34 / 35
第5.5章 外伝 – オマケ
外伝 車の中②
しおりを挟むじゃあどうぞ、と言わんばかりににこにこと天使の笑顔でカールが両手をあげる。自分は触らないと言う意思表示だ。しかし何ともやりにくい。
「‥そんなに見ないでよ。」
「え?見てないとわからないよ?」
「されたことぐらいわかるでしょ!」
美味しいから見てたいのに、とカールがため息をついた。そして荷から大きめの布を引っ張り出して目に巻いた。
「僕もティアには甘いよね。これならいいでしょ?」
目隠し。包帯ではないが、以前と同じ状況だ。
セレスティアの鼓動が早くなる。
緩く巻かれた目隠し。すぐに外せるものだがそれでもこの少年を縛めて支配しているようでゾクゾクする。
今彼は自分だけのものだ。
そっと頬に触れればカールが嬉しそうにその手に自分の手をあてがう。
「なんだ、僕が目隠しすれば触れてくれるの?ティアは攻められるより攻めたい派?」
「そ、そんなんじゃあ‥」
口籠ればカールがその掌にそっと口付けた。セレスティアがふるりと身を震わせる。
「これはイヤじゃない?あとはどんなことしてくれるの?」
カールにされて嬉しいこと。
頭を撫でられるのは嬉しい。手櫛で髪を梳かれるのも好き。その通りにすればカールが心得たように笑みを深める。
始めてしまえば大胆になった。見られていないと思えば恥ずかしさもない。額にキス。鼻、頬のキスも好き。耳のキスも。耳にキスを落とせばカールが初めて身を震わせた。その様子に背筋にぞくりとしたものが迫り上がる。
あ、意外とこういうのいいかも。
そういえば耳が弱いんだっけ?
耳にキスをたくさん落とせばカールの呼吸が早く浅くなる。
「‥‥口はダメ?」
切羽詰まったようなカールにそう問われる。
ダメじゃない。したい。だけど自分からする勇気がない。
そんな思いでもじもじと躊躇っていれば力強く引き寄せられてキスされる。そして壁ドンよろしく馬車の壁に押しつけられ抱きしめられていた。さらに口づけと抱擁が強くなる。
セレスティアはカールの首に縋り付いて必死にキスに応えていた。
「‥‥ヤバい‥目隠しハマりそうだ‥」
「ふぇ?」
荒い切れ切れの呼吸。唇の上で触れ合うように囁かれる。目隠しの下、カールの目元や頬が赤く上気しているのがわかる。ペロリとセレスティアの唇を舐める。
セレスティアもいっぱいいっぱいだ。セレスティアがするはずが主導権はすでにカールに奪われていた。
「感度がいいというか妄想が膨らむというか‥脳が勝手に色々考えるんだよ。見えなくて他にやることないからかな?」
「な‥!!」
何を?と問おうとして慌てて言葉を飲み込んだ。
問えばものすごいことを語りそうだ。きっと無駄に聡すぎるんだろう。本当に無駄だ。
椅子の上で膝立ちから身を離し、目隠しを外したカールがうっそりと微笑んでセレスティアを見下ろす。
柔らかい顔立ちの雅な少年からドロドロと色香が溢れ出ていた。それは淫らと違う少年らしき青さを孕んでいた。
セレスティアは浅い呼吸でただ茫然とそれを見つめていた。
セレスティアが抵抗を感じないのはその色香にいやらしさがないから。清々しいその欲求は知識欲と好奇心も含まれているからだろう。
何を思ったかカールはすっと目を細め、手にしていた布をセレスティアの目元に巻きつけた。
「な?!なに?!」
「これは好奇心かな?ティアが目隠ししたらどうなるか見たい。」
「へえぇ?!」
予想外の展開にセレスティアが身を捩るが抱きしめるカールから逃れられない。
「なんで?!これは聞いてないよ!」
「まあお試しね。ティアもどうかな?こういうのもあるって授業でもやってた。」
「ジュギョウ?授業ってなに?!」
「えっと、兄さん達の『色仕掛け対策』の授業でこういうのやってたんだよね。」
色仕掛け対策?!なんだそれは?
カールん家はそういう立ち位置?
というか?
「お兄さんいたの?!」
「歳の離れた兄が二人。二十二と二十。上の兄は結婚してる。言わなかったっけ?言ったよね?」
「聞いてないよ!」
「そうだっけ?あとは十六の姉に八つの妹、二つの弟。僕は四番目の生まれ。全員同じ母の子だよ。」
六人兄弟姉妹。上が二十二で下が二歳なのはよくわかった。すごい歳の差だ。お母様すごい!
「で、さっきの続きだけど九歳の時その授業の初心者級と上級を受けたんだ。知っといて損はないだろうって。」
「はぁ?!上級?九歳で上級?!」
壁に身を預け目隠しのセレスティアは言葉を失う。上級はとんでもなくヤバいやつなんじゃ?!何てものをこんな聡い子供に仕込んでくれたんだ!!
「大は小を兼ねるから上級を受けとけって二番目の兄がね。お陰で一番上の兄に付き合って後から受けた初心者級は全然足しにならなかった。」
「でしょうね!初級とか中級は?!」
「すっ飛ばした。上級で何とかなるし。」
なるわけないじゃん!これは大は小を兼ねないやつだよ!上級なんて絶対異常に危ないやつだ!
だから!だからカールのこの方向の言動が過激に偏ってたのか!しかもそれを好奇心の強いカールに仕込んだとか!なに怪物作っちゃってんのよ!
なんて恐ろしいことを!恨むぞ二番目の兄!
セレスティアはここで初めて、心の底から全力で事情に納得し、次男に呪詛を呟いた。
この好奇心が強く行動力もある少年のスイッチが入った。倫理観も希薄な年頃。これは暴走するってもんだ。
目隠しされたセレスティアは慌てて説得に入る。
「カール!ダメだよ?!ここは冷静に理性と節度を持って!!」
「流石に最後までしないよ?ティアより背が大きくなるまでね。でも途中まではいいよね?」
「はいぃ?!?」
「ほら、ティアが欲求不満で他の男に食いつかない様に僕と仲良くしとけばいいでしょ?ちゃんと僕にメロメロになってね?」
「もう十分!十分メロメロだから!!」
「そうかな?全然足りないよ。」
ぎゃあぁっ 途中までって?足りないって何が?これが知能の無駄遣い?!こんなに聡いのに勿体無いよぅ!!
受けたのは本当に色仕掛け対策の授業だったの?!なんかもうディープ過ぎて主旨違ってきてるよ?
ワタワタと暴れるセレスティアを見てカールはとっても楽しそうだ。
「まだ何にもしてないのに真っ赤だね。色々やろっかなと思ったけど可愛いからこのままでもいいかも。」
「目隠しが可愛いとか怖いから!早くこれ外して!もう外すよ!」
「まだダメだよ。もっと色々しようね!」
カールは楽しそうな声をあげてセレスティアを抱きしめた。
もっとって?色々?一体何されるの?!
もうヤダ、タスケテ‥‥
ほんともう、この少年に勝てる気がしない‥‥
絶対逃れられない危険な底なし沼にハマった自分を自覚し、セレスティアは心中で敗北のため息をついた。
2
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。
Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。
そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。
そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。
これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)
【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
旦那様には愛人がいますが気にしません。
りつ
恋愛
イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。
※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる