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7.真相
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「どうしたの? 突然呼び出して」
一か月ぶりの郁也だ。
家に来てくれただけで、胸の奥が少し軽くなる。
「えへへ。おもてなししようと思って。今日は何もしなくていいからね」
「……わかった……」
どこか探るような目で頷く郁也を、俺は椅子に座らせた。
「俺、料理頑張ったんだ! はい、あーん」
早速、練習の成果を披露する。
自信作だ。
「……美味しい」
「だろ??」
思わず胸を張ると、郁也は箸を持ったまま、少し黙り込んだ。
「……どこで練習したの?」
声が、低い。
表情も、暗い。
「えっとね、バイト先の先輩に試食させまくった!」
これは本当だ。
家に呼んで、毎週のように食べさせた。改善点も教えてもらった。
「……」
郁也の顔から、血の気が引いていく。
今にも吐きそうなほど青ざめている。
「ど、どうした!?」
「……家に、連れ込んでたの……?」
かすれた声。
「俺とは、会ってない一か月の間に……?」
「う、うん。俺、元々料理全然できなかったから、実験台になってもらって……」
言い訳のつもりはなかった。
でも、言葉が軽すぎたのかもしれない。
「…………」
郁也は俯いたまま、呼吸を整えている。
本当に吐きそうだ。
「ま、まずい……?」
「美味しいけど……苦しい……」
そう言って、少し考え込んだあと、ゆっくり立ち上がった。
「……浮気は禁止だって、言ったよね」
心臓が跳ねる。
「今後は、この家に俺以外、入れないで」
あまりに突然で、言葉が追いつかない。
「え、いや、友達とタコパとかやるし……」
「……二人きりは、絶対ダメ」
胸の奥が、むずむずと熱くなる。
納得できない。
「……なんだよ」
「……!」
「俺のこと、家に入れてくれないくせに! 名前でも呼ばないくせに! 手も出さないくせに!」
抑えていた不満が、一気に溢れ出す。
「一丁前に、彼氏みたいなこと言うなよ!」
「…………それは……」
「お前なんか、自然消滅した元カノとより戻せ!」
止まらない。
「自然消滅ってことは、別れたわけじゃないだろ!?」
「いや、だから……」
「この、八方美人野郎!!」
空気が、凍る。
「俺なんか捨てろ! 俺は先輩と付き合う!!」
――言ってしまった。
言ってはいけないことを。
取り消せない言葉を。
俺は、ダメな恋人だ。
魅力的になるどころか、感情に任せて怒鳴り散らしてしまった。
チャッキーの言葉が、頭をよぎる。
「縋り付いたら終わり」
でも、怒ってしまったら、それ以前の問題だ。
すると、一気に空気の温度が下がった気がした。
「……わかった。今から俺の家に行こう」
低く、感情の読めない声。
「……え?」
ご飯の後片付けをする暇もなかった。
手を取られ、そのまま外へ連れ出される。
強くはない。だが、逆らう隙もない力だった。
車内は、無言だった。
エンジン音と、ウインカーの音だけがやけに大きく聞こえる。
横顔を盗み見ても、郁也は前だけを見ている。
やがて、大きなマンションの前で車が止まった。
「来て」
短く言って、先に降りる。
オートロックを抜け、エレベーターに乗り、廊下を歩く。
静かすぎて、足音が響く。
ドアの前で立ち止まり、鍵を開けた。
「入って」
部屋に足を踏み入れる。
「……なんだよ。綺麗な家じゃないか」
拍子抜けするほど、整った室内だった。
生活感はあるのに、散らかっていない。
何の問題もない。
じゃあ、なんで今まで――。
「ここ、俺の部屋」
そう言われて、さらに奥へ促される。
そして、視界に入ったものに、言葉を失った。
「……え……」
俺の形をしたぬいぐるみ。
俺の顔がプリントされた抱き枕。
アクリルスタンド。キーホルダー。
隙間なく壁一面に貼られた、俺と郁也の写真。
笑っているもの。
歩いている後ろ姿。
気づいた覚えのない距離から撮られたもの――隠し撮りとしか思えない写真も混じっている。
頭が、追いつかない。
「……引いたかな?」
後ろから、低く震える声が聞こえる。
カチャ。
静かな音を立てて、ドアの鍵がかけられた。
「この部屋を見られたら終わりだな、嫌われるな……って思ってたから、ずっと家には入れられなかったんだ」
