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今日は用事があって、ヴィクターと一緒に帰れない日だった。
……珍しい。普段なら律儀に僕を送ってくれるのに。何があったんだろう。胸の奥がそわそわする。明日こそ“面倒臭いポイント”を稼ぐために、きっちり追求してやろう。そう決心していると、玄関の扉が開いた。
「ヴィクターさん!今日は送ってくれてありがとうございます。」
「いやいや。夜遅いからね。年下の子に夜遅く出歩かせる訳にはいかないよ。」
……ラブラブだな!?
弟と許嫁が並んで会話している様子は、どう見てもカップルにしか見えない。胸の奥にチクリと棘が刺さるような痛みを覚える一方で、妙に感動すらしてしまう。そう、これこそ僕が望んでいる未来の姿だ。
けれど口から出たのは――本心。
「ちょっと!僕以外の人と帰らないでって言ったよね!……まあ、リチャードならいいか。」
ダメだ。弟のこととなると、どうしても嘘をつけない。
リチャードだけは別格だ。
ヴィクターはそんな僕を見て、ふっと笑った。
「本当に弟くんが好きなんだね。君が『リチャードならいいか』なんて言うなんて。でも大丈夫。何もなかったよ。」
爽やかに、あっけらかんと言い切る。
……くそ、なんていい男なんだ。弟に譲るつもりなのに、ますます好きになってしまいそうだ。ここは気持ちをセーブしなきゃいけないのに。
「な、ならいいけど……。で、二人はこんな時間まで何してたの?」
疑念を抑えきれずに問うと、ヴィクターは落ち着いた声で答えた。
「ああ、社交ダンスの練習をしていたんだ。」
……な、なんだと!?社交ダンス!?
「そ、そうなの??ほんとに!?」
心臓が跳ねる。まさか……まさかもう、リチャードが選ばれたのか!?
「俺は社交ダンスが苦手だろう?だから、事前に練習しておこうと思って、練習台になってもらってたんだ。」
彼はいつもの調子で淡々と説明する。
「お兄様は上手だからね!色々教えてね!」
リチャードが天真爛漫に笑って言う。その姿が尊すぎて、胸が締め付けられる。
可愛い。いくらでも教えるさ。
「へぇ、そうなんだぁ……」
やばい、涙が出そうだ。願いが叶いかけているじゃないか。
「……どうした?嫉妬しないのか?」
しまった。感動に浸りすぎて、“面倒臭いアピール”を忘れていた。僕は慌てて言葉を継いだ。
「リチャードもいいけど、僕にも構ってね!僕とも社交ダンスしてよ!」
よし!完璧な嫉妬ポイントだろう。
「……いつもより切れ味がないな……」
ヴィクターは不思議そうに首をかしげる。
「そ、そうかな!?とにかく、リチャードを送ってくれてありがとう。最近物騒だからね!」
慌てて否定し、話題を切り上げる。
「……ああ。じゃあ帰るね。またね。」
彼は手を軽く振って去っていく。
「うん!またね!」
僕も全力で手を振り返す。なんていい日だ。胸の奥が温かくなる。
だが――。
「お、お兄様。いつもの『四六時中僕のこと考えて』って言わなくていいの??」
リチャードがきょとんとした顔で言う。あ、やばい。また忘れてた。
危ない危ない。最近、幸せすぎて肝心なところで抜けている。油断は大敵だ。
そうして過ごすうちに、2週間が経った。
僕は気を抜かずに“面倒臭いムーブ”をさらに加速させていた。
「ねぇ僕以外の人と話さないで。君は僕のものなんだから。」
「……ねぇヴィクター。僕が君のことどれくらい想ってるか、わかってる?君のことを考えない時間なんて、一秒たりともないんだよ。」
「君のいない世界なんて、僕にとっては地獄も同然だよ――」
……やばい。自分で言ってて背筋が寒くなる。これはもう恋愛劇じゃなくてホラー映画の領域だ。
「流石に人と話さないのは無理かな?まあでも気をつけるよ。」
「ははは、すごいね。」
「それは言い過ぎじゃない?」
ヴィクターの塩対応にも、すっかり磨きがかかってきた。
しかも最近は毎日、リチャードとの社交ダンス練習で遅くなる始末。……うん、これはもう、僕が捨てられるのも時間の問題だ。
そして――婚約パーティーを控えた一週間前のこと。
気まぐれに街を散歩していた僕は、思いがけずリチャードの姿を見つけてしまった。
陽光の下に立つ彼は、まるで絵画から抜け出したかのように整っていて、つい心の中で「可愛い」「天使だ」などと呟いてしまう。
声をかけようと一歩踏み出しかけたその瞬間――
「……あれ?」
リチャードの隣に、見慣れた背中を見つけた。ヴィクターだ。
思わず胸が跳ね、僕はとっさに近くの建物の陰に身を隠す。心臓がやけにうるさく響いている。
二人の様子をこっそり窺っていると――
「な、なんと……!?」
リチャードとヴィクターは顔を寄せ合い、言葉を交わしながら、堂々と高級ジュエリーショップへと入っていった。
煌びやかなガラス扉が閉まるのを見届けた瞬間、頭の中に勝利の鐘が鳴り響く。
――勝った……。
そうだ。きっと二人は指輪を選び、互いに贈り合うのだろう。幸せを誓い合い、誰よりも眩しい未来を手にするのだ。
胸の奥に不思議な安堵が広がった。
その日から、僕は意識してやめることにした。
毎日の告白も、執拗な嫉妬も、縛りつけるような依存も。
二人が結ばれるのなら、もう僕が空回りする必要なんてない。
ただ、静かに見守ればいいのだ――そう思ったのだ。
……珍しい。普段なら律儀に僕を送ってくれるのに。何があったんだろう。胸の奥がそわそわする。明日こそ“面倒臭いポイント”を稼ぐために、きっちり追求してやろう。そう決心していると、玄関の扉が開いた。
「ヴィクターさん!今日は送ってくれてありがとうございます。」
「いやいや。夜遅いからね。年下の子に夜遅く出歩かせる訳にはいかないよ。」
……ラブラブだな!?
