、心配の欠片もせずに笑っていやがったなこいつ。
まあ良いか。
世話になった事に変わりはない。
今度飯でも奢ってやろう。
「あ、そうだ。良いこと教えてやるよ」
「ん?」
「あのな……」
ごにょごにょと耳打ちされた事に、驚いた。
「……え」
「だから近いって!」
「ははっ、んじゃーな」
その後、約束があるというミヤと別れ、俺達は食堂へと向かった。
ミヤから言われた事が脳内で何度も反芻される。
そんな俺を見て、ユキは不満そうだ。
「ミヤになに言われたんだよ」
「何でもない」
「何でもないわけないじゃん!そんなニヤニヤして!」
「っ、いや、こ、これは……」
(に、にやけてる?)
自覚なく緩んでいるらしい口元を確かめるために頬に手を添える。
言われた通り、確かに頬が上がっている気がする。
「なあ、何言われたんだよ?」
「だから、何でもないって!」
「何なんだよー!?」
ミヤに何を言われたのかしつこく問い詰めてくるユキを一喝し、足早に廊下を歩く。
不満そうにしながらもついてくるユキ。
途中で見たガラスに写っていた自分の顔はやはりにやけていて、足が更に速まったのは言うまでもない。
『あいつな、シマが自分から教えてくんないと意味ねえって言って俺が新しい番号教えようとしても嫌がるの。何意地張ってんだよって超笑った』
どおりで直接来る事はあっても電話やメッセージが一度もなかったわけだ。
自ら消した番号を再び登録したのは、今朝の事。
大袈裟なくらい嬉しそうなユキの表情は、忘れられないなと思った。
終わり
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