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優勝
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会場が暗転した。
ステージには、ミスコンとミスターコンの候補者、男女合わせて十二人。
ライトに照らされた顔が浮かび上がる。緊張した笑み、余裕の笑み――その中で、悠里は静かに立っていた。
何も飾らない、穏やかな表情。けれど、どこか確かな自信をまとっている。見慣れたはずの横顔なのに、どこか遠くに感じる。
光に包まれた彼は、まるで“別の世界の人間”みたいだった。
「それでは発表します!」
司会の声が響く。
瞬間、会場の空気がぴんと張りつめた。
ざわめきが遠のき、代わりに心臓の鼓動だけが耳の奥で響いている。
「第〇〇回ミスターコンテスト――優勝は……!」
ドラムロール。
ライトが回転し、候補者たちの顔を次々と照らしていく。会場全体が息を止めた。
「――工学部代表、逸見 悠里くん!!」
爆発するような歓声。
名前が呼ばれた瞬間、世界が光に包まれた。
拍手、悲鳴、フラッシュの嵐。
「逸見くん!」「やばい!」「顔良すぎ!」
――そんな声が会場を埋め尽くす。
けど、俺の耳には、何も入ってこなかった。
ただ、ステージの中央で笑う悠里の姿だけが、目に焼き付いて離れない。
「……やった……」
次の瞬間、俺立ち上がって、自分でも信じられないほど、大きな声で、叫んでいた。
「やったああああああ!!」
涙が勝手に溢れてくる。
周りの視線なんて、どうでもよかった。
だって、ただ嬉しかった。
あの陰で小さく笑っていた悠里が――今、みんなの前で、一番輝いている。
誰も見向きもしなかったあいつが、こんなにも眩しく笑ってる。
悠里はステージ中央でマイクを受け取って一歩前に出た。会場の熱気の中で、彼は穏やかに微笑んだ。やがて、ライトの中、少しだけ目を伏せ、 ゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。
「……僕に投票してくれたみなさま、本当にありがとうございます。」
一拍置いて、目を伏せる。
「でも――今日ここに立てたのは、僕を変えてくれた人がいたからです。」
そのまま、悠里は突然ステージの階段を下り始めた。
ざわめきが広がる。観客も司会も、何が起きているのかわかっていない。
まさか――。
まっすぐこちらに歩いてくる悠里と、目が合った。
その瞳はまっすぐで、まるで何かを決めているような強さを宿していた。
「その人がいなかったら、僕はまだ、何もできないままでした。だから――ありがとう、歩。」
……え?
俺の名前が、マイクを通して響いた。一瞬で、会場の音が消える。悠里が目の前に立っている。ライトの熱で少し頬が赤い。だけど、その笑みはやけに柔らかかった。
「ずっと前から好きでした。僕と、付き合ってください。」
……はあ???????
「ちょ、おま、なに、は、早くステージ戻れって!」
「やーだ。ねぇ、返事してよ」
軽く首を傾げる仕草。
観客席が爆発したように沸いた。
黄色い歓声が嵐のように巻き起こる。
「キャー!!」「え、告白!?」「歩って誰!?」
そうだ――ミスターコン優勝者が、今、公開告白をしている。テレビの前で。……SNSはもう、今頃地獄みたいに拡散されてるだろう。
それでも、悠里は目を逸らさない。真っすぐに、俺だけを見ている。
「というか!なんか!いつもより積極的じゃないか!!」
「だから言ったでしょ? 覚悟しておいてねって」
その笑顔――ああ、やめろ、それは反則だ。
初恋のあの日、運動会で見た笑顔と、まったく同じだった。
「……はい。」
俺が答えた瞬間、悠里が抱きしめてきた。
フラッシュが一斉に光る。
観客がどっと沸き立つ。
隣の蔵元なんて、ハンカチで涙を拭っている。
「何これ、ロマンチックすぎる!」「取材させてー!」「伝説確定!」
どよめきと歓声が交錯する中、悠里が耳元で囁いた。
「……ねぇ、ご褒美、今もらってもいい?」
「い、いいぞ……」
ここまできたら、もうどうにでもなれ。
その瞬間、唇が重なった。短く、けれど確かに。
「キャーーーーーー!!」
悲鳴のような歓声が爆発する。
