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異世界生活

家を作っちゃう②

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向日葵の急なトイレ要望。
子供にはよくある事だ。

元居た世界の家の中なら慌てないが、来たばかりの世界で、立てたばかりの家。
問題なくトイレはできているのだろうか。

ユグドラシルは足早に3人をトイレに案内した。

湖側の玄関を背に、キッチンとダイニングの間にある右側のドア。
そこを開けるとさらに2つのドアがある。
向かって左側がトイレ。
右側が風呂だそうだ。

ユグドラシルは、トイレ側のドアを開き、中を見せ尋ねた。

「こんな感じであっていますか?」

トイレに行くと、要望通りの洋式トイレがある。
高さも丁度良い。
向日葵にとっては少し高く座りにくいため、小さな踏み台も用意されている。
これがあれば、用を足すときも足を置くことができる。

電球などはないが、蓮の背の高さ位の所に小窓があり、日の光が入るようになっている。
木製の格子こうしになっておりガラスはない。

小窓の下部には溝になっており、そこに土が敷き詰められ、外で見かけたスズランの様な小さい花が植えられていた。
木製の花壇の様な作りになっていた。

トイレという汚れた場所を少しでも綺麗にしようと気を使わせたのだろう。


「完璧です!」

まさに様式トイレ。
便器や便座は完璧に再現されている。

しかし、壁には見慣れぬ木の取っ手が付いているが、伝えていた背中側の貯水タンクは無い。
そして、肝心のトイレットペーパーもない。

「どうしよっか……」

用を足した後に、流す方法と拭くものがない。

「ご安心を」

ユグドラシルはそう言うと、見慣れぬ木の取っ手に手をかざした。

すると先ほど靴下を包み込んだ優しいぼんやりとした光が、トイレの空間全体を包んだ。

「終わりましたら、このようにここに魔力を流してください」

取っ手に浄化クリーンが発動するように細工をしているそうだ。

トイレを空間ごと綺麗にするため、排泄物も汚れたお尻も綺麗になる。
流す必要も拭く必要もない。
何なら手も洗わなくて良い。

要望以上の出来栄えに感動する。

「おしっこぉ」

「ご、ごめんごめん!」

大勢に見られていては出るものも出にくい。

向日葵がトイレを済ませた後、魔力を取っ手に流し込むために、ユグドラシルと桜を残し、蓮は外に出た。

中からかすかに声が聞こえてくる。

「ねぇね。でたぁ」

「ではもう一度やりますね」

「……。きゃぁ!すごい!」

凄く気になる。

ひとしきり感動した後に、トイレのドアが開いた

蓮兄れんにぃ!やっばい!すっごい!感動だよ!」

「そんなに!?お、俺も使ってみたい……」

聞き耳を立てていたと思われるのも良くないため、『そうみたいだね』などと言わずに、蓮は聞こえてなかった振りをした。

使ってみたいが、まだ尿意はない。
そして、あってもユグドラシルを同席させないといけないため、できない。

「後で魔力の使い方を教わろっか」

蓮がそう言うと桜は鼻息を荒くして『うん!』と答えた。
向日葵にも、元居た家同様に1人でできるようになってもらうために、魔力使い方を覚えてもらわなければならない。

そのままトイレ横のドアを開けて風呂場を見る。

ドアを開けると脱衣所。
トイレと同じく花壇付きの横長の小窓があり、4畳ほどのスペースがある。

4段の棚があり、他には何もない。
棚の幅は70cmセンチメートル程度、高さは桜の背よりも少し高いため、160cmセンチメートルほどだろう。

それを40cmセンチメートルくらいずつに区切ってある。

「ここに脱いだものを置けば良いのではないかと……」

蓮が最初ユグドラシルに伝えた時には、洗濯物を入れる籠を希望していたが、浄化クリーンの魔法で洗濯不要のため、脱いだ服を置く棚にしたそうだ。

しかも4つに区切られているため、1番下は使用せずに、上から順に蓮、桜、向日葵がそれぞれの背にあった高さの所に脱いだものを置ける。


そもそも浄化クリーンを使用すれば風呂入らない。
それに気付いた蓮はユグドラシルに作った理由を尋ねると、『湯あみ自体を好む場合もあるので、省かずに作っておきました』と答えが返ってきた。

ハイスペックすぎて本当に助かる。
最早ユグドラシルが主人公のようだ。

「それでこちらなのですが……」

ユグドラシルはそう言うと奥にあるスライドドアを横に動かし開けた。

中には広い洗い場と、大きい浴槽があった。
桜と向日葵が2人で湯船に浸かっても広々と入れるだろう。

洗い場には椅子があり、そこに座ると、目の前には持ち手のついた木の小箱がある。
拳サイズの木の小箱には無数の小さな穴が開いている。


「この木の取っ手に魔力を流すと、先の部分から温水が出るようになっています」

蓮の要望通り、完全にシャワーが再現されている。
しかも、魔法のおかげで、まさかのワイヤレスならぬホースレス。

洗い場はかすかに傾斜になっているため、端に水は流れていき、排水溝に流れるようになっている。
その排水溝から伸びだ硬い木の管は、湖から伸びた川の下流へと排水されるそうだ。

浴槽側には、湯口となる穴の開いた木箱があり、そこに魔力を流せばお湯が出るそうだ。
浴槽内には段差があり、低い部分には桜が、高い部分には向日葵が座ると丁度良い高さになるように設計されている。
お湯を抜くときは、底にある栓を抜くだけ。

シャワーの時同様に、木の管を通って下流に排水されるらしい。

「下流の流れが穏やかな所なので、増水時にも逆流しませんし、ある程度の太さがあるので何かが詰まることも無いかと思います」

そして、管の中には2か所に木製の格子こうしを設けているため、魔物が入ってくることもないそうだ。
ここでもユグドラシルのハイスペ無双。
もし職場の同僚に居たならば、女子と崇められたことだろう。

試しにシャワーとして用意された取っ手付きの木の小箱に魔力を流し込んでもらうと、かすかに湯気を上げながら、お湯が出た。
触るとちょうど良い熱さだ。

次に浴槽側の湯口を模した木の箱に魔力を流し込んでもらうと、湯口から湯気を上げなら大量のお湯が出て、10秒もしないうちに浴槽にお湯が張られた。

湯気が脱衣所と同じ花壇付きの横長の小窓から抜けていく。

「ふむ……。42度と言ったところか……。丁度良い……」

湯船に人差し指をつけ、シリアスな表情を浮かべて蓮が言う。
表情に深い意味はなかった。

「もう本当に……。駄神ちゃんはユグドラシルさんを見習うべきよ」

ユグドラシルの仕事っぷりに感動した桜。
『クロノスさんと交代してあげたら?』というとユグドラシルは困った表情を浮かべ、返答に困っていた。

出来ない上司と出来る部下の構図が異世界にも存在したようだ。

そんなやりとりの中、向日葵がユグドラシルの服を優しく引っ張り言う。

「ゆぐちゃん、すごいねぇ」

精霊にして植物の頂点たるユグドラシルに、ニックネームをつけて呼んだのは異世界広しと言えど向日葵が初めてだろう。
まさかそんな風に呼ばれるとは思っていなかったユグドラシル本人も驚いた。
そして、愛嬌Lv10が無双しているのか、嬉しそうな表情で『ふふふ。ありがとうございます』と答えた。

少量ではあるが、どちらもお湯を出している間は魔力を消費し続けることと、温度調整ができないことが難点だそうだ。

ユグドラシルには少し申し訳なさそうに説明されたが、そんなものは難点ですない。
異世界に来て、ここまで高性能の風呂に入れるなら文句はない。

「あ、最後にここの取っ手に魔力を流し込んでください」

ユグドラシルはそう言って、脱衣所の出入り口のドアの傍にある取っ手を指差した。
そこに魔力を流せば、浴室と脱衣所の両方に浄化クリーンの魔法が発動するそうだ。

湯あみをして、風呂の掃除も取っ手に魔力を流すだけ。
最高過ぎる。

改めてユグドラシルに感謝を伝え、他も見せてもらうことした。
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