陰キャ幼馴染がミスターコン代表に選ばれたので、俺が世界一イケメンにしてやります

あと

文字の大きさ
8 / 10

当日

しおりを挟む
朝から構内はざわついていた。屋台の匂いと、どこか浮ついた笑い声。通りにはテレビカメラまで並び、校門前には「出演者の出待ち」と称する学生までいる。校内がまるで芸能イベントのようだ。
それでも、俺の胸の奥だけは妙に静まり返っていた。……いや、正確には、落ち着かない。

――悠里に言われた「覚悟しておいてね」。
あれが、何度も頭の中でリフレインしていた。冗談のようで、本気のようで。けれど、どんな意味なのか、結局わからないまま今日を迎えてしまった。

ステージ裏なんて関係者以外立ち入り禁止。関係者でもない俺はステージ裏に入ることもできず、朝から最前列の席を取って、ひたすら開始を待っていた。
心配だ……けど、今の俺にできるのは祈ることくらいだ。
落ち着かない指先でスマホをいじっては画面を閉じる。

「佐々木くん!」

後方から呼ばれて振り向くと、息を切らせた蔵元が駆け寄ってきた。
額には汗。どうやらバタバタしているらしい。

「実行委員の仕事がひとつ空いたんだ。よかったら、一緒に見ない?」

断る理由はなかった。俺はうなずく。
ただ、言っておきたいことが一つだけあった。

「……言っとくけどな。お前が悠里を“数合わせ”に使ったこと、一生忘れねぇからな。」

釘を刺すと、蔵元は顔をしかめて肩をすくめた。

「……本当に、ごめん。」

素直に頭を下げる姿に、少しだけ怒りが和らぐ。
けれど、まだ許したわけじゃない。

「なぁ、ひとつ聞いていいか。」

「うん?」

「ミスコンとミスターコンの優勝者って……やっぱ付き合う確率高いんだよな?」

「……あぁ、うん。ここ十年はそんな感じ。カップル成立率、七割超え。中にはそのまま結婚した人もいる。」

「……そっか。」

胸の奥がざらりと痛んだ。――もし悠里が優勝したら。
ミスコンの優勝者と、ステージの上で手を取り合って……付き合う、なんてこともあるのか。
あいつは顔も性格もいい。誰かに好かれても不思議じゃない。……でも、寂しい。俺の悠里は、俺が一番近くで見てきた。努力してる姿も、弱音を吐く夜も、全部知ってる。
誰よりかっこいいことを、俺が一番知ってる。世間に知らしめたいとも思うが、誰かに取られるなんて、嫌だった。そんな欲が顔を出していた。

「……はぁ。」

ため息が止まらない。
自分でも情けなくて、苦笑する。

そんなとき、アナウンスが響いた。

――「まもなく、ミス&ミスターコンテストを開始します!」

チャイムが鳴り響き、ざわめきが一段と大きくなる。
いよいよだ。

——

ミスコンが終わり、ざわめきの熱気がそのまま会場にこもっていた。
ステージの照明、カメラのフラッシュ、歓声。
まるで小さなフェスのような空気。
確かに、レベルが高い。どの出場者もすごかった。
全員がモデルみたいに華やかで、観客の目を惹きつける。SNSもテレビも、今この瞬間を逃すまいと盛り上がっている。

