自己肯定感低めの不幸な義弟が完璧な義兄と大揉めに揉める話

あと

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4.200万円

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「黙ってないで何か言ったら?」

低く押し殺した声に、背中が震えた。
詰められて咄嗟に言葉が出た。

「あっえっとその、お金なくて…」

苦しい言い訳しか出てこない。
もっとマシな言葉を言えないのか、僕は。
すると彼は、少し哀しそうに笑った。

「ああなるほど…それで"売春"?」

「ちっ違う!求人票には、“話を聞くだけ”って……!」

必死に否定する声が震える。
でも自分でも分かってる。結局は同じことだ。
僕は、自分を安売りしようとした。
――最低だな。ほんとに。

詰め寄る声は冷たいのに、距離が近づくたびに僕の体温は上がる。
怖いはずなのに、心の奥では——触れてほしいと思ってしまう。

「あのさ、そんな怪しいバイト普通やらないよね?危機感ないの?」

「……だって、お金がないし…お父さんが亡くなって…」

「お父さんが!?」

あの人の表情が一瞬で変わった。驚きと、哀しみと。
やがてため息をついて、僕の手を掴んだ。
大きな手。温かくて、逃げられない。

「はあ、仕方ないな。ほら、行くよ」

「えっどこへ??」

「俺の部屋。いいでしょ?時給いくら?」

こんな状況で、少しだけ胸が高鳴ってる。

――ほんと、気持ち悪いな僕。

「2000円…」

「じゃあその1000倍払うから、俺と一緒にいて」

「はっはあ!?!?」

混乱する僕をよそに、彼は当然のようにエレベーターへと導いた。
狂ってる。いや、優しさか?
2000円×1000倍、単純計算で200万円。
そんな大金受け取れるわけがない。
こんな僕にそんなお金を渡すとか…この人はよほどお金が余ってるのか?

「……何かよからぬことを考えてるようだから言うけど、君だからだよ。」

「……えっ?」

「君が特別だからだよ」

そういうと微笑んだ。

「なっ何言って…その…えっと…」

そのまま手を引かれる。
部屋に入った瞬間、彼は笑った。

「改めていうね。久しぶりだね、彼方。会いたかった。」

彼は部屋に入って開口一番そう言った。
胸が痛む。
僕が壊したはずなのに。嫌われてるはずなのに。
どうしてそんなことを言えるの?

そして部屋に入るように促されたため、仕方なく入った。

「……久しぶり」

口が勝手に動いた。無視はできなかった。

胸の奥に、4年前の記憶が蘇る。
あの日、全部壊した。僕が全部。

「身長伸びたね。ちょっと痩せすぎじゃないか?ご飯代出すからいっぱい食べな」

あの人は気にせず話しかけてくる。
その間、僕はずっと黙ってた。
……何もなかったことになってる。
4年前のあの日、全てを壊した日。
あの日がなかったことになってる。

「さて、本題入ると、今後二度とこんなことやめてほしい」

「え?」

「わかるだろう?やめろって言ってるんだよ。俺じゃダメかな?俺が代わりにお金払うからさ」

「っ大丈夫!なんとか生活——」

「ダメ。なんなら一緒に住もう?家賃も食費も学費も全部出すよ??お父さん亡くなって寂しいだろう?」

「っ!」

心臓をえぐられた。
とんでもない提案。今の悩みを全部解決する救いの手。
でも、僕は……。

「ごっごめん」

「………何で断るの?」

「ぼ、僕がお兄ちゃんに…言っちゃいけないことしたから…」

「ああ、もしかして好きって言ってくれた話のこと?」

「…………!!!!あっ覚えてたの?」

「忘れるわけないじゃん。可愛かったなぁあの時の彼方。」

頭が真っ白になる。
信じられない。僕はただの気味悪い存在だったはずなのに。

「あの時の返事をしなきゃね。もう邪魔者もいないから。俺も好きだよ。だから付き合おう??俺からもう離れないで。このチャンスを逃したくないんだ」

「………え?」

まさかの4年前の告白の返事はOK。
信じられない。
あの時のお兄ちゃんの顔を覚えてる。
とんでもないものを見る目をしていた。
そしてすぐ母親が来て………。

ダメだダメだダメだ。逃げなきゃ。
例えば両想いだとしても、僕はお兄ちゃんの未来を壊す。逃げなきゃ。
僕は咄嗟に逃げようとドアの方向に走った。

「彼方!!待て!!」

お兄ちゃんの声が聞こえる。
でもそんなもの無視だ。

ああ何でこうなったんだろう。
変わらないこの気持ちは抑えて、前に進んでいこうと思ったのに。
でも、僕はとても嬉しいと感じてしまう。
あの人が僕のことを××だとという事実に。
――バカだな。気持ち悪いな、僕。
嫌われてるはずなのに、こんなことで舞い上がってるなんて。

ドアの前に辿り着いた。
ガチャガチャ

「えっなんで……?」

ドアが開かない。

「はードアに鍵かけといてよかった」

「目を離したらすぐ逃げるんだから」

「で、お話ししようか?」

「今も俺のこと好き?」

その一言で、胸の奥が焼けるように熱くなる。
ああ、やっぱり僕は逃げられない。
好きに決まってる。
——あなたは僕の、初恋の人なんだから。
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