【完結】R18 狂惑者の殉愛

ユリーカ

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第二部

第20話

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 エデルは駆け落ちの経路を考え準備を行う。教会に先に話を通し身を隠すホテルを吟味する。手持ちの金貨でも十分だったが念のため小切手も少し現金化しておいた。資金も問題ない。高飛び用の船も決めた。
 オスカーに裏切られる可能性も考えたがここに至ってはそこは信じるしかない。あの家令の力なしで駆け落ちは無理だ。最悪の事態を考え逃走ルートだけは伏せたがそれもこの家令の前では時間稼ぎ程度だろう。
 エルーシアの準備のために侍女ドロシーから情報を聞き出そうとしたが、女の勘ですぐにバレてしまった。

「駆け落ちね?駆け落ちなのね?!ステキすぎる!ときめいちゃったぞ!ご馳走様ぁ!!」
「は?いやそういうわけでは‥もう少し声を小さく‥」

 否定しているのにこの侍女は人の話を聞かない。鼻息の荒さが恐ろしい。

「ウェディングドレスなら任せて!ブーケにベールもいるわね。他には何?何?何?何が必要?!」
「‥‥一人で着られる目立たない色のドレスと‥」
「あ!指輪のサイズね!この間採寸したエルシャ様の薬指のサイズもメモしておくから!」
「いやそこまで言って‥」
「あと好きな食べ物に好きな花とか攻略情報もいるわね。ステキな夜でエルシャ様を口説きおとせ!メロメロ作戦だ!」
「いやそんなつもりは‥」
「あ、エルシャ様に普通の服はダメよ、エルシャ様は着痩せするけど出るとこ出てるからさ!普通の服だと多分ものすっごくエロくなるからね!」
「それはもうわかって‥」
「いいわね!絶っっ対エルシャ様を幸せにしてよ!」

 とんでもない情報量とすごい迫力でずいずい追い込んでくるドロシーにエデルはドン引きしていた。数人の侍女たちも壁に隠れてこちらを見ている。ドロシーの黄色い声でもう全て筒抜けだ。
 こんなはずではなかったのに。エデルは目元を覆う。

「頼みますからどうか内密に‥特に旦那様とエルシャ様には‥」
「キャーッサプライズ?サプライズなのね?!ロマンチック!カッコ良すぎる!くぅ!この乙女殺しめ!」
「全然違います」
「もう全身全霊で応援しちゃうぞ!安心して!絶対!誰にも言わないから!」
「いえ、もう後ろの皆さんにはバレてますが」

 尋ねる相手を間違えた。エデルは深く反省した。



 二人乗り用に気性の優しい馬を調教する。救急搬送用に使うといえばあっさりと許可が出た。エルーシアでも乗りやすいように二人乗りの鞍をのあぶみの長さを調整する。忙しい中での準備だったがエデルの気持ちは高揚していた。

 エルシャを手に入れる。二人だけでここを出る。あとは口説き落として隠し扉から連れ出すだけだ。



 だが日中の鉄格子越しの逢瀬で出来る話でもない。あれからラルドは夜会に出かけなくなってしまった。駆け落ちの話は二人きりで話をしたいと思うも夜はラルドがいるからダメだ。日中も護衛をつけてしまったらエルーシアは隠し扉から出てこない。自分でやったことだったが面倒臭いことになってしまった。

 そうしてエルーシアに話ができないまま準備を進めていたが、事態が先に動いてしまった。二人の関係がラルドにバレてしまった。




 鉄格子越しではダメだ。狂おしい程にエルシャを抱きしめたい。切ないため息を吐いてそう思っていたらエルーシアがこっそり会いに来た。目の前に見えたものが信じられない。

 なぜここに?護衛は?
 いや、もうそんなことはどうでもいい!

 息を切らしエデルの手の中に飛び込んできたエルーシアが愛おしくてそのまま物陰に掻っ攫いきつく抱きしめた。あの夜にエデルのタガは外れた。もう抑えるものがない。気が狂れそうな程に切ない。もう離れていられない。
 そしてエルーシアの涙ながらの告白にエデルの思考が怒りで飛んだ。ラルドがエルーシアを手に入れようとしている。もう一時でもあそこにおいて置けない。エルーシアにつけた護衛が守っているが時間の問題のようだ。急いでエルーシアと逃げたほうがいい。そう思っていたところでエルーシアの言葉にエデルの呼吸が驚愕で止まった。

「その‥逃げるために信頼が出来て馬を扱える誰かがいないかって」
「———え?」

 自分の思考と同じ事を言われ一瞬言葉に詰まった。なぜそれを?一拍おいてあの護衛が逃げる段取りを整えようとしていると理解した。主人を守るために気を配り策を施す。恐ろしく優秀だ。
 もうこの話に乗っかってしまえばいいのではないか?応じようとしたところでなぜかエルーシアが拒絶してきた。エデルではなく別の者に頼むという。意味がわからない。愕然としてしまった。

 別の人間?誰だそいつは?!

「なぜ?どうしてここで別の人間が出てくるんですか?!」
「わ‥‥別れようと思っている私の為にそんなこと‥‥」
「え?別れる?誰が?!何を言ってるんですか?!」

 エルーシアのとんでもない誤解にエデルはさらに驚いた。今更ながら自分はまだまだこの小悪魔をちゃんと理解していない。エデルのさらに斜め上をいく。自分はこんなに焦がれているのにどうして別れる話になるのか?だが話の流れがいい。その流れがエデルの背中を押した。
 一緒にここから逃げよう。そう口説き落とそうとしたところでラルドに見つかってしまった。

 もう少しだったのに‥‥

 エデルは心中で舌打ちした。


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