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しおりを挟む押し倒した体は少しだけ抵抗したが、大人しくてそこに収まっている。
掴んだ腕は以前よりも痩せたようで細く感じられた。
何度も名を呼んだが、何と切り出したら良いのかがわからない。
話があると強引に連れ出したのに、これでは意味がない。
久しぶりのシマだ。
ずっと避けられていたけれど、シマがこんなに近くにいる。
(……やばい)
色んなものがこみ上げてきて、目頭が熱くなる。
つんとしたものが鼻を伝ったが何とか堪える。
目を逸らしたままのシマはそれに全く気付かない。
口を開くと涙が零れ落ちてしまいそうだ。
シマは何を思っているのだろうか。
呆れているのだろうか、怒っているのだろうか。
当たり前だ。
別れを切り出されてからもう大分時間が経っている。
しつこいと思われても仕方がない。
けど一方的に言われた事に納得なんて出来るはずがない。
だって、まだこんなに好きなのに。
愛しくて溜まらない。
こんなに求めているのに、手放したくないと望んでしまっている。
誤解だって解いていない。
俺にはシマだけだと伝え切れていない。
もうダメなのだろうか。
「……シマ」
かろうじて口から出たのは名前だけ。
二の句が継げない。
何度も繰り返し名前を呼ぶ俺にシマが小さく息を吐く。
それに気付かれないくらいにびくりと震えた。
「話って、何」
少し堅い口調。
尚も逸らされ続ける視線に悲しみが募る。
「話があるから連れてきたんだろ、早く済ませろよ」
「……っ」
こんなところにいつまでもお前と二人っきりでなんていたくないんだ、と。
実際に言われたわけでもないのに、そう言われているような気がした。
「……なんで」
「……」
「なんでそんな事言うんだよ」
「……は?」
訝しげに寄せられた眉。
的外れな俺のセリフにシマが視線を上げてぎょっとする。
ぱたぱたと零れる水滴がシマの頬やら布団やらに落ちた。
「っ、おま、何泣いて……!?」
「なんだよ、そんなに俺と一緒にいたくないのかよ」
言いながら当たり前だろうとどこかで冷静に突っ込む。
「新しい番号も教えてくれないし、行っても会ってくれないし」
「……」
「目も全然合わせてくれない」
「……」
「もう、やだ?俺のこと、本当に嫌いになっちゃった?」
ここ数ヶ月の行動をみれば嫌われているに決まっている。
それはわかっているのだけれど、バカみたいに聞いてしまった。
霞む視界の先にいるシマ。
なんでもはっきりと物を言うシマが、何も言わずに目を見開いて、視線を彷徨わせている。
返事に迷っているのだろうか。
それとも答える必要がないと思っているのだろうか。
別れを切り出したのだから、これ以上ぐだぐだ言うなとうっとおしく思われているのかもしれない。
誤解から始まった事だけど、酷い事を言ったのは紛れもない事実。
シマを侮辱して貶めて蔑む、思い返してみても酷い発言だった。
でもこのまま終わりだなんて絶対に嫌だ。
「嫌だよ、俺は別れたくない……っ、もっとシマと一緒にいたいよ……っ」
「……っ」
離したくないという思いから目の前にあったシマの肩に顔をうずめる。
細い肩がびくりと震えたが抵抗はない。
「ごめん、本当にごめん、二度とあんな事言わないから、気が済むまで殴って良いから、ごめん、シマ、ごめん……っ」
これが最後のチャンスかもしれないと、精一杯の思いを込めて謝る。
許して欲しい。
都合が良すぎるとは思うけれど、もう一度やり直したいのだ。
どんなにカッコ悪くたって良い。
もう一度シマを手に入れられるのなら、何でもする。
「シマ、お願い……ごめん……!」
ぼろぼろと泣きながらの謝罪だなんて情けなさすぎる。
単純に謝る言葉しか出てこなくて、泣き落としみたいな形になっているのは相当ずるいと思うけれど止まらない。
「……っ、すきなんだよ、まだ、ずっと、大好きなんだ……っ」
更に顔を強く埋める。
後はもう嗚咽を堪えるのでいっぱいいっぱい。
鼻を啜る音と時折漏れる俺の小さな泣き声だけが静かな部屋に響く。
本当に情けない。
もっときちんと話し合うつもりだったのに。
もっときちんと、まっすぐに目を見て謝るつもりだったのに。
「シマ……っ」
堪えきれなかった嗚咽の合間に名前を呼ぶ。
暫くの間そうしていると……
「……はあ」
小さな溜め息が聞こえ、すり、と何かが頭に擦り寄ってくる感触がした。
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