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第5.5章 外伝 – オマケ
外伝 光の中
しおりを挟む旅立つ二人と狼犬の姿を屋敷の二階の窓から眺める侍女はそっと安堵の息をついた。
王太子妃より家出をした第三皇子を守るよう指示を受けた。
まだ十一という年齢でありながら頭脳はすでに賢者と謳われるほどに叡智がある。剣術も将軍を賜る兄に鍛えられて人並み以上の強さを身につけている。
だがまだ肉体は子供、どうにもならないこともあるだろう。そこを王太子妃始め姫達が気遣った。
命を受け影はひっそりと少年に付き従った。
狼犬だけを連れた少年は旅先でも笑顔はなかった。ただ一人で城を出