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1 リアム目線
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「好きだよ。今日も、誰よりも君が一番だ」
僕はいつものようににっこり笑って愛を囁いた。
「……またか」
彼は呆れ顔をしながらも、紅茶を口に運ぶ。そう、これは僕の日課。毎日の告白と、束縛めいた言葉。
「僕がいない間に他の男と話さないで?」
わざとらしい笑みを浮かべると、周囲の侍従たちはげんなりした顔をする。完璧だ。誰が見ても「面倒な男」にしか見えないだろう。
———
「ご機嫌よう!お兄様!」
元気いっぱいに飛び込んできた声に、僕は思わず目を細めた。
……ああ、今日も可愛い。僕の弟は本当に、世界で一番の天使だ。
僕の名前はリアム・グレイソン。男爵家の三男。
顔も地位も平凡で、特に何一つ特筆すべき点はない。現在は高等部三年生。卒業後は、父の事業を手伝うことになっている。
そして、僕の弟――リチャード・グレイソン。高等部一年。
ふわふわの茶髪に自然な癖っ毛、笑うと頬に小さなえくぼが浮かぶ。まるで絵画から抜け出したような愛らしい少年で、僕の唯一にして最大の自慢であり、生きがいだ。
「お兄様!今日もヴィクターさんと話せました!」
リチャードは嬉しそうに報告してくる。
そう、彼はヴィクター・ローレンツに憧れているのだ。いや、憧れ以上の想いを抱いているのだろう。話を聞く限り、完全に初恋真っ只中。
――しかし、厄介なことに。
「でも、ヴィクターさんはお兄様の許嫁ですもんね」
リチャードはほんの少し寂しそうに微笑んだ。
そう、僕の許嫁こそ、彼が想いを寄せる相手なのだ。
つまりは弟の恋路を邪魔する張本人、それこそが僕なのだ。
僕は男爵家の三男。
そしてヴィクター・ローレンツは、公爵家の長男にして、僕の同級生。将来は僕と政略結婚することが決められている。
けれど、僕は決意していた。
――自分の幸せよりも、弟の初恋を優先しよう、と。
ヴィクターのことが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。いつも穏やかで、頭が良くて、ミステリアスで、誰に対しても誠実。完璧すぎる人だ。結婚すれば幸せになれるだろう……そんな妄想をしたことだってある。
だが、それ以上に大切なのは弟。ブラコンと笑われてもいい。僕は弟の幸せを守りたい。
そのために僕が選んだ作戦は――。
「何をしてるのかな?」
低く落ち着いた声が、背後から響いた。
振り返れば、当の本人。ヴィクターがそこに立っていた。
相変わらず絵になる姿だ。漆黒の髪に整った顔立ち、何をしても様になる。だが、今の僕に必要なのは冷静な観察ではない。演技だ。
「ヴィ、ヴィクター!どこで何をしてたの?僕を置いて??おはようとおやすみの連絡、まだだよ!?どうしてしてくれないの!?」
全力で“面倒くさい男”を演じる。嫉妬、束縛、依存。世の中の恋人が最も嫌う言動を、これでもかと浴びせかけるのだ。これで嫌われないはずがない。
「……リアム。単純に仕事だよ。それと、おはようとやすみの連絡は……忙しくて忘れていた。ごめんね」
……ほら、今の声音。絶対、嫌そう!!