「いやー……ほんとにすごいな!」

蔵元が息を弾ませて言った。

「お前、毎年こんな感じなのか?」

「そうだよ。逸見くんも名前だけもSNSで話題だよ。」

「何で?」

「“唯一SNSで顔が特定されなかった候補者”として。逆にバズってる。」

「……はぁ。」

複雑すぎて、返す言葉もなかった。

そのとき、司会のマイクが高らかに響く。

「――続いては、ミスターコンテスト! 学内のイケメンたちによるステージです!」

歓声が一気に膨れ上がった。
ライトが落ち、ざわめきが静まり、ステージ中央に光が集まる。

一人目、二人目――。
登場するたびに歓声と拍手が上がる。どの候補者も堂々としていて、笑顔に自信があった。
確かに全員、華やかで完成された人たちだ。

けれど、俺の視線はただ一人を探していた。
最後に呼ばれる、その瞬間を。

「エントリーナンバー6番、工学部代表――逸見 悠里!」

呼ばれた瞬間、空気が変わった。
ライトが一点に集まり、白い靄のような照明の中から、悠里がゆっくりと姿を現す。

――誰だ、これ。

思わず息を呑んだ。
同じ顔のはずなのに、まるで別人みたいだった。
黒髪は軽くセットされ、前髪はすっきりと分けられている。
白のタートルネック、黒のロングコート。
あの日、俺と一緒に選んだ服だ。
でも今、その服を纏う悠里は、俺が想像した何倍も“完成されていた”。
姿勢は真っ直ぐ、歩くたびに空気が揺れるようだった。

「……ほんとに逸見くん……?」

隣の蔵元が小さく呟いた。
無理もない。俺でさえ、あんな悠里は知らない。

観客席がざわめく。

「誰!?」「見たことない!」「唯一特定されなかった人!?」「芸能人じゃないの?」「え、笑った……やば……」

そんな声が波のように広がる。

悠里はステージ中央で立ち止まり、ゆっくりと微笑んだ。
その瞬間、空気が一変した。
照明の色すら変わったように感じた。
あの笑顔ひとつで、観客を掴んだんだ。

やがて、特技発表が始まる。
サッカー、ギター、マジック……派手なパフォーマンスが続く中、最後に悠里の番が来た。

「では、逸見さん。何を披露されるんですか?」

司会がマイクを向ける。
悠里は少し間を置き、静かに答えた。

「……歌を歌います。この歌を、ある人に捧げます。」

会場の空気が、一瞬で変わった。
ざわめきが止み、照明が落ちる。
音楽が流れ始めた。

――それは、俺と一緒に練習したあの曲だった。

切ないバラード。
大切な人への想いをまっすぐに歌ったラブソング。
悠里はゆっくりと目を閉じ、柔らかく、けれど芯のある声で歌い出した。

静まり返る会場。
その声が空気を震わせ、まるで胸の奥を撫でるように響く。誰もが聴き入っていた。隣の席の女子は涙を拭っていた。男たちでさえ、息を詰めて見ている。

……ああ、やっぱり、逸見悠里は、世界一かっこいい。心の底から、そう思った。

曲が終わる。静寂。そして――爆発するような拍手。悠里は一礼し、観客席に微笑んだ。

その一瞬、――俺の方を見た。心臓が跳ねる。
あの目は、確かに俺を見ていた。そう感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

成長を見守っていた王子様が結婚するので大人になったなとしみじみしていたら結婚相手が自分だった

みたこ
BL
年の離れた友人として接していた王子様となぜか結婚することになったおじさんの話です。

推しのために自分磨きしていたら、いつの間にか婚約者!

木月月
BL
異世界転生したモブが、前世の推し(アプリゲームの攻略対象者)の幼馴染な側近候補に同担拒否されたので、ファンとして自分磨きしたら推しの婚約者にされる話。 この話は小説家になろうにも投稿しています。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

俺にだけ厳しい幼馴染とストーカー事件を調査した結果、結果、とんでもない事実が判明した

あと
BL
「また物が置かれてる!」 最近ポストやバイト先に物が贈られるなどストーカー行為に悩まされている主人公。物理的被害はないため、警察は動かないだろうから、自分にだけ厳しいチャラ男幼馴染を味方につけ、自分たちだけで調査することに。なんとかストーカーを捕まえるが、違和感は残り、物語は意外な方向に…? ⚠️ヤンデレ、ストーカー要素が含まれています。 攻めが重度のヤンデレです。自衛してください。 ちょっと怖い場面が含まれています。 ミステリー要素があります。 一応ハピエンです。 主人公:七瀬明 幼馴染:月城颯 ストーカー:不明 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 内容も時々サイレント修正するかもです。 定期的にタグ整理します。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

処理中です...