弟と許嫁が並んで会話している様子は、どう見てもカップルにしか見えない。胸の奥にチクリと棘が刺さるような痛みを覚える一方で、妙に感動すらしてしまう。そう、これこそ僕が望んでいる未来の姿だ。
けれど口から出たのは――本心。
「ちょっと!僕以外の人と帰らないでって言ったよね!……まあ、リチャードならいいか。」
ダメだ。弟のこととなると、どうしても嘘をつけない。
リチャードだけは別格だ。
ヴィクターはそんな僕を見て、ふっと笑った。
「本当に弟くんが好きなんだね。君が『リチャードならいいか』なんて言うなんて。でも大丈夫。何もなかったよ。」
爽やかに、あっけらかんと言い切る。
……くそ、なんていい男なんだ。弟に譲るつもりなのに、ますます好きになってしまいそうだ。ここは気持ちをセーブしなきゃいけないのに。
「な、ならいいけど……。で、二人はこんな時間まで何してたの?」
疑念を抑えきれずに問うと、ヴィクターは落ち着いた声で答えた。
「ああ、社交ダンスの練習をしていたんだ。」
……な、なんだと!?社交ダンス!?
「そ、そうなの??ほんとに!?」
心臓が跳ねる。まさか……まさかもう、リチャードが選ばれたのか!?
「俺は社交ダンスが苦手だろう?だから、事前に練習しておこうと思って、練習台になってもらってたんだ。」
彼はいつもの調子で淡々と説明する。
「お兄様は上手だからね!色々教えてね!」
リチャードが天真爛漫に笑って言う。その姿が尊すぎて、胸が締め付けられる。
可愛い。いくらでも教えるさ。
「へぇ、そうなんだぁ……」
やばい、涙が出そうだ。願いが叶いかけているじゃないか。
「……どうした?嫉妬しないのか?」
しまった。感動に浸りすぎて、“面倒臭いアピール”を忘れていた。僕は慌てて言葉を継いだ。
「リチャードもいいけど、僕にも構ってね!僕とも社交ダンスしてよ!」
よし!完璧な嫉妬ポイントだろう。
「……いつもより切れ味がないな……」
ヴィクターは不思議そうに首をかしげる。
「そ、そうかな!?とにかく、リチャードを送ってくれてありがとう。最近物騒だからね!」
慌てて否定し、話題を切り上げる。
「……ああ。じゃあ帰るね。またね。」
彼は手を軽く振って去っていく。
「うん!またね!」
僕も全力で手を振り返す。なんていい日だ。胸の奥が温かくなる。
だが――。
「お、お兄様。いつもの『四六時中僕のこと考えて』って言わなくていいの??」
リチャードがきょとんとした顔で言う。あ、やばい。また忘れてた。
危ない危ない。最近、幸せすぎて肝心なところで抜けている。油断は大敵だ。
そうして過ごすうちに、2週間が経った。
僕は気を抜かずに“面倒臭いムーブ”をさらに加速させていた。
「ねぇ僕以外の人と話さないで。君は僕のものなんだから。」
「……ねぇヴィクター。僕が君のことどれくらい想ってるか、わかってる?君のことを考えない時間なんて、一秒たりともないんだよ。」
「君のいない世界なんて、僕にとっては地獄も同然だよ――」
……やばい。自分で言ってて背筋が寒くなる。これはもう恋愛劇じゃなくてホラー映画の領域だ。
「流石に人と話さないのは無理かな?まあでも気をつけるよ。」
「ははは、すごいね。」
「それは言い過ぎじゃない?」
ヴィクターの塩対応にも、すっかり磨きがかかってきた。
しかも最近は毎日、リチャードとの社交ダンス練習で遅くなる始末。……うん、これはもう、僕が捨てられるのも時間の問題だ。
そして――婚約パーティーを控えた一週間前のこと。
気まぐれに街を散歩していた僕は、思いがけずリチャードの姿を見つけてしまった。
陽光の下に立つ彼は、まるで絵画から抜け出したかのように整っていて、つい心の中で「可愛い」「天使だ」などと呟いてしまう。
声をかけようと一歩踏み出しかけたその瞬間――
「……あれ?」
リチャードの隣に、見慣れた背中を見つけた。ヴィクターだ。
思わず胸が跳ね、僕はとっさに近くの建物の陰に身を隠す。心臓がやけにうるさく響いている。
二人の様子をこっそり窺っていると――
「な、なんと……!?」
リチャードとヴィクターは顔を寄せ合い、言葉を交わしながら、堂々と高級ジュエリーショップへと入っていった。
煌びやかなガラス扉が閉まるのを見届けた瞬間、頭の中に勝利の鐘が鳴り響く。
――勝った……。
そうだ。きっと二人は指輪を選び、互いに贈り合うのだろう。幸せを誓い合い、誰よりも眩しい未来を手にするのだ。
胸の奥に不思議な安堵が広がった。
その日から、僕は意識してやめることにした。
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