23 / 35
第4.0章 真相 – シンソウ
第17話
しおりを挟む「ありがとう‥絶対大切にするから‥」
カールの切れ切れの、消え入りそうな声と抱擁の中でセレスティアはほぅとため息をついた。
きつく閉じ込めるように抱きしめられる。もう逃さないと、ずっと一緒だとカールに誓いを立てられているようだ。
それでいい。セレスティア自身を求められているようでとても嬉しい。こんなことは生まれて初めてた。もっともっと逃さないと縛してほしい。
これはカールの魔法?そうならもっとかけてほしい。不安を笑い飛ばせるくらい。あなたを好きだと自信を持って言えるくらい。
そうすれば私はどこまでも強くなれる。
そんな思いでそっとカールの背中に手を這わせた。
「包帯を取って。」
カールがそっと耳元で囁く。
「あなたを見たい。どうかあなたの手で包帯を解いて欲しい。」
カールが抱擁を解いて身を離す。
カールに自分から自分を晒す。それはとても怖いことだ。ぶるりと震えれば励ますように手をぎゅっと握られた。
震える指先で包帯を解く。包帯がしゅるりと落ち、現れたカールの顔に息を呑む。目を閉じたその顔はそれだけで美しかった。
黒髪に柔和な優しい顔。肌は白い。頬が柔らかいのはもう知っている。少し薄い桃色の唇はそっと閉じられている。
そして瞳は——
ゆっくりと開かれた瞼の中から漆黒の双眸がセレスティアを見つめてくる。
目は口ほどにものをいう。確かにそうだ。知的で意志が強そうな、でもとても優しい。カールという人間を物語っている。
少し緊張した黒き瞳がやがて細められゆるりと弧を描く。
「やっと起きているティアを見られた。やっぱり綺麗だ。でも笑って欲しいな?」
セレスティアの涙を指で掬う。震えるセレスティアの顔を覗き込んだ。
「ずっと瞳の色を知りたかった。色は‥不思議な色だね?栗色なのに金色と赤が散っている。すごく綺麗だ。」
覗き込む黒眼はセレスティアの瞳を凝視し満足げに笑みを浮かべる。頬をするりとカールの手が撫でる。ずっと一緒にいたはずなのにセレスティアの頬に触れたのは初めてかもしれない。
魔法がある。でも怖い。
セレスティアは震えながら問いかける。
「私を見てがっかりしない?」
「何でさ?こんなに素敵なのに。」
「だって私‥可愛くないし‥」
言い淀むセレスティアに、うーん?とカールが眉間に皺を寄せて唸る。
「よくわからないけど剣術のせい?別に我が家は女性でも武術を嗜むよ?母も凄腕の使い手だし?か弱くて大人しい令嬢が魅力的とも思わない。」
「——本当に?」
「目隠しの状態でティアを好きになったのに今更見た目でがっかりなんてしないよ?でも見た目も綺麗だからすごく得した気分だ。辺境伯爵令嬢かどうかもどうでもいいし。」
にこりと笑うカールの顔に手を差し伸べ頬に当てがえば嬉しそうに微笑んだ。黒曜石のような美しい黒眼が煌めいた。その目に背筋がぞくりとする。
縛めを解かれた魔法使い。自分が解いてしまった。
視力を取り戻したこの少年はもう自由だ。自分の助けなしに自由に飛び立てる。その事実が無性に不安を煽る。
縛めていたのは私?それとも?
心細さでほろりと溢れた涙が止まらなかった。
「違う、約束したよ?側を離れない。ずっと一緒だ。」
全てを悟る少年がセレスティアを覗き込みそう囁く。セレスティアをこれほど理解して、不安さえ見透かして。だから?
「だから先に約束をくれたの?」
「違う、いや、それもだけど、僕がそうしたかったから。あなたが僕から逃げ出さないかとても怖い。帰ってきてくれると信じてるけどそれほどに僕は必死なんだよ?そのための約束。」
逃げ出す?なぜ?怪訝な顔をすればカールはバツの悪そうな顔をする。
「僕は目以外で嘘はついていない。でもティアに語っていなことがある。わかるよね?」
カールの正体。なぜ身を隠すのか。高貴な身分なのか。それとも何かの事情で誰かから身を追われる状況にあるのか。犯罪者ではないよね?
