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俺には、面倒臭くて――そして世界一可愛い許嫁がいる。
彼から向けられる束縛も、嫉妬も、依存めいた言葉も。毎日の告白も。
すべてが俺の心を打ち抜き、愛しさで胸を満たしていく。ああ、可愛い。本当に可愛い。
今日の婚約パーティーでようやく、公的に手に入れられる。そう思うと楽しみで仕方がなかった。
リチャードくんにも協力してもらって、社交ダンスの腕も磨いた。彼は心から俺たちの関係を応援してくれていた。いい子だ。
……もっとも、突然リアムに距離を置かれたときは、本当に驚いた。自分でも笑えるくらい、あの時は動揺した。彼に振り回されるのは慣れていたつもりだったが……まさか俺の方が依存している部分があるなんて。
今はこうして元に戻ってくれて、ほっとしている。反省すべき点は多いが、それでも彼が隣にいてくれるのならいい。
そして今――婚約パーティーは大成功に終わった。
リアムの様子がどこかぎこちなかった気もするが、気にするほどではない。むしろこれからのことの方が大事だ。
「あ、あの……」
小さな声で呼ばれ、振り返る。そこには、赤くなった頬を指でいじるリアムの姿。
「うん? どうしたんだい?」
「その、初夜って……ほんと、なの?」
――なるほど。彼も気にしていたのか。
このパーティーの後は、慣例として許嫁同士が一夜を共にする。メイドたちにも散々からかわれた。俺自身、この日をずっと待ち望んでいた。
「もちろん。よろしくね」
彼を後ろから抱きしめる。鼓動が早い。俺の心臓も同じように熱を持っていた。
「そ、その……言わなければいけないことがあって……」
深刻な顔。震える声。怖がっているのかと思ったが――。
「すみませんでした!!!」
「……え?」
そこで飛び出したのは、思いもよらない懺悔だった。
弟の幸せを願って“面倒臭い彼氏”を演じていたこと。
今回の婚約パーティーで、リチャードが選ばれると思い込んでいたこと。
すべてを正直に打ち明けてくれた。
――ああ、本当に。想像の斜め上を行く人だな。
ブラコンとは思ってたが、想像以上だった。
あと、普通、婚約パーティーで許嫁以外を選ぶなんてあり得ない。そんな辱めを彼に味わわせるわけがない。
だが、それを本気で信じていたリアムを思うと……愛おしさと呆れが同時に込み上げてくる。
「……俺と弟、どっちが好き?」
「え!? いや、その……好きの種類が違うっていうか……!」
「……そうだね。困らせてごめん」
思わず口に出たのは、彼がよく言っていたような重い言葉だった。三年間を共に過ごしてきたせいか、俺まで似てきてしまったのかもしれない。
けれど、もっと大事なことがある。
「なあ、リアム。俺のことはどう思ってるんだ?」
「……えっと、その……大好きです。弟のことを思って別れようとしただけで……実は……あの“面倒臭いムーブ”も、ちょっと本心だったり……? ご、ごめんなさい!!」
……ああ、よかった。
胸の奥がじんと熱を帯びる。
俺は抱きしめる腕に力を込めた。
「本当に、可愛いな」
「……えっ」
耳まで真っ赤にしておずおずと問いかけてくる。
「あ、あの……結構めんどい人、好きなんですか?」
「うーん。そういうわけじゃないよ」
少し考えて、正直に答える。
「君が特別なんだろうね」
他の誰かが同じ言葉を吐けば、俺は距離を置くだろう。だが、リアムだけは違う。
彼だからこそ、こんなにも愛しい。
「そ、そうなんだ……」
照れたようにうつむく顔も、やっぱり可愛い。
「なあ」
髪をそっとかき上げ、彼をベッドに押し倒す。
「無理しない範囲で……今後も続けてくれて構わないから」
「……うん」
「それと――愛してる」
「ぼ、僕も……」
唇を重ねた瞬間、リアムの体が小さく震えた。
拒まれるのではと一瞬だけ不安がよぎったが――次の瞬間、彼もぎこちなく唇を押し返してきた。
「……リアム」
