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大好きなあなた
しおりを挟むその時ガサリと外から物音が聞こえ、メリッサの思考が止まった。
庭に何かいる。まさか本当に魔獣が庭に?ドキドキしながら窓からそっと庭を覗く。
半月の月明かりの中、庭にふわりと金色を帯びた毛皮が見えた。メリッサの心臓が跳ねた。
メリッサはガウンを羽織り、部屋履を引っ掛けて慌ててバルコニーに出る。ドキドキが止まらずつんのめる。手摺より身を乗り出して庭を見下ろした。
そこには美しい獣がいた。月の光を受け淡く金色に光る狼——あの魔狼だった。
メリッサは一瞬で目が奪われた。森の奥でしか会えないはずなのに‥‥。
「魔狼?!こんなところになぜ?!」
声が聞こえたのか獣がベランダを見上げて、目があった。びくりと魔狼が後ずさる。
「待って!行かないで!」
メリッサは辺りを見回し、昼間に目をつけておいた木に飛び移った。急いだのであちこち擦りむいたが構っていられない。
飛び降りるように着地して魔狼がいたあたりを見たが姿が見えない。逃げられたかと思ったが、メリッサの背後まで来ていた魔狼に驚いた。
よかった。まだいてくれた。安堵から思わず笑みが溢れる。
体はメリッサより大きい。おそらく襲われればひとたまりもない。でも森でたくさん会っていたせいか、恐怖心が湧かなかった。
「心配してくれたの?優しい子ね。ありがとう。」
月光を反射してキラキラと輝く魔狼がじっとメリッサを見ている。メリッサを怖がっていない。まるでメリッサの言っていることがわかっているようだ。
どうしよう、頭をなでたい。
「怯えないで。酷いことしないから。あなたに触れてもいい?」
そっと手を伸ばす。魔狼はびくりとした後じっと手を見て、そして鼻を近づけた。匂いを嗅いだのちぺろりと指先を舐めた。
『魅了』なしで懐いてくれた。嬉しくてメリッサは魔狼の頭をなでて首に抱きついた。太陽と森の木の匂いがしてさらに柔らかい毛皮に擦り寄る。
なんて素敵なの。会いたくってしょうがなかった魔狼に会えて今こうして抱きしめている。夢のようだ。ここに来て本当によかった。
涙ぐんだ目元を魔狼が舐めた。慰めてくれるかのようだ。メリッサはじんとした。
綺麗。優しい。賢い。なんていい子なの!!メリッサはすっかりメロメロだった。
「あなたとても綺麗。森であった魔狼はあなたよね?」
肯定する様に耳元を舐められた。
メリッサは嬉しくて魔狼に抱きついてそのまま寝転がる。尻尾を振ってメリッサの体を嗅ぐ魔狼は大きな犬のようだ。メリッサも存分に魔狼を撫でまくりぎゅっと抱きしめた。
「なぜあなたがここにいるの?ここは公爵様のお邸よ?」
寝転がるメリッサの首元を嗅いでいた魔狼はべろりとうなじを舐めた。くすぐったくて身を捩って笑った。
ここは元森だったから、きっとここは彼の縄張りなのだろう。バースが注意していたのはこの魔狼のことかもしれないが全然心配いらないではないか。こんなに人に懐いている。
魔狼をなでていた指が、かたい何かに当たった。首元の長い毛の中を探ると鎖が出てきた。青い石のついた首輪のようだ。
石には公爵家の狼の紋章と「シリウス」という文字が掘られていた。公爵家で飼われているのだろうか?魔狼を飼うなど、公爵家のスケールは大きすぎる。
「あなた、シリウスというの?素敵な名前ね。」
喉元を撫でながら呼びかけると気持ち良さげに目を細めた。今後ももっと会えるのかしら。嬉しくてほうとため息が出た。
この後散々魔狼を堪能したメリッサは暖かい毛皮に包まれて眠ってしまった。
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