郁也がゆらりゆらりと、逃げ道を防ぐようにこちらへ歩み寄ってくる。
「ごめんね、天野。……俺、君が思ってる以上に、君のことが好きなんだ」
一か月ぶりの郁也だ。
家に来てくれただけで、胸の奥が少し軽くなる。
「えへへ。おもてなししようと思って。今日は何もしなくていいからね」
「……わかった……」
どこか探るような目で頷く郁也を、俺は椅子に座らせた。
「俺、料理頑張ったんだ! はい、あーん」
早速、練習の成果を披露する。
自信作だ。
「……美味しい」
「だろ??」
思わず胸を張ると、郁也は箸を持ったまま、少し黙り込んだ。
「……どこで練習したの?」
声が、低い。
表情も、暗い。
「えっとね、バイト先の先輩に試食させまくった!」
これは本当だ。
家に呼んで、毎週のように食べさせた。改善点も教えてもらった。
「……」
郁也の顔から、血の気が引いていく。
今にも吐きそうなほど青ざめている。
「ど、どうした!?」
「……家に、連れ込んでたの……?」
かすれた声。
「俺とは、会ってない一か月の間に……?」
「う、うん。俺、元々料理全然できなかったから、実験台になってもらって……」
言い訳のつもりはなかった。
でも、言葉が軽すぎたのかもしれない。
「…………」
郁也は俯いたまま、呼吸を整えている。
本当に吐きそうだ。
「ま、まずい……?」
「美味しいけど……苦しい……」
そう言って、少し考え込んだあと、ゆっくり立ち上がった。
「……浮気は禁止だって、言ったよね」
心臓が跳ねる。
「今後は、この家に俺以外、入れないで」
あまりに突然で、言葉が追いつかない。
「え、いや、友達とタコパとかやるし……」
「……二人きりは、絶対ダメ」
胸の奥が、むずむずと熱くなる。
納得できない。
「……なんだよ」
「……!」
「俺のこと、家に入れてくれないくせに! 名前でも呼ばないくせに! 手も出さないくせに!」
抑えていた不満が、一気に溢れ出す。
「一丁前に、彼氏みたいなこと言うなよ!」
「…………それは……」
「お前なんか、自然消滅した元カノとより戻せ!」
止まらない。
「自然消滅ってことは、別れたわけじゃないだろ!?」
「いや、だから……」
「この、八方美人野郎!!」
空気が、凍る。
「俺なんか捨てろ! 俺は先輩と付き合う!!」
――言ってしまった。
言ってはいけないことを。
取り消せない言葉を。
俺は、ダメな恋人だ。
魅力的になるどころか、感情に任せて怒鳴り散らしてしまった。
チャッキーの言葉が、頭をよぎる。
「縋り付いたら終わり」
でも、怒ってしまったら、それ以前の問題だ。
すると、一気に空気の温度が下がった気がした。
「……わかった。今から俺の家に行こう」
低く、感情の読めない声。
「……え?」
ご飯の後片付けをする暇もなかった。
手を取られ、そのまま外へ連れ出される。
強くはない。だが、逆らう隙もない力だった。
車内は、無言だった。
エンジン音と、ウインカーの音だけがやけに大きく聞こえる。
横顔を盗み見ても、郁也は前だけを見ている。
やがて、大きなマンションの前で車が止まった。
「来て」
短く言って、先に降りる。
オートロックを抜け、エレベーターに乗り、廊下を歩く。
静かすぎて、足音が響く。
ドアの前で立ち止まり、鍵を開けた。
「入って」
部屋に足を踏み入れる。
「……なんだよ。綺麗な家じゃないか」
拍子抜けするほど、整った室内だった。
生活感はあるのに、散らかっていない。
何の問題もない。
じゃあ、なんで今まで――。
「ここ、俺の部屋」
そう言われて、さらに奥へ促される。
そして、視界に入ったものに、言葉を失った。
「……え……」
俺の形をしたぬいぐるみ。
俺の顔がプリントされた抱き枕。
アクリルスタンド。キーホルダー。
隙間なく壁一面に貼られた、俺と郁也の写真。
笑っているもの。
歩いている後ろ姿。
気づいた覚えのない距離から撮られたもの――隠し撮りとしか思えない写真も混じっている。
頭が、追いつかない。
「……引いたかな?」
後ろから、低く震える声が聞こえる。
カチャ。
静かな音を立てて、ドアの鍵がかけられた。
「この部屋を見られたら終わりだな、嫌われるな……って思ってたから、ずっと家には入れられなかったんだ」
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