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第二部
第12話
しおりを挟む「ここには誰も来ません。誰も知らない」
「じゃあ私たちだけの隠れ家ね。素敵だわ」
鉄格子越しではない笑顔のエルーシアに愛しさが込み上げる。たまらずその体を抱き寄せた。
「すみません‥‥堪えられなくて‥」
「いいの‥私もずっとこうしたかった。ずっと‥‥」
ずっと触れたかった———
そう囁かれてしまえばますます堪えきれない。ブランケットの上に優しく押し倒す。そこでエデルの理性が警告を出した。
無垢で純粋なエルシャ。エルシャは開放的な街の女の子とは違う。性の知識もなさそうだ。同じように扱ってはきっと引かれてしまうだろう。怖がられて嫌われたくない。だからがっついちゃだめだ。
押し倒されて強張るエルーシアの体を宥めるように優しく抱きしめる。最初は指にキス。これは毎日の逢瀬でやっている。いつものように十本の指に口づけを落とせばエルーシアの体から力が抜けた。熱い吐息がエデルの耳にかかる。
早く触れたい、滾る欲求を宥めながらエルーシアの頭を撫で髪を手でくしけずる。そして甘い香りの髪に口づけた。指、髪、頭、耳。怖がられないように慎重に、でも少しづつ距離を詰める。逸る呼吸でエデルの背中を汗が伝う。焦ったいほどゆっくりとした口づけ、それでも鉄格子の中のエルーシアにはできなかった。額に口づける頃にはエルーシアの体の力はすっかり抜けていた。
「エデル‥」
エルーシアが目を潤ませて陶然と自分を見上げてくる。頬に唇を寄せればびくりと体を震わせたが怯えではないとわかった。次のキスを予告するようにそっとエルーシアの唇を親指でなぞる。涙が滲む目でエルーシアがそっと囁いた。
「エデル‥大好きよ‥」
「僕もお慕いしております、エルシャ様」
そしてそっと口づけた。鉄格子越しでは叶わなかった。何度も優しく触れあう。角度を変えて触れエルーシアの下唇を食むように唇で挟み舌を這わせる。顔中にキスを落としながら甘い口づけは続いた。エルーシアの鼻に抜ける声が耳朶に心地いい。自分の唾液で濡れるエルーシアの唇が月光で輝いていた。
初めてだろうに自分の口づけを辿々しく受け入れる。無垢と思っていた愛しい人はこんなにも甘やかで艶かしい。エデルはうっとりと目を細めた。
母親にそっくりだと言われているエルーシア。父がなぜ側妻を溺愛したのか、エデルは父の劣情を今理解した。
昔、この書斎で父とエルシャの母は抱き合ったのだろうか。二十年近く経って今こうしてここで僕達が抱き合っている。義兄と義妹に生まれついた運命で巡り会えた。だが僕達に血の繋がりはない。父の子と側妻の娘、まるで二人の生まれ変わりのようじゃないか。
顔を真っ赤にして浅く喘ぐ涙目のエルーシアにエデルはふっと笑みをこぼす。明らかに許容量がオーバーしていそうだ。
今日はここまでだな‥‥
奪ってしまえと情欲が訴えるが理性がそれを押し留める。
落ち着け。体を繋いだら女は変わる。倫理観の強いエルシャもきっと無垢ではいられない。流石にラルドにもバレるだろう。少しずつだ。
焦るな、大丈夫だ。僕たちは運命で繋がって惹かれあっている。
自身の性欲を宥めるようにエルーシアを抱きしめその背を撫でる。ペロリとエルーシアの唇を舐めそっと囁いた。
「続きは次の夜に。エルシャ様」
腰が抜けて動けなくなったエルーシアをエデルは横抱きにして部屋まで運んだ。苔むす様子から隠し通路は長い間使われていなかったとわかる。よくエルーシアが見つけられたと感心した。誰もいない寝室に入り愛しい恋人をベッドに優しく置く。初めて部屋に入ったが窓の鉄格子以外は作りの豪奢な部屋、暮らしに不足はなさそうだ。
「エデル‥‥行ってしまうの?」
甘えるような声に胸が切なく鳴る。差し出されたエルーシアの手を取った。
「そろそろ旦那様が戻られます。また明日会えます」
「でも鉄格子越しね」
「すぐです。またあの隠れ家に参りましょう。良い夢を」
「約束よ?あなたの夢を見るわ」
涙目でそんな可愛らしいことを言われては離れ難くなる。悲しげに目を伏せるエルーシアにせめてとそっと口づけた。ベッドで横になる愛しい人の誘惑から身を引き剥がす。焦がれる思いのままに隠し扉から外に出た。そこで当主を乗せ帰還する馬車の音が聞こえた。
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