「僕自身と約束して欲しくてまだ言わなかった。ごめんね。でも絶対逃げないと約束して?」
「もうしてるわ。」
「でもとても怖いよ。」
自嘲気味に笑顔を翳らす。視線を落とす様がいつになく、なんとも自信なさげだ。
そして意を決したようにセレスティアを見つめた。
「僕の名はカール・ウォーロック・インペラトゥール・アドラール。アドラール家の三男で十二歳だ。」
ざーっと流れた情報の中でセレスティアの脳内にヒットしたのは———
「じゅ?」
「ん?」
「じゅうに?」
カールはえ?と眉をひそめてセレスティアを見つめた。セレスティアは青ざめて硬直している。
「え?え?じゅうにさい?」
「あれ?年齢はあえて言わないようにしてたけどいくつだと思ってた?というか刺さったのはそこ?」
目を瞠りきょとんとしたカールをあわあわと問い詰める。
「だって!十四って言ってなかった?」
「ん?そんなこと言ったかな?そんなヘマしたつもりないんだけど。あれ?十二って以前言ったよね?」
え?十二って言った?!うそ?!ではこっちが勝手に誤解したのか。十四だと。え?え?じゅうに?六歳年下?
「ええー!!そんなの嘘でしょ?ありえない!こんな賢い十二なんていないよ!」
「うん、実は嘘。僕は十四です。それでいいや。」
「それも嘘でしょ!もう!嘘言わないって言ったじゃない!!」
「うーん、じゃあどうしようかな。」
カールの胸ぐらを掴んでガクガクをゆすれば、カールも困った顔をする。
十四ならこんなもんだろうと思っていたのに、十二でこの身長。ないない。やっぱり嘘?
「十二?ほんと?背がすごく大きくない?」
「うん?兄二人もこのくらいだったよ。家系かな?兄たちは背が高い方だから僕もそうなる予定だし。ちなみに先月末に十二になったからセレスティアに出会った時は十一だった。」
「はぁぁぁ?!」
じゅういち?グイリオに言い訳するのに適当に十一か二と言ったのだが本当だった。実は七歳年下だったとか!早熟が過ぎる!!
セレスティアの動揺をよそにカールが冷静に質問してくる。
「ティアの誕生日は来月だったよね?たくさんお祝いしようね。また七歳差になっちゃうけどまあ年齢差なんて好きあえば問題ないから。そうなれるよう頑張るし。このくらいの差なんて王族ならよくある話だ。」
「お祝いなんていらない!嬉しくない!な!なんで私の誕生日を、歳を知ってるの?」
誕生日なんて絶対教えてない。年齢なんてもっての他だ。王族?なんの話よ!
苦笑した魔法使いが種あかしをする。
「あー、ごめんね。ウチの家族がね、ほんとお節介というか過保護というか。姉がいらん情報をじゃんじゃん投げてくるんだよ。そういうのが得意でね。出会って数日でティアのプロフィールを送ってきたよ。あ、僕は出会った時にティアが辺境伯爵令嬢だってわかったから。」
「な?なんで?実家の名前使ったのに?!」
「実家の名前では不十分。縁故ですぐわかったよ。本気で偽るなら名前も本名使わないほうがいいよ。」
それはカールだからでは?普通はわからないでしょ?何か色々おかしい。
茫然とするセレスティアをカールが嬉しそうに抱きしめる。
「でも嬉しいな、僕から逃げなかったね?」
「こ、ここここの程度じゃ、にに逃げないわよ!」
謎の強がりを見せる。我ながら本当に謎だ。
とってもと——っても驚いたけどね!そしてちょっと自分が犯罪者のようにも思える。イタイケな少年を年上のオバサンがいいようにしているように見えないよね?自由恋愛‥だよね?見た目は大きいから大丈夫?いやそれでも子供か!
‥‥いやいや、貴族間であればこの程度の歳の差は普通‥だよね?普通?普通は男性が年上だが。きっとカールの精神が老けているのが悪いんだ。
実際は私がカールにいいようにされてるのに!
こんな老けた十二歳は絶対にいないんだから!!
0
あなたにおすすめの小説
【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する
ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。
夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。
社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。
ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。
「私たち、離婚しましょう」
アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。
どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。
彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。
アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。
こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです
有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。
けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。
助けた騎士は、王の右腕。
見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。
王城で評価され、居場所を得ていく私。
その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。
「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。
選ばれるのを待つ時代は、終わった。
【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?
との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」
結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。
夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、
えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。
どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに?
ーーーーーー
完結、予約投稿済みです。
R15は、今回も念の為
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる