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Ⅱ メガミ、俺。
013: 俺の嫁。
しおりを挟むま、それは置いといて。
俺はホクホクと宿屋に戻ってきた。もうご満悦だ。ポメも俺の様子に嬉しそうだ。
『素晴らしい買い物が出来てようございましたね』
「おうよ!これで存分に本が読める!観光もしつくしたし、しばらく引きこもりでいいな。じゃあ早速‥‥おっと、その前に」
俺はいそいそと姿見の前に立った。
「ただいま、俺の女神」
鏡の前でくるりと回ってみせた。そこにはスカートを摘んで微笑む俺の愛しいヒロインが映っていた。
いやぁ、ホント今日も俺の嫁は可愛いなぁ。スカート履いて大正解だわー
このワンピースもすごくいい!俺のためにおめかししました!的な感じがグッとくる。
ねえ?ルキアスのために今日は頑張ってオシャレしたんだゾ!どうかな?私、可愛いかな?
って?モジモジして?可愛い声で頬染めてさ!萌える!そんなこと言われてみたい!お願いします!是非言ってください!!‥‥ってあれ?
デレデレーッと鏡を見た俺はそこで初めて気がついた。鏡の中には憮然とした美少女。俺は鏡の前では基本デレデレしているためこういった表情はしない。
あれ?初めて見る顔だ。ゴキゲン斜め?でもこれもいい!くぅぅッ拗ねてても可愛いとか反則だろ?
『ちょっと、聞こえてる?』
可愛いお嬢様風を想定していたけど、実は学級委員タイプだった?それもいい!!
『ねえってば!』
もう!いつまでふざけてるの?チャイムなったわよ!って俺ばっか注意してくるおさげメガネっ娘真面目委員長?メガネ取ったら超絶美少女なんてお約束付きで‥‥
『私の声が聞こえてるの?』
「いやちょっと今妄想に忙しくて」
『聞こえてるならさっさと返事せんかッ』
ガツンと眉間に、デコピンにしては激痛クラスの衝撃が走って俺は仰け反った。その痛さにしゃがみこんで悶絶してしまった。眉間に陥没ができてそうだ。
いってぇぇぇッ
え?今のは?!俺の妄想じゃない?!
『私の!話を聞きな』
「えっとー?ちょっと待っててくださいねー」
俺と同じ顔の美少女が鏡の向こうにいるが鏡の美少女は俺と同じ動作をしない。そっくりな双子がガラス越しに鏡コントをしているようだ。
あれ?これ鏡だったよな?実はマジックミラー?壁の向こう側に部屋があってそっちに誰かいる?
俺は鏡を持ち上げて裏をのぞき込んだが当然板壁だ。続けて鏡の掛かっている壁をコンコン叩く。乾いた音、ここは三階の角部屋、この壁の向こうに部屋はない、壁の向こうは外だ。意味がわからない。とここで閃いた。
ピコーン!
わかった!アレか!童話に出てくる有名な鏡?「世界で一番キレイなのはアナタ!ではなく姫でーす!」って言う性悪いけずな———
『これ、普通の鏡だから』
「え?あれー?そうなんですか?へぇ?」
『ホントに記憶飛んでるのね』
鏡の中の嫁が目を伏せて落胆気味にふぅとため息を落とした。
あれぇ?普通の鏡?ってことは?つまり?
脳内に響く声は肉声ではない。ポメと同じ念話だ。
ということは?
え?えええぇぇぇ?!
『やっと話せるようになったわ。記憶がないのは厄介ね。あまり時間がないから。いい?これから』
「いやちょっと待って!すみません!先にお伝えしなければならない最重要事項があります!!」
『え?なになに?今はそれどころじゃ』
「ホント!これとっても!メチャクチャ大事!」
『な?何なのよ?!』
そう!嫁に出会えたら最初に言うことはもう決めていた。俺は鏡ににじり寄る。
ここは気合一発!決めるぞ俺!
