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拒絶

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「———様。お嬢様。」

 ロザリーに声をかけられてハッとする。どれくらい固まっていたのだろう。正面の席に公爵の姿はない。きっと怒って席を立ってしまったのだ。

「ロザリー‥、私‥‥」
「お顔が真っ青です。ひとまず部屋に戻りましょう。」

 部屋でロザリーと二人きりになり、メリッサは堪えきれず泣き出していた。

「どうしよう‥‥、こ、公爵様を怒らせちゃった‥‥。」

 ロザリーは子供のように泣きじゃくるメリッサをソファに座らせ、ハンカチで涙を拭き取る。
 
「魔獣に会ってはいけなかったのに破ったから‥‥。魔獣と関わる事をよく思われていないのかもしれない。どうしよう…公爵様にハンターのことを知られて嫌われちゃったら‥‥、私‥‥私‥‥」

 どうなってしまうんだろう。婚約破棄されたら、陽だまりみたいな公爵様にもう会えないの? 新しい涙が溢れ出した。ロザリーが子供あやすようにメリッサの頭を撫でた。

「公爵様はお嬢様がハンターだとご存知ないからご心配なのでしょう。もう近づかないと伝えれば安心なさいますよ。」

 普通に考えれば確かにそうだ。可愛いからと安易に素人が魔獣に近づいていいものではない。そんなこともわからないくらいメリッサは動揺していた。

「許してもらえるかしら‥‥」
「大丈夫ですよ。公爵様はお優しい方ですよね?」

 直接会ってお詫びしたかったが、泣き腫らした顔では会えない。仕方なく謝罪の手紙をしたため公爵に送った。しばらくした後、了解した旨のカードが公爵から届いた。

「全く、あの方も困った方ですね。お嬢様をこんなに泣かすなんて。」

 ロザリーの独り言は落ち込むメリッサの耳には届いていなかった。



 翌日、バースより公爵が伏せっていると聞いた。容態は問題なく遠征の疲れだと説明を受けたが、そんな体でお茶に誘ってくれた公爵の優しさが嬉しく、自分の発言でそれを台無しにしてしまったと気が沈んだ。
 お見舞いの先触れを出したが丁重に断られた。拒絶が辛い。
 カードではメリッサの謝罪を受け入れてくれたが、やはりまだ怒っているのではないか。そんな悲しい気持ちで午前は部屋に引きこもった。

 午後にグライドがメリッサを訪ねてきた。

あるじに代わり昨日の件お詫びしたく伺いました。」
「いいえ、私が言いつけを守らなかったのがいけなかったのです。ご不快な思いをさせてしまいこちらこそお詫びしなくては。」
「いえ、あの、そうではなく‥‥」

 グライドはなんとも歯切れが悪い。何か言いたそうだが口止めされている風でもある。

「お嬢様、せっかく来ていただいたのです。公爵様にお見舞いのお花とカードを届けていただいたらどうでしょう?」
「ああ!それは素晴らしい!是非!主も喜びます!!」

 グライドがロザリーの提案に食い気味に反応した。二人にせき立てられ庭に花を摘みにいくことになった。庭に出るのは躊躇ためらわれたが、グライドに、自分がお供するので大丈夫です!と勢いよく言われた。庭師に声をかけ美しい水仙を摘んだ。

「メリッサ様。」

 花を手に振り返ればグライドが膝をついて頭を下げていた。

「昨日の主はたまたま色々と‥‥悪かっただけで、普段は我々使用人にも気を配ってくださいます。どうか昨日のことが主の全てと思わないでください。」

 従者にここまで言わせる公爵の人柄にメリッサは微笑んだ。

「ええ、わかっています。公爵様はとてもお優しい方です。私にこんなに気を遣って頂いて‥、それなのに私‥‥」

 そのつもりがないのに不安で涙が出てしまった。グライドがオタオタと困ったように言い重ねる。

「詳しいことは申し上げられませんが、主はメリッサ様のことを怒ってはおりません。主が直接話せれば良いのですが‥‥」

 グライドはなんとももどかしそうだがメリッサは気づかない。
 メリッサから花とカードを受け取りグライドは複雑な表情で帰っていった。
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