いや、ヴィクターはいつも穏やかで感情を表に出さないから正直読み取りづらいけれど、きっと呆れてるはずだ。
「あはは。お兄様って、本当にヴィクターのこと好きなんだね」
リチャードは微笑んで言う。無邪気な笑み。
……ああ、やっぱりこの子が幸せになるべきだ。
「当然だよ。だって僕の許嫁だからね!」
わざとらしくマウントを取る。これで「面倒すぎる」と思われるだろう。別れたいと思う人、続出間違いなし。
「……ふふ。相変わらずだなぁ、リアムは」
ヴィクターは小さく笑って、僕の頭を撫でてきた。
……ほんとに優しい。度量が広すぎる。結婚してくれ、リチャードと。
「そういえばヴィクター、今日は何の用なの?」
「実はね、1ヶ月後に家で本格的な婚約パーティーがあるんだ。卒業したらすぐに結婚する予定だろう?社交ダンスもあるから、そのために事前に伝えておこうと思って」
なるほど。これは絶好のチャンスだ。
このパーティーでリチャードが選ばれれば、僕はお役御免。すべて丸く収まる。僕は机の下で、誰にも気づかれないように拳を固く握りしめた。
「わかったよ!連絡ありがとう。じゃあ、今後も毎日この家に来てね!」
抜かりなく“重い発言”も忘れない。
「はいはい、できるだけ足を運ぶさ」
軽く受け流される。最初は警戒していたのに、最近ではあしらうのが板についてきた気がする。いいぞ。これは進展だ。
「じゃあ寝る前も、四六時中僕のこと考えてね!またね!」
「ああ、またな」
「また学校でお会いしましょうね、ヴィクターさん!」
それぞれ挨拶を交わし、彼は帰っていった。
その夜、ベッドに横たわりながら僕は作戦を練った。1ヶ月後のパーティーで、リチャードが選ばれればすべて解決する。つまり、社交ダンスのパートナーに選ばれることを意味する。
そのために、僕はもっともっと“うざい許嫁”にならなければ。
「ねぇヴィクター!今、あの女の人見てたよね?ダメだよ!僕のこと見てよ!」
「ヴィクター!大好きだよ。ずっと一緒にいようね!」
「ヴィクター!連絡には即座に返してよ!」
「ヴィクター!僕以外の人と一緒に帰らないで!」
……ああ、うざい!自分で言ってて嫌になる!
でも、この“嫌われ作戦”こそが、弟の幸せへの道なのだ。
「いや、見てないよ」
「そうだね」
「できる限り頑張るよ」
「わかったわかった」
反応がだんだん淡泊になってきた。よし、狙い通り!
学校でも僕の行為はもはや“日常の風物詩”扱いされていた。
『またローレンツの許嫁が嫉妬してる』
『絶対弟の方がいいだろ』
そんな声すら聞こえてくる。
……順調だ。弟とヴィクターを結びつける計画は、確実に進んでいる。
僕はいつものようににっこり笑って愛を囁いた。
「……またか」
彼は呆れ顔をしながらも、紅茶を口に運ぶ。そう、これは僕の日課。毎日の告白と、束縛めいた言葉。
「僕がいない間に他の男と話さないで?」
わざとらしい笑みを浮かべると、周囲の侍従たちはげんなりした顔をする。完璧だ。誰が見ても「面倒な男」にしか見えないだろう。
———
「ご機嫌よう!お兄様!」
元気いっぱいに飛び込んできた声に、僕は思わず目を細めた。
……ああ、今日も可愛い。僕の弟は本当に、世界で一番の天使だ。
僕の名前はリアム・グレイソン。男爵家の三男。
顔も地位も平凡で、特に何一つ特筆すべき点はない。現在は高等部三年生。卒業後は、父の事業を手伝うことになっている。
そして、僕の弟――リチャード・グレイソン。高等部一年。
ふわふわの茶髪に自然な癖っ毛、笑うと頬に小さなえくぼが浮かぶ。まるで絵画から抜け出したような愛らしい少年で、僕の唯一にして最大の自慢であり、生きがいだ。
「お兄様!今日もヴィクターさんと話せました!」
リチャードは嬉しそうに報告してくる。
そう、彼はヴィクター・ローレンツに憧れているのだ。いや、憧れ以上の想いを抱いているのだろう。話を聞く限り、完全に初恋真っ只中。
――しかし、厄介なことに。
「でも、ヴィクターさんはお兄様の許嫁ですもんね」
リチャードはほんの少し寂しそうに微笑んだ。
そう、僕の許嫁こそ、彼が想いを寄せる相手なのだ。
つまりは弟の恋路を邪魔する張本人、それこそが僕なのだ。
僕は男爵家の三男。
そしてヴィクター・ローレンツは、公爵家の長男にして、僕の同級生。将来は僕と政略結婚することが決められている。
けれど、僕は決意していた。
――自分の幸せよりも、弟の初恋を優先しよう、と。
ヴィクターのことが嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。いつも穏やかで、頭が良くて、ミステリアスで、誰に対しても誠実。完璧すぎる人だ。結婚すれば幸せになれるだろう……そんな妄想をしたことだってある。
だが、それ以上に大切なのは弟。ブラコンと笑われてもいい。僕は弟の幸せを守りたい。
そのために僕が選んだ作戦は――。
「何をしてるのかな?」
低く落ち着いた声が、背後から響いた。
振り返れば、当の本人。ヴィクターがそこに立っていた。
相変わらず絵になる姿だ。漆黒の髪に整った顔立ち、何をしても様になる。だが、今の僕に必要なのは冷静な観察ではない。演技だ。
「ヴィ、ヴィクター!どこで何をしてたの?僕を置いて??おはようとおやすみの連絡、まだだよ!?どうしてしてくれないの!?」
全力で“面倒くさい男”を演じる。嫉妬、束縛、依存。世の中の恋人が最も嫌う言動を、これでもかと浴びせかけるのだ。これで嫌われないはずがない。
「……リアム。単純に仕事だよ。それと、おはようとやすみの連絡は……忙しくて忘れていた。ごめんね」
……ほら、今の声音。絶対、嫌そう!!