「好きです!!結婚してください!!!」
『はぁああ?!』
「会えたら最初に伝えようと思ってました!大好きです!大切にします!絶対幸せにします!どうか俺の嫁に!!」
『あ、ああああ?今の状況理解してる?』
「バッチリしてます!やっと出会えました!これは運命です!鏡ごと嫁にいらしてください!あ、家事は全部俺がやります!貴方は俺のそばにいてくれればいいです!それと俺のことは是非“ダーリン”と呼んでください!」
鏡の美少女が絶句、その後わなわな震え出した。顔が真っ赤だ。
これは?喜んでる?好感触?嫁ゲット?やった!
『な!なんで私がそんな風に呼ばなきゃいけないのよ!』
「あ!照れてます?ダメですか?じゃあ“旦那様”でもいいです!もうそれだけで俺ご飯三杯いけます!"旦那様"!メチャクチャいい!是非それでお願いします!」
『い、いいいいい加減にしなさいよ!!!』
再び俺の眉間に衝撃が走り俺はのけぞった。デコピンで怒られた。俺の嫁は思いの外手が早いがそこもいい!だが悪手だったようだ。しょっぱなプロポーズで嫁の機嫌をそこねた!マズイ!外した!!
ズササーッと俺は勢い良く謝罪のスライディング土下座だ。誠意の謝罪は土下座一択である!
「すみません!ごめんなさい!許してください!身の程をわきまえず調子に乗りすぎました!俺のことは下僕で十分です!どうぞ下僕と!下賤な者と呼んでください!蔑んだ目で俺を殴って蹴ってください!!」
『や!キモッちょっと!貴方そういうキャラだったっけ?!私の顔でやめてよ!!』
そこで様子を見ていたポメがのそりと土下座の俺の隣に立った。姿はいつの間には魔狼の姿になっている。目は瞠っていた。
『これは‥‥まさか‥』
「ポメ?」
『‥‥この気配は‥‥女神‥‥なぜ‥なんということ』
「ん?なんだって?」
狼が鏡の少女に頭を垂れる。ポメに視線を落とした美少女がスッと表情を変えた。その表情は凜として厳威だった。
『上のガンドか。神の血を受けし者、許します。頭を上げなさい』
『ありがたき幸せ』
え?ポメは今メガミって言った?ポメは俺の嫁と知り合いだった?で?俺の嫁ってば女神様?!
なぜかそこはすとんと落ちた。記憶はない。鏡以外で面識もない。でもわかる。そうだ、この人は女神だ。この世界を統べる唯一無二の神にして女王。
『やっと私に気がついたわね。ずっと鏡から呼びかけてるのにデレデレしてて全然気が付かないんだから!』
「え?ずっと?いつから?」
『最初の日の朝からよ!!』
最初の朝。つまり二週間前、俺がこの世界で目覚めた日だ。初日から俺に語りかけてくれていたのに俺ってば全然気が付かなかった。
「えと?じゃあ夢も?」
『夢でなら話せるかと思ったんだけど。浮かれ過ぎてすぐ目を覚ましたでしょ。もうガッカリだわ』
今朝の夢で阻まれた障壁はガラスではなく鏡。この人は夢で鏡を見ろと俺に教えようとしてくれていたんだ。
この二週間、俺はずっとこの人を探していたのに、実はずっとそばにいたと?見つかるわけないじゃん!何やってんだ俺!!!
唖然とする俺に女神と呼ばれた美少女は少し冷静になったようだ。ふぅとため息をひとつ落とした。
『色々とひどいことになった。貴方の記憶と能力がここまで初期化されてしまったのは誤算だわ。状況はよくありません、すぐに対策を考えましょう』
「対策?」
ひどいことになった?状況がよくない?
全然わからない。
『“万物の支配者”の名に於いて汝に命じます。魔王よ、強くなりなさい』
は?
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