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異世界生活

状況確認

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ステータスボードから得られた情報を簡単にまとめる。

3人ともレベル1だが人族では最強クラス。
蓮は肉弾戦向き。
桜は魔法戦向き。
向日葵は攻撃には向かないが、鉄壁のため無敵。

スキルなどは、使用すればレベルが上がり、性能も上がる。
魔法や技などは練習し、習得すればスキル欄に記載される。

ユニーク欄と属性欄は特例でない限りは変化しない。
ステータスはレベルが上がれば上昇する。

「と、まぁこんな感じか。肝心のレベル自体は……。やっぱり戦えば上がるんですか?」

「はい。対象を絶命させれば相手の生命力が流れ込み、一定値を超えると上がるようになっています」

やはり、戦闘は免れないようだ。

「戦っている人の傍に居るだけでレベルが上がることはないんですか?」

「はい。多少の経験にはなるので上がらなくはないのですが、かなり遅くなりますね」

実践を積むのと、見て学ぶのと、机上で学ぶことに、得られる差がある様に、戦闘中に何を行ったか、何を学んだかで経験値の差が出るようなものだろうか。

ゲーム世界の様に完全なシステム化されているわけではないため、そのあたりは感覚地になりそうだ。

ただ、素振りをすれば剣術スキルのレベルが上がるが、自身のレベルは上がらないという認識は間違っていなさそうだ。

「ですがお気を付けください。先ほども申し上げましたが、ステータスボードはあくまで目安とお考えください」

数値で勝っていれば、必ずしも勝てるわけではない。
使い方、熟練度、戦闘の慣れ、戦闘環境、所持品、そして運。

様々な要因が勝敗に影響する。

剣道では、明らかに筋力やスピードで勝っていても、子供や老人に負けることがあった。
自身が動きを止めた瞬間に打たれたり、打つのではなく誘い込まれて隙を突かれるなど様々な敗因があった。

勝負に絶対はない。
万全な状態で格下に挑んだとしても、負けることがある。
蓮は身をもって知っていた。

とくにこの世界では、元居た世界よりも魔法やスキルなど予測不能な状況が多い。
ゲームや漫画の様に、やり直しや死に戻りは無い。

ブラック企業での労働と保険金目当ての亡者どもの対応で元居た世界での生活には疲れていた。
妹達と幸せにゆっくりと過ごしたい。
その思いから異世界への誤召喚には、妹達の将来を除けば、自分自身の状況だけでいえば乗り気だった。

だが、ここは日本の様に平和ではない。
誤召喚は回避不可能な状況だったため、迷いはしなかったが、もし、回避可能な選択肢があれば、妹達の将来を考え、回避していたかもしれない。
妹達には見せないが、蓮は、それほどまでにこの世界への不安があった。

女神たちのチート加護はあるとはいえ、今一度、覚悟を決め直す必要がある。
密かに蓮は強くそう思った。


「ひまちゃんにはずっとレベル1で居てほしいような……。いやこの感覚が既にこの世界とずれているのか」

「うん。大事な感覚だけど、たしかにずれてはいるのかも」

いつ魔物に襲われるかも分からないこの状況で、この世界で、日本の様に平和に過ごせるわけがない。
向日葵はまだ4歳だが、少しずつ魔法やこの世界での生き方について教えていかなければならない。
いずれは人里に行き、人間の子の友達を作ったり、人間の社会で生きていけるようにしなければならない。

それが、年の離れた兄として、そして何より保護者としての責任だ。

「先に強くなったり、色々覚えたりして教えてあげれるようにならないとね」

「うん!兄妹パワーで頑張ろう!」

兄妹パワーというワードが少し微笑ましい。

向日葵だけでなく、桜もまだ高校2年生。
しっかり者の様に見えて、まだまだ幼い一面を残している。

きっと不安だろう。
召喚されることが決まった時に、何やら言葉を飲み込んでいたことを思い出す。

少し落ち着いたら聞いてみよう。
蓮はそう思い、話を先に進めた。

「じゃあこれからやる事なんだけど……。ユグドラシルさんは果物や野菜は作り出せるんですか?」

「はい。この世界のものであれば何なりと」

とりあえずの所、栄養は偏るが、果物があれば餓死はしない。
蓮はオタク知識をフル回転させて、現状で最適なプランを考えた。


「今ユグドラシルさんが着ているような服や靴、木の家や家具なども作れますか?」

「はい。お任せください」

流石、女神に一任された事だけはある。
生活水準を確保するうえで、最適な人選だ。


時計が無いため、今が何時か分からないが、明るさからして午前中くらいの時間帯だろうか。
時間の感覚や、曜日の感覚。
季節の移り変わりの有無。
この世界の人々の働き方や生活水準。

色々知りたいことは多いが、自分たち以外の事は全て後回し。

「よーし!とりあえず元気なうちに、服や靴、家や寝床、トイレの用意を済ませよう!」

蓮がそう言うと桜と向日葵は乗りよく拳を天に突き上げ『おー!』と声を上げた。


ステータスボードにも、もろに出ていた装備品の表記。
非常に恥ずかしいが、朝の支度中に突然誤召喚されたため、蓮はパジャマ。
桜と向日葵は制服のままだ。

地面が柔らかい芝生のため、立てているが、足は靴下のまま。

加護を授けるのならば、一緒に服も用意してくれればよかったのに。
この世界についての説明や、蓮達の生活面の全面サポート。

元をただせば、時空神クロノスの誤召喚が始まり。
それなのに、異世界に来てからは全てユグドラシル頼み。

蓮は、ブラック企業で頭の悪い上司の失敗の尻ぬぐいをした時を思い出し、ユグドラシルも苦労しているのだろうと察した。

「ん?そう言えば誤召喚の張本人の加護がないね」

「ほんと!駄神ちゃん……。そういうところも抜けてるんだね」

蓮と桜が『あいつ……』と残念な人に向ける表情を浮かべると、ユグドラシルが慌ててフォローした。

「あ、いえ!鑑定とアイテムボックスはクロノス様がお授けになったものです!」

心なしか時空神の当りが強調されていた気がする。

特に、時空神が与えたアイテムボックスは、居れた瞬間に時が止まるり保管されるため、食材も腐らない、素材も劣化しない。
その上、項目を押せば何が入っているのか詳細が見れるようになっている優れものだそうだ。

他の女神が加護を授けており、重複した加護を授けても意味がないと判断し、価値のあるものをと授けたのが高性能のアイテムボックスだそうだ。

「へぇ。ちゃんと謝罪のきもちがあって良かったよ」

蓮がそういうと、ユグドラシルはとても優しい性格のようで、蓮の同情を察知したが、駄神クロノスなどと悪口を言わずに、優しく笑って誤魔化した。

これから始まる異世界生活。
基盤を作るまでは忙しくなりそうだ。
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