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公爵家の暮らしと心遣い
しおりを挟む公爵からの贈り物は、到着初日に護衛でついた若者が毎日届けてくれた。名前をグライド。公爵の従者をしているという。
「公爵様はお変わりありませんか?」
「ご無事でございます。魔獣の数が多く手を焼いておりますが、程なく鎮圧できるかと。」
ハンターをしているのでメリッサは森の魔素に狂った魔獣の恐ろしさをよく知っている。メリッサは躱し方を心得ているが、討伐となると話は別だ。領民を守るために場合により盾とならなければならない。メリッサはぞくりとした。
お側に駆けつけたいと一瞬思ったが、深窓の令嬢のフリをしているのでそんなことは叶わない。
この設定が初めて心の底から面倒だとメリッサは思った。
「‥‥くれぐれも御身をお大事に、とお伝えください。」
何もできない。カードを渡してこう言うのが精一杯だった。
カードを受け取ったグライドは苦いものを飲み込んだような表情をした後に頭を下げた。
公爵家での暮らしは穏やかだった。
バースを始め使用人たちはメリッサを気遣い甘やかそうとする。屋敷全体でメリッサを構う手数が多く感じられた。
特に専属侍女の一人、アニスは何かとメリッサの世話を焼いた。
深窓の令嬢設定のせいかちょっと過保護ではないかと思ったが、公爵家の指導が行き届いているとも考えられる。
「本日はこのような形でいかがでしょう。」
アニスは腕がいい。品よく髪を結い上げ、シンプルなドレスに装飾品もなしでメリッサを美しく仕上げてくれた。宝石ジャラジャラで香水たっぷりの厚化粧なお茶会と違いこんなオシャレもあるのかとメリッサは驚いた。
アニスは侍女としてよく躾けられており、おそらくメリッサと年もそれほど違わないだろうに、清楚で気品もある。今は一線を引かれているように感じる。いずれ仲良くなれたらいいな、とメリッサは思った。
毎日公爵から届く花束でメリッサの部屋はあっという間に埋め尽くされた。魔封の森に咲く花は魔力が高く枯れにくい。たくさんの花束に囲まれ部屋にいながら森にいるようでメリッサの心は和んでいた。
花束と共に美しい贈り物も届いた。
ティーカップセット、レースが綺麗な日傘、新緑色のチェスセット。刺繍の道具に挿絵が美しい植物図鑑。毎日趣向が違う贈り物にメリッサは驚き喜んだ。ただただ公爵の気持ちが嬉しかった。そして今日は‥‥
「‥‥きれい‥。」
白銀の腕輪が届いた。初めての装飾品だったが、シンプルで普段使いできるデザインがいい。早速つけてみるとサイズもぴったりでメリッサの髪とも似合う色味だった。
何も返せないので、せめてと初めて便箋にお礼の言葉を綴った。まだ一度しか会っておらず顔も見たこともない。それなのに直接会って色々話をしてみたいと思った。
だから最後に“お早いお帰りをお待ちしております“と書き添え、グライドに託した。
翌日、公爵の帰還の報がもたらされた。
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