ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

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婚約パーティー当日。
煌びやかなシャンデリアが光を反射し、広い舞踏会場には華やかな衣装に身を包んだ貴族たちが集っていた。ざわめきと香水の匂いに包まれ、僕は思わず喉を鳴らす。

「リアム、君の衣装……すごく似合ってるね」

「え、あ、ありがとう」

ヴィクターがわざわざ声をかけてくる。その穏やかな微笑みに、心臓が跳ねた。
……だめだ、好きになっちゃいけない。今日でようやく解放されるんだから。

「お兄様も格好いいですよ!」

リチャードが天真爛漫に笑う。ああ、可愛い。やっぱり弟が主役だ。

やがて、司会の声が高らかに響き渡った。

「それでは――本日の婚約パーティーを始めます。
まずは、ローレンツ公爵家長男、ヴィクター・ローレンツ様と、グレイソン男爵家三男、リアム・グレイソン様による社交ダンスを!」

……き、来た。
計画通りなら、この場で「パートナーはリチャードに変更したい」と宣言が出るはずだ。そうだろ? 頼む、早く言ってくれ……!

会場がざわめく中、ヴィクターが僕の前に立ち、右手を差し出す。

「リアム。手を」

「え? いや、ちょっと待って」

「……どうした?」

「ほら、リチャードがいるじゃないか。僕より彼の方が似合うし、練習もしてたでしょ?」

僕は慌てて弟を指差した。だがヴィクターは、まるで子供を宥めるように穏やかに首を振る。

「練習は、君をエスコートするためのものだよ」

……え?

その瞬間、会場がどよめいた。

「なっ……ちょ、ちょっと待って。どういう意味?」

僕の声は震えていた。

ヴィクターは僕の手を強く握り、そのままステップを踏み出す。
優雅な旋律がホールに満ち、視線を一身に浴びながら、僕らは舞い始めた。

「リアム。俺は、最初から君しか見ていない」

「えっ……」

「毎日の嫉妬も、束縛も、告白も……全部、俺に向けられた気持ちだろう? 本気じゃないなら、あんな必死な顔できるはずがない」

「……っ!」

違う! 違うんだ! あれは全部演技で……弟のために、わざと面倒な男を演じていただけで……!

「俺は、あんなにも自分を欲しがってくれる人を手放す気はない。だから――」

ヴィクターは僕の手を取り、その場で跪いた。

「――改めて宣言する。俺はリアム・グレイソンと結婚する」

轟く拍手。割れんばかりの歓声。

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

僕の絶叫が、天井高く響き渡った。

「いや待って!! ジュエリーショップのことは!?」

「……ああ、指輪なら用意してある」

そう言って、ヴィクターはポケットから小さなケースを取り出す。

「リチャードくんに君の好みを聞いたんだ。きっと似合うと思う。……受け取ってくれるかな?」

小首を傾げて微笑むその仕草に、会場から黄色い悲鳴が上がった。
断れるはずがない。僕はされるがまま、指輪を薬指にはめられていた。

「ああ……よく似合ってる。綺麗だよ、リアム」

ぎゅっと抱きしめられる。周囲から歓声が爆発し、拍手が鳴り止まない。

「……っ、ひっく……お兄様……っ!」

ふと横を見れば、リチャードが両手で顔を覆いながら涙をぼろぼろ零していた。

「えっ!? リチャード!? お前……やっぱりヴィクターのことが……!」

慌てて問いかける僕に、リチャードはぶんぶんと首を横に振った。

「ち、違います! 僕……ヴィクターさんは、ずっと憧れのお兄さんみたいな存在で……! でも……そのヴィクターさんが、本当にお兄様を選んでくれたなんて……!」

涙でぐしゃぐしゃの顔で、リチャードはにっこりと笑った。

「お兄様が幸せそうで……嬉しくて……っ!」

――え。

僕の頭に、雷が落ちたような衝撃が走る。
てっきりリチャードがヴィクターを好きだと思い込んでいたのは……僕だけ?

「……リアム」

耳元で囁くヴィクターの声に、我に返る。
気づけば彼の腕の中に抱き寄せられ、会場中の祝福を浴びていた。

「これからも、ずっと隣にいる」

そう告げられ、熱のこもった瞳で見つめられ――僕は完全に混乱した。

……いや、ちょっと待って。
僕の“計画”って、一体なんだったんだ?
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