いや、ヴィクターはいつも穏やかで感情を表に出さないから正直読み取りづらいけれど、きっと呆れてるはずだ。
「あはは。お兄様って、本当にヴィクターのこと好きなんだね」
リチャードは微笑んで言う。無邪気な笑み。
……ああ、やっぱりこの子が幸せになるべきだ。
「当然だよ。だって僕の許嫁だからね!」
わざとらしくマウントを取る。これで「面倒すぎる」と思われるだろう。別れたいと思う人、続出間違いなし。
「……ふふ。相変わらずだなぁ、リアムは」
ヴィクターは小さく笑って、僕の頭を撫でてきた。
……ほんとに優しい。度量が広すぎる。結婚してくれ、リチャードと。
「そういえばヴィクター、今日は何の用なの?」
「実はね、1ヶ月後に家で本格的な婚約パーティーがあるんだ。卒業したらすぐに結婚する予定だろう?社交ダンスもあるから、そのために事前に伝えておこうと思って」
なるほど。これは絶好のチャンスだ。
このパーティーでリチャードが選ばれれば、僕はお役御免。すべて丸く収まる。僕は机の下で、誰にも気づかれないように拳を固く握りしめた。
「わかったよ!連絡ありがとう。じゃあ、今後も毎日この家に来てね!」
抜かりなく“重い発言”も忘れない。
「はいはい、できるだけ足を運ぶさ」
軽く受け流される。最初は警戒していたのに、最近ではあしらうのが板についてきた気がする。いいぞ。これは進展だ。
「じゃあ寝る前も、四六時中僕のこと考えてね!またね!」
「ああ、またな」
「また学校でお会いしましょうね、ヴィクターさん!」
それぞれ挨拶を交わし、彼は帰っていった。
その夜、ベッドに横たわりながら僕は作戦を練った。1ヶ月後のパーティーで、リチャードが選ばれればすべて解決する。つまり、社交ダンスのパートナーに選ばれることを意味する。
そのために、僕はもっともっと“うざい許嫁”にならなければ。
「ねぇヴィクター!今、あの女の人見てたよね?ダメだよ!僕のこと見てよ!」
「ヴィクター!大好きだよ。ずっと一緒にいようね!」
「ヴィクター!連絡には即座に返してよ!」
「ヴィクター!僕以外の人と一緒に帰らないで!」
……ああ、うざい!自分で言ってて嫌になる!
でも、この“嫌われ作戦”こそが、弟の幸せへの道なのだ。
「いや、見てないよ」
「そうだね」
「できる限り頑張るよ」
「わかったわかった」
反応がだんだん淡泊になってきた。よし、狙い通り!
学校でも僕の行為はもはや“日常の風物詩”扱いされていた。
『またローレンツの許嫁が嫉妬してる』
『絶対弟の方がいいだろ』
そんな声すら聞こえてくる。
……順調だ。弟とヴィクターを結びつける計画は、確実に進んでいる。
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