名前を呼ぶと、彼の瞳が潤んで揺れる。
その顔があまりに可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「だ、大丈夫……優しくしてくださいね……?」
「もちろん。君を泣かせたりなんかしないよ」
そう囁いて、彼をそっと抱き寄せる。
髪から漂う香りが鼻腔をくすぐり、鼓動がますます早まる。
リアムの指先が、おそるおそる俺の服を掴んだ。
その仕草ひとつに、胸が焼けつくような幸福感が押し寄せる。
「……ヴィクター」
震える声で呼ばれたその名が、甘く、熱く、俺の耳に溶け落ちる。
「愛してる」
改めて告げて、もう一度口づけを落とす。
深く、長く、互いの息を絡めて。
———
朝の柔らかな光がカーテン越しに差し込み、静かに部屋を照らしていた。
ぼんやりと目を覚ますと、隣には――幸せそうに眠るリアムの寝顔。
「……本当に、可愛いな」
昨夜のことを思い出し、胸の奥がじんわりと温かくなる。
頬を赤らめ、必死に気持ちを伝えてきた彼。震える声も、ぎこちない動きも――すべてが愛おしい。
俺はそっと髪を撫で、額に軽くキスを落とした。
「……ん……」
小さく声を漏らして、リアムが目を開ける。寝起きのぼんやりした瞳で俺を見つめ、次の瞬間、顔を真っ赤にした。
「ゆ、夢じゃなかったんだ……」
「夢だったら困るな。全部現実だよ」
「~~っ!!」
枕に顔を埋めてジタバタする彼に、思わず笑ってしまう。
こんなに可愛い人が、本当に俺の許嫁で――しかも、俺を「大好き」だと言ってくれた。
ああ、昨日の告白を何度思い返しても、胸がいっぱいになる。
「ねえ、リアム」
「……な、なに?」
「これから毎朝、こうして一緒に目覚めたいな」
「……っ、もう、恥ずかしいこと言わないでよ……」
枕に隠れながらも、耳まで真っ赤に染める彼が答えになる。
俺はそんな姿を抱き寄せ、再び彼の額にキスをした。
――色々あったが、こうして気持ちを確かめ合えた。
俺たちの新しい日々が、静かに始まった。
彼から向けられる束縛も、嫉妬も、依存めいた言葉も。毎日の告白も。
すべてが俺の心を打ち抜き、愛しさで胸を満たしていく。ああ、可愛い。本当に可愛い。
今日の婚約パーティーでようやく、公的に手に入れられる。そう思うと楽しみで仕方がなかった。
リチャードくんにも協力してもらって、社交ダンスの腕も磨いた。彼は心から俺たちの関係を応援してくれていた。いい子だ。
……もっとも、突然リアムに距離を置かれたときは、本当に驚いた。自分でも笑えるくらい、あの時は動揺した。彼に振り回されるのは慣れていたつもりだったが……まさか俺の方が依存している部分があるなんて。
今はこうして元に戻ってくれて、ほっとしている。反省すべき点は多いが、それでも彼が隣にいてくれるのならいい。
そして今――婚約パーティーは大成功に終わった。
リアムの様子がどこかぎこちなかった気もするが、気にするほどではない。むしろこれからのことの方が大事だ。
「あ、あの……」
小さな声で呼ばれ、振り返る。そこには、赤くなった頬を指でいじるリアムの姿。
「うん? どうしたんだい?」
「その、初夜って……ほんと、なの?」
――なるほど。彼も気にしていたのか。
このパーティーの後は、慣例として許嫁同士が一夜を共にする。メイドたちにも散々からかわれた。俺自身、この日をずっと待ち望んでいた。
「もちろん。よろしくね」
彼を後ろから抱きしめる。鼓動が早い。俺の心臓も同じように熱を持っていた。
「そ、その……言わなければいけないことがあって……」
深刻な顔。震える声。怖がっているのかと思ったが――。
「すみませんでした!!!」
「……え?」
そこで飛び出したのは、思いもよらない懺悔だった。
弟の幸せを願って“面倒臭い彼氏”を演じていたこと。
今回の婚約パーティーで、リチャードが選ばれると思い込んでいたこと。
すべてを正直に打ち明けてくれた。
――ああ、本当に。想像の斜め上を行く人だな。
