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Ⅱ メガミ、俺。
016: 俺の初陣
しおりを挟むこれは私情だ。魔王として中立を保つべきだと理性では思っても体が勝手に動いた。
私情上等!後で後悔するくらいなら今動く!
俺を乗せたポメが風を切って走る。ところどころで森の闇に飛び込み時空を抜ける。ポメは長距離の時空を飛べない。よって走りながら時空抜けを繰り返す。そうして俺たちは小高い崖の上に辿り着いた。
見える森のあちこちに小柄の亜人、ゴブリンが見えた。それも大量に。群れと呼ぶには多すぎる数だ。まるで統率された軍隊のよう。おそらく森の中にもまだいる。そして崖の下には大量のゴブリンの骸と追い詰められた人族の冒険者パーティが見えた。
数え切れない程のゴブリンを切って返り血に濡れた荒い息の赤毛の剣士、魔力枯渇で疲弊するも杖を構える魔導士、二人の背後には傷ついて意識のない盗賊にその傷を必死に塞ごうとする僧侶。
宿で俺に気さくに声をかけてくれたSランクパーティのお姉さん方だ。だが今は満身創痍のボロボロだ。
Sランクパーティがここまで追い詰められる。ゴブリンごときというが、この数は尋常じゃない。いかに強くても個の力が数に押し負けているんだ。お姉さんたちはなんとかここまで撤退したが崖に退路を阻まれた。
いや、ここに追い込まれたんだな。ゴブリンに地の利があったか。恐ろしく冷静だ。
大量の魔物、魔物暴走というわけでもない。魔物暴走は何かのきっかけで魔物たちが大量に群れて暴走を始める。通過点にあった森や街はひとたまりもなく壊滅する。魔物暴走なら脇目も振らず駆け抜けるだろう。その場合魔物の種族も混合となる。
だがここにいるのはゴブリンだけ、一糸乱れぬ動きで冒険者を狩っている。切り捨てられた仲間の骸に怯える様子もない。ゴブリンは基本臆病なヤツらなのに何かおかしい。
こういう場合はゴブリンキングやゴブリンシャーマンといった上位種が指揮を取るもんだがそれらがいる気配もない。ここにいるのはみんな雑魚ゴブリンだ。いるのは———
と、ここまで「ルキアス」の知識でそうわかった。「ルキアス」は魔物についても勉強していたようだ。ありがたい!
ふとポメの意見も気になった。
「どう思う?」
『何やら得体の知れない気配がありますな』
「あぁ、いるな。あれはなんだ?」
森の奥、時空の闇から何かがゴブリンに指示を出している。あれは知能が高い。ポメなら知っているかと思ったが。
『時空が歪んでよく見えません。あれが統率を取っているようです。これほどの数の魔物を支配下に置く力‥‥王よ、ご注意召されよ』
「そうだな、ひとまず降りてみるか」
崖を飛ぶように跳ねて魔狼が崖の下に降り立った。ソフトランディングでまるで鳥のようだ。俺を下ろした魔狼の体がズンと大きくなった。これは戦闘モード、上位魔獣が上げる威嚇の唸り声にゴブリンたちが後退った。
突然現れた金色の魔狼にお姉さんたちは驚くも、それから降り立った俺にさらに驚愕したようだ。色々説明したいのは山々だが、今は非常事態だ。
「え?!ルキアスちゃん?!」
「近くにいました。運が良かったですね」
ここは街のルートと異なる。逃げるなら街に行くことも出来たのに、街に魔物を寄せ付けないよう街と逆方向に逃げた。その選択が当たったわけだ。だってそこには俺がいたから。そう思えば笑顔がこぼれた。このパーティは持っている、運がいい。
「皆さんにまた会えて良かったです」
盗賊のお姉さんは怪我をしているが時間を掛ければ僧侶のお姉さんの治療で命は取り留めるだろう。今はその時間が必要だ。場違いな笑顔の俺に剣士のお姉さんが疲れたように吐き出した。
「良かったのかしら‥‥他のパーティとはバラバラに逃げたけど‥‥ただのゴブリン討伐だったはずが酷いことになったわ」
他にも冒険者がいた。それでもダメだったのか。ただのゴブリン討伐、だが相手が悪かった。俺はふぅと息を吐く。青ざめる魔導士のお姉さんに話しかけた。
「時間がありません。ここは俺が受け持ちます。結界は張れますか?これからは俺に構わず身を守ることに注力してください」
「でも!」
「大丈夫です。俺は‥‥なんとかなります」
きっとね。まだわからないけど。
笑顔の俺が手を振る。少し離れれば背後で結界を張る気配がした。俺の言うことを聞いてくれて良かった。
背後は崖で辺りは囲まれている。退路なし。さすがのポメもゴブリンの相手をしながら全員を乗せてこの崖を登れないだろう。森の奥のヤツがそれを許さないとわかる。
ゴブリンは人族の男は殺すが女は生かす。性的欲求のために拷問・強姦する。その執着で他のパーティではなくこのパーティを追い詰めたのだろう。俺達が負ければお姉さんたちは死以上の地獄が始まる。絶対に負けられない。
これは初陣、俺の初めての戦闘だ。ごくりと喉がなる。手が震える。でもこれは恐怖じゃない。高揚の武者震いだ。
戦闘を、流血をあれ程嫌っていたのに。
こんなにも血が滾る。
どうやら俺は本当に魔王だったらしい。
「さて、どうすっかな」
『陛下のお手を汚すまでもありません。お許しいただけましたら我が』
「お姉さんたちが見てる。それは奥の手な。まずはこれ!」
俺はじゃーん!と本を掲げてみせた。薄青の本。
俺の秘密兵器!魔導書・超初級編である。
背後にいる魔導士のお姉さんが絶句している。
まあそうだよねー こういう絶体絶命の時にやる冗談ではない。だが俺は至極正気だ。
これには深い深いわけがある。
魔導については色々と制約があるのだ。
・魔導士免許を持たないものの魔導の試し撃ちは必ず結界付きの専用の練習場で行うこと
・街から半径5キロ以内は魔導発動禁止
・人が密集している場所で発動してはならない
・許可エリア以外でも無免許で発動してはならない
・うるさいので夜の発動は禁止
・諸事情で街中で魔導を使う場合は必ず事前に届け出て許可を得ること
どこで練習せいってんだ!!
俺は本を壁に投げつけて悪態をついてしまった。普通の街に魔導練習場があるわけもない。練習のために街から離れるのも魔導初心者は魔物に襲われる危険がある。そもそも免許って?魔導士は資格かい!
こうなると練習場付きの学園で学ぶほうが手っ取り早いという話だ。魔導は学園でしか習得できないと教師が言っていたことはあながち間違いではなかった。魔導士目指す人は大変ダナー
だがここならほぼほぼクリアだ。無免許は目をつぶってくれ。仮免取るにもまずは撃たないと!緊急事態だ。実践が初撃ちになっちまったのは仕方がないだろ?
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