俺はもう、顔が熱くて何も言えなかった。
悠里はそっと唇を離し、微笑んだ。
「ご馳走様。ご褒美、ありがとう。」
ライトの中で、彼はまるで――本物の王子様みたいに、堂々と笑っていた。
――こうして、波乱のミス&ミスターコンは幕を閉じた。
ただでさえ優勝者の少ない工学部からの戴冠。
そこに加えて、あの公開告白。
あの日の出来事は、瞬く間に伝説になった。
後輩たちは「ミス&ミスターコンで告白すれば成功するらしい」なんてジンクスを信じ始め、毎年の恒例行事になったみたいだ。
俺と悠里は、というと――毎日のように冷やかされる。
あの伝説のカップルとして、チラチラ見られる。
地味で目立たなかった俺たちも、一転して“知らない人がいない人間”になってしまった。
正直、最初のうちは恥ずかしくてたまらなかった。
もちろんSNSでも大バズり。
動画は切り抜かれ、ニュースサイトにも取り上げられ、テレビ局から出演オファーまで来た。
けど、全部断った。
俺たちは、ただ普通に笑って過ごしたかったから。
悠里にも芸能界からの誘いが山ほど届いたらしい。
けれど、どれも断ったという。
「目立つのは好きじゃないし、パソコン使う仕事に就きたいから」――らしい。
……そういうところ、やっぱり変わってない。
華やかなスポットライトより、静かな作業机の前が似合うやつだ。
「あーゆむー」
不意に、背中から腕が回される。
柔らかい声と、少しだけ甘い体温。
「……なんだよ」
「大好き♡」
耳元で囁かれ、思わず苦笑する。
……まったく、恥ずかしいやつだ。
「お前な……そういうの、外ではやめろよ」
「無理。好きなんだもん。」
頬を染めた顔を隠しながら、俺は笑ってしまった。
まったく、ほんとに……。
だけど、悪くない。
むしろ、この上なく幸せだ。
窓の外では、朝日がまぶしく差し込んでいる。
昨日よりも少し眩しく見えるのは、きっと――隣に悠里がいるからだ。
ステージには、ミスコンとミスターコンの候補者、男女合わせて十二人。
ライトに照らされた顔が浮かび上がる。緊張した笑み、余裕の笑み――その中で、悠里は静かに立っていた。
何も飾らない、穏やかな表情。けれど、どこか確かな自信をまとっている。見慣れたはずの横顔なのに、どこか遠くに感じる。
光に包まれた彼は、まるで“別の世界の人間”みたいだった。
「それでは発表します!」
司会の声が響く。
瞬間、会場の空気がぴんと張りつめた。
ざわめきが遠のき、代わりに心臓の鼓動だけが耳の奥で響いている。
「第〇〇回ミスターコンテスト――優勝は……!」
ドラムロール。
ライトが回転し、候補者たちの顔を次々と照らしていく。会場全体が息を止めた。
「――工学部代表、逸見 悠里くん!!」
爆発するような歓声。
名前が呼ばれた瞬間、世界が光に包まれた。
拍手、悲鳴、フラッシュの嵐。
「逸見くん!」「やばい!」「顔良すぎ!」
――そんな声が会場を埋め尽くす。
けど、俺の耳には、何も入ってこなかった。
ただ、ステージの中央で笑う悠里の姿だけが、目に焼き付いて離れない。
「……やった……」
次の瞬間、俺立ち上がって、自分でも信じられないほど、大きな声で、叫んでいた。
「やったああああああ!!」
涙が勝手に溢れてくる。
周りの視線なんて、どうでもよかった。
だって、ただ嬉しかった。
あの陰で小さく笑っていた悠里が――今、みんなの前で、一番輝いている。
誰も見向きもしなかったあいつが、こんなにも眩しく笑ってる。
悠里はステージ中央でマイクを受け取って一歩前に出た。会場の熱気の中で、彼は穏やかに微笑んだ。やがて、ライトの中、少しだけ目を伏せ、 ゆっくりと言葉を選ぶように口を開く。
「……僕に投票してくれたみなさま、本当にありがとうございます。」
一拍置いて、目を伏せる。
「でも――今日ここに立てたのは、僕を変えてくれた人がいたからです。」
そのまま、悠里は突然ステージの階段を下り始めた。
ざわめきが広がる。観客も司会も、何が起きているのかわかっていない。
まさか――。
まっすぐこちらに歩いてくる悠里と、目が合った。
その瞳はまっすぐで、まるで何かを決めているような強さを宿していた。
「その人がいなかったら、僕はまだ、何もできないままでした。だから――ありがとう、歩。」
……え?
俺の名前が、マイクを通して響いた。一瞬で、会場の音が消える。悠里が目の前に立っている。ライトの熱で少し頬が赤い。だけど、その笑みはやけに柔らかかった。
「ずっと前から好きでした。僕と、付き合ってください。」
……はあ???????
「ちょ、おま、なに、は、早くステージ戻れって!」
「やーだ。ねぇ、返事してよ」
軽く首を傾げる仕草。
観客席が爆発したように沸いた。
黄色い歓声が嵐のように巻き起こる。
「キャー!!」「え、告白!?」「歩って誰!?」
そうだ――ミスターコン優勝者が、今、公開告白をしている。テレビの前で。……SNSはもう、今頃地獄みたいに拡散されてるだろう。
それでも、悠里は目を逸らさない。真っすぐに、俺だけを見ている。
「というか!なんか!いつもより積極的じゃないか!!」
「だから言ったでしょ? 覚悟しておいてねって」
その笑顔――ああ、やめろ、それは反則だ。
初恋のあの日、運動会で見た笑顔と、まったく同じだった。
「……はい。」
俺が答えた瞬間、悠里が抱きしめてきた。
フラッシュが一斉に光る。
観客がどっと沸き立つ。
隣の蔵元なんて、ハンカチで涙を拭っている。
「何これ、ロマンチックすぎる!」「取材させてー!」「伝説確定!」
どよめきと歓声が交錯する中、悠里が耳元で囁いた。
「……ねぇ、ご褒美、今もらってもいい?」
「い、いいぞ……」
ここまできたら、もうどうにでもなれ。
その瞬間、唇が重なった。短く、けれど確かに。
「キャーーーーーー!!」
悲鳴のような歓声が爆発する。
俺はもう、顔が熱くて何も言えなかった。
悠里はそっと唇を離し、微笑んだ。
「ご馳走様。ご褒美、ありがとう。」
ライトの中で、彼はまるで――本物の王子様みたいに、堂々と笑っていた。
――こうして、波乱のミス&ミスターコンは幕を閉じた。
ただでさえ優勝者の少ない工学部からの戴冠。
そこに加えて、あの公開告白。
あの日の出来事は、瞬く間に伝説になった。
後輩たちは「ミス&ミスターコンで告白すれば成功するらしい」なんてジンクスを信じ始め、毎年の恒例行事になったみたいだ。
俺と悠里は、というと――毎日のように冷やかされる。
あの伝説のカップルとして、チラチラ見られる。
地味で目立たなかった俺たちも、一転して“知らない人がいない人間”になってしまった。
正直、最初のうちは恥ずかしくてたまらなかった。
もちろんSNSでも大バズり。
動画は切り抜かれ、ニュースサイトにも取り上げられ、テレビ局から出演オファーまで来た。
けど、全部断った。
俺たちは、ただ普通に笑って過ごしたかったから。
悠里にも芸能界からの誘いが山ほど届いたらしい。
けれど、どれも断ったという。
「目立つのは好きじゃないし、パソコン使う仕事に就きたいから」――らしい。
……そういうところ、やっぱり変わってない。
華やかなスポットライトより、静かな作業机の前が似合うやつだ。
「あーゆむー」
不意に、背中から腕が回される。
柔らかい声と、少しだけ甘い体温。
「……なんだよ」
「大好き♡」
耳元で囁かれ、思わず苦笑する。
……まったく、恥ずかしいやつだ。
「お前な……そういうの、外ではやめろよ」
「無理。好きなんだもん。」
頬を染めた顔を隠しながら、俺は笑ってしまった。
まったく、ほんとに……。
だけど、悪くない。
むしろ、この上なく幸せだ。
窓の外では、朝日がまぶしく差し込んでいる。
昨日よりも少し眩しく見えるのは、きっと――隣に悠里がいるからだ。
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