ブラコンとは思ってたが、想像以上だった。
あと、普通、婚約パーティーで許嫁以外を選ぶなんてあり得ない。そんな辱めを彼に味わわせるわけがない。
だが、それを本気で信じていたリアムを思うと……愛おしさと呆れが同時に込み上げてくる。
「……俺と弟、どっちが好き?」
「え!? いや、その……好きの種類が違うっていうか……!」
「……そうだね。困らせてごめん」
思わず口に出たのは、彼がよく言っていたような重い言葉だった。三年間を共に過ごしてきたせいか、俺まで似てきてしまったのかもしれない。
けれど、もっと大事なことがある。
「なあ、リアム。俺のことはどう思ってるんだ?」
「……えっと、その……大好きです。弟のことを思って別れようとしただけで……実は……あの“面倒臭いムーブ”も、ちょっと本心だったり……? ご、ごめんなさい!!」
……ああ、よかった。
胸の奥がじんと熱を帯びる。
俺は抱きしめる腕に力を込めた。
「本当に、可愛いな」
「……えっ」
耳まで真っ赤にしておずおずと問いかけてくる。
「あ、あの……結構めんどい人、好きなんですか?」
「うーん。そういうわけじゃないよ」
少し考えて、正直に答える。
「君が特別なんだろうね」
他の誰かが同じ言葉を吐けば、俺は距離を置くだろう。だが、リアムだけは違う。
彼だからこそ、こんなにも愛しい。
「そ、そうなんだ……」
照れたようにうつむく顔も、やっぱり可愛い。
「なあ」
髪をそっとかき上げ、彼をベッドに押し倒す。
「無理しない範囲で……今後も続けてくれて構わないから」
「……うん」
「それと――愛してる」
「ぼ、僕も……」
唇を重ねた瞬間、リアムの体が小さく震えた。
拒まれるのではと一瞬だけ不安がよぎったが――次の瞬間、彼もぎこちなく唇を押し返してきた。
「……リアム」
名前を呼ぶと、彼の瞳が潤んで揺れる。
その顔があまりに可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
「だ、大丈夫……優しくしてくださいね……?」
「もちろん。君を泣かせたりなんかしないよ」
そう囁いて、彼をそっと抱き寄せる。
髪から漂う香りが鼻腔をくすぐり、鼓動がますます早まる。
リアムの指先が、おそるおそる俺の服を掴んだ。
その仕草ひとつに、胸が焼けつくような幸福感が押し寄せる。
「……ヴィクター」
震える声で呼ばれたその名が、甘く、熱く、俺の耳に溶け落ちる。
「愛してる」
改めて告げて、もう一度口づけを落とす。
深く、長く、互いの息を絡めて。
———
朝の柔らかな光がカーテン越しに差し込み、静かに部屋を照らしていた。
ぼんやりと目を覚ますと、隣には――幸せそうに眠るリアムの寝顔。
「……本当に、可愛いな」
昨夜のことを思い出し、胸の奥がじんわりと温かくなる。
頬を赤らめ、必死に気持ちを伝えてきた彼。震える声も、ぎこちない動きも――すべてが愛おしい。
俺はそっと髪を撫で、額に軽くキスを落とした。
「……ん……」
小さく声を漏らして、リアムが目を開ける。寝起きのぼんやりした瞳で俺を見つめ、次の瞬間、顔を真っ赤にした。
「ゆ、夢じゃなかったんだ……」
「夢だったら困るな。全部現実だよ」
「~~っ!!」
枕に顔を埋めてジタバタする彼に、思わず笑ってしまう。
こんなに可愛い人が、本当に俺の許嫁で――しかも、俺を「大好き」だと言ってくれた。
ああ、昨日の告白を何度思い返しても、胸がいっぱいになる。
「ねえ、リアム」
「……な、なに?」
「これから毎朝、こうして一緒に目覚めたいな」
「……っ、もう、恥ずかしいこと言わないでよ……」
枕に隠れながらも、耳まで真っ赤に染める彼が答えになる。
俺はそんな姿を抱き寄せ、再び彼の額にキスをした。
――色々あったが、こうして気持ちを確かめ合えた。
俺たちの新しい日々が、静かに始まった。
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