【完結】盲目な魔法使いのお気に入り

ユリーカ

文字の大きさ
35 / 35
第5.5章 外伝 – オマケ

外伝 光の中

しおりを挟む



 旅立つ二人と狼犬の姿を屋敷の二階の窓から眺める侍女はそっと安堵の息をついた。

 王太子妃より家出をした第三皇子を守るよう指示を受けた。
 まだ十一という年齢でありながら頭脳はすでに賢者と謳われるほどに叡智えいちがある。剣術も将軍を賜る兄に鍛えられて人並み以上の強さを身につけている。
 だがまだ肉体は子供、どうにもならないこともあるだろう。そこを王太子妃始め姫達が気遣った。

 命を受け影はひっそりと少年に付き従った。

 狼犬だけを連れた少年は旅先でも笑顔はなかった。ただ一人で城を出た決意を考えれば当然だろう。

 影は付き従うだけ。病んだ少年をおもんばかっても慰めることはできない。ただそっと見守る。

 奈落を歩いた少年は外界に出てもやはり奈落の闇の中だった。

 恐ろしく聡い少年は幼い頃から戦場にいた。それは自分の境遇にも通じる。だが自分よりずいぶん幼いが故に心に闇を負った。

 影となり人を殺め自分も奈落を知った。最初に殺めたものの顔は今でも覚えている。それは善人ではなかったが最初とはそういうものだ。それを思い出せば今でも平静でいられないこともある。

 守る為に必要。その技術を仕込まれ戦う術を叩き込まれた。そして最後にすまなかったと抱きしめられた。その手に自分は救われた。
 自分には光へと導く手があった。今はもうないその手を懐かしむこともある。それが奈落に落ちない拠り所となった。そしてそのおかげで一族最強とまで呼ばれるまでになった。

 だがあの少年には今誰もいない。ただ闇の中をひたすらに歩いている。自分と思考が似た少年の願いが手に取るようにわかる。

 影は寄り添い見守るだけ。何もできない。
 闇を彷徨う少年にかつての自分を重ねる。
 だから影は願い祈る。

 今だけでもいい。自分の時のように。
 誰かあの盲目な少年の手を取ってはくれまいか。

 そう願いやがて少年の前に一人の女性が現れる。

 偶然の出会い。仕組まれたのではと思えるほどの邂逅カイコウであった。
 あれを運命の悪戯というのかもしれない。だが悪戯でもいい。少年は一人ではなくなった。影はその奇跡に感謝した。

 その奇跡は少年の手を取り光へと導く。
 そして今、二人は手を繋いで光の中を旅立っていく。

 いずれは戻るであろう闇に中でもあの二人であれば歩んで行けるだろう。そう確信し侍女はふわりと目を細めた。

 だが城にいる姫様達はそれで納得するだろうか?

 姫様達の気持ちもわからないではないが、二人だけになりたがっている少年は付きまとう影の存在に激怒することだろう。そこまで予想し侍女は視線を落としため息をついた。

 自分は姫様を、王太子妃をお守りする為に控えているのだが、どうやら長い旅に自分もでなければならないようだ。

 だが影とはそういうものだ。
 命を受け付き従うものの側に寄り添う。
 闇でありながら共に光の中を歩く影の存在。
 そして盾となり二人を万難より守ってみせよう。

 闇を纏う侍女は密やかに笑みを浮かべた。

 二人の幸せを願いつつ侍女は音もなく、その気配をゆらりと闇に溶かした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

離婚した妻の旅先

tartan321
恋愛
タイトル通りです。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今さら遅いと言われる側になったのは、あなたです

有賀冬馬
恋愛
夜会で婚約破棄された私は、すべてを失った――はずだった。 けれど、人生は思いもよらない方向へ転がる。 助けた騎士は、王の右腕。 見下されてきた私の中にある価値を、彼だけが見抜いた。 王城で評価され、居場所を得ていく私。 その頃、私を捨てた元婚約者は、転落の一途をたどる。 「間違いだった」と言われても、もう心は揺れない。 選ばれるのを待つ時代は、終わった。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...