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第二部
第04話
しおりを挟む日々の記録を読み飛ばしページをめくれば時間が飛んだ。エドゼル誕生の一年後、正妻と側妻が相次いで子を出産した。正妻の子はラルド、エデルの異母弟。側妻の子はエルーシア、その名前から女の子とわかる。二ヶ月違いの義兄妹。
正妻の記述がずっと日記になかった。正妻とは白い結婚ではなかったのだとエデルは心中驚いた。だがエルーシアの誕生を喜んでいる反面でラルドの記述が全くない。ただ生まれた事実が記されていた。その反応の落差が露骨だ。つまり正妻とはその程度の関係だったのだろう。
二年足らずでトレンメル家当主に三人の子供ができた。それも全て母親が違う。若いが故か貴族ではよくあることなのだろうか、庶民の倫理観からはかけ離れている。自分も女の子とゆるく付き合っていたが三股など流石にありえない。後継をなさなければならないというのもわかるが、ここまでの日記の様子で生真面目だと感じられた父の淫行にエデルは少なからず驚いていた。
淡々と続くかと思われた日記がそこから変化する。
「‥‥無精?」
父エドアルドはエドゼルが生まれる直前に酷い熱病を患った。その時のことは日記にも書かれており、数日間続いたその高熱の後遺症でエドアルドは子を成せない体になったようだ。医師の診断書も入手したと日記に記されている。二人の子供が生まれる一年以上も前のことだ。そうなると辻褄が合わない。日記にもその混乱が記されていた。
「‥‥つまり僕の後に生まれた二人の妹弟は父の子ではない‥」
さらに酷い展開にエデルは目を瞑る。正妻と側妻は別の男と交わっていた。一夫多妻も相当だが貴族はどこまで乱れているんだろうか。貞節というものがないのか?苦いものがエデルの喉の奥を迫り上がる。
オスカーが言っていた自分が正当な侯爵家継承者であるという意味がやっとわかった。
父の血は自分しか受け継いでいない。
その後側妻が死亡。死因は産後の肥立ちの悪さのせいとされていたが、この状況ではなんとも言えない。当然父も側妻の不貞を責めただろう。自殺か他殺か病か。裏切られてもその側妻を愛していたのか父の悲しみが延々と日記には綴られていた。そこに正妻や残された子供たちの記述はない。
「僕は?正妻は?子供たちはどうなった?」
そう呟きページをめくった手が止まる。真っ白なページ。そこで日記は突然終わっていた。側妻の死を悲しんだまま。エデルは愕然とする。いくらページをめくっても続きは白紙のままだ。
「は?なんで?」
最後までページをめくり破られた箇所もないことも確認する。そしてやはり続きがないとわかりエデルは茫然とした。
「この後どうなったんだ?」
面白い読み物がいきなり途中で終わったような口惜しさにエデルが歯噛みをする。そしてあの家令の顔を思い浮かべた。
これは絶対にわざとだ。中途半端が過ぎる。こんなところでやめられては続きがものすごく気になるだろう。これでは自分が侯爵家から落ち延びた様子もわからない。
「これ以上先を知りたければあいつを呼べということか?性格が悪すぎるだろ」
日記を放り出しエデルは憤然とベッドに寝転んだ。
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