復讐のはじまりは暗くて寒い

179.

「さぁ！急ぎましょう」

メイドのキャスに抱き上げられたリザリディスは乳母のルイザ達が慌てているのを見ながら言った方が良いのかどうかを考えていた

庭の散策中にいつもと違う力の流れを感じた

バニラエア邸の庭は見た目だけではなく魔力の流れも人為的に見事に整えられていた

いつもと違う魔力の流れを感じたリザリディスはそれが向かう方向とその集まった力が解放され木々がざわめく様子を見た

リザリディスには誰かが魔法を使ったのだと分かったが乳母達は顔を青ざめさせ何があったかも分からず焦っているようだった

彼女達の様に魔法を使えない人々は魔力の流れも見えないしはっきりとは感じられないと『お兄さん』達が言っていた

事情は知らなかったが母の従兄弟だというそのお兄さん達は母が屋敷を去ってからこの屋敷にリザリディスを訪ねて来た

母よりも歳が上だがまだ結婚もしていないのでおじ様ではなく『兄様』と呼ぶようにと言ってリザリディスに笑いかけた

見知らぬ大人の男性に戸惑い警戒していたリザリディスの態度も会う度に少しずつ軟化し距離が縮まっていった

「リーザはいい目をしているね
こんな小さな魔力の揺らぎが見えるなんて！
魔力への感度は個人差があるけどリーザは特に良く見えているようだ」

それは大きさの違う石を内包する魔力の量の差で順番に並べるように言われたリザリディスが机の上に並べた石を見て兄様が感心しながら言った言葉だった

兄様達は母の葬式の後も屋敷へと何度となく訪れ落ち込んだリザリディスを気遣ってくれていた

彼らがリザリディスの前で使う魔法は彼女を楽しませるための優しいものばかりであった
そのためなのかリザリディスは魔法に対して悪いイメージはなく今回の庭で使われた魔法も突然ではあったが大きな音がしただけなのに何故そんなにも慌てているのかと乳母達を見て不思議に感じたくらいだった

リザリディスの目から見れば既に庭は『いつも通り』だった
部屋に帰るのは構わないがせめて落ち着かせるために大丈夫だと言った方が良いのかと思っていると

一人の少女が庭の繁みからがばりと飛び出してきて騒ぎだし今はリザリディスをきつく睨み付け手を上げていた
リザリディスは怒りで真っ赤な顔をした少女を初めて見た
多少は叱られた事はあっても叩かれたことなど無いリザリディスは危機感が薄く
不思議な落ち着きを持って
ただ、その少女の様子をじっと見つめ返していた