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しおりを挟む『ごめん』
『すきなんだよ、まだ、ずっと、大好きなんだ……っ』
肩に顔を埋められ、耳元で告げられた言葉に目を見開く。
じんわりと目元が熱くなって、喉の奥が震えた。
信じられないと、いや、今更信じたくないと心に刻んでいたものがあっさりと崩れていくのが、悔しいのに嬉しい。
ユキがまだ俺を好きでいてくれた。
その事実が震えるくらいに嬉しい。
(……くそっ)
近寄ってくるユキを強がって突っぱねてはいたものの、きっと心のどこかではずっと、こう言ってもらえるのを待っていた。
温もりに慣れてしまった心も体も、一人でいるには寂しすぎた。
前のように一緒にいたいと、そう望んでしまっていた。
自分の気持ちを、どうしたいかを認めてしまえば後はもう愛しさばかりがこみ上げてくる。
けど、すぐには何も言えなくて。
弾む息を抑え、腕は未だに押さえつけられていたから、頭で近くの温もりに擦り寄る。
ユキの体が僅かに揺れ、緊張するのが伝わった。
ぎゅうっと胸が締め付けられ。
このまま抱きつきたい衝動に駆られる。
「ユキ」
「……」
「……手、痛い」
言うと、すんと鼻をすする音とともに埋めていた顔が少し上げられ、拘束されていた腕が緩んだ。
顔を押し付けられていた服の部分がびちゃびちゃで離れた瞬間に冷えて気持ちが悪い。
「あ……」
今更のようにぐちゃぐちゃの服に気付いたユキが申し訳なさそうに眉を下げた、その瞬間。
「!?!?」
目の前にあった肩を掴み、片足を股の間に突っ込み体勢を変えた。
ユキの腹の上に跨り、マウントポジションを取る。
そして、間髪入れず左の肩目掛け、思い切り拳を振り下ろした。
「いっっっっっった……!?!?!?!?」
驚きに目を見開くユキ。
それはそうだろう、いくらでも殴って良いとは言ったけれどまさかこの状況で殴られるだなんて思ってもみなかったはずだ。
泣き腫らして赤くなった目と鼻。
涙と鼻水の跡が情けない。
「ふんっ、まあこんなもんか」
「な、なに……」
本気で痛かったのか若干涙目。
それを見下ろし、再度手を振り上げる。
「……っ」
反射的に震え身構えるユキの額を、今度は指の先だけでぺしりと叩く。
これは全く力を入れてないので痛くないはずだ。
「…………え?」
想像していたのと違う衝撃にぽかんと口を開け、ぱちぱちと数回まばたきを繰り返しながら、こちらを見上げるユキ。
「シマ?」
「……」
ユキの胸元に置いた手を握り締めると、相当緊張しているのか汗をかいているのに気付いた。
俺が何か言うのを待っているのだろう、ユキは無言のまま。
さっきのセリフから大分経って、やっとで口を開いた。
「……………………許してやる」
「え」
「……」
言った途端にまじまじと見つめられ、居心地の悪さに視線逸らす。
「シマ?」
肘をベッドに付き、少しだけ上半身を起こすユキ。
きっと今の俺の顔はユキに負けず劣らずの情けなさだと思う。
ちらりとユキを見る。
かちりと合う視線に、ごくりと唾を飲みこむ。
先程の抱きつきたい衝動が再度呼び起こされ、これ以上堪える事は出来なかった。
「!!!!!!」
衝動に駆られるまま、首に腕を滑り込ませ抱き付く。
突然の事に驚き再び背中をベッドに預ける羽目になったユキだが、しっかりと俺の体を包み込んでくれた。
「し、シマ……?」
「……っ」
暖かいその手と優しい声に、今度はこちらが泣きたくなったが堪える。
既に目頭が熱くなっている辺り、もう手遅れな気がするが。
「ユキ」
「ん?」
「……き」
絞り出すような声。
けれどユキはしっかりと聞き取ってくれたようで。
その言葉を告げた瞬間、がばりと身を離され、またまじまじと顔を見られ。
「シマ」
「な、なんだよ、見るな……っ」
「俺も好き」
「!」
「大好き」
「……っ」
へにゃりとなんともヤニ下がっただらしのない表情を零し、再びぎゅっと抱き締められた。
嗅ぎ慣れたシャンプーだとか煙草の匂いをいっぱいに吸い込む。
懐かしい。
俺の好きな匂いだ。
無言のままきつく抱き締め合う。
ずっとこれが恋しかった。
この温もりが欲しかった。
他の人を試した事がないからわからないけれど、やっぱりこの腕の中が一番落ち着く。
ここが自分の居場所なのだと痛感する。
きっとそれはユキも同じだろう。
暫くそのまま抱き締め合って、どちらからともなく静かに身体を離し、次いでゆっくりと近付く唇にそっと目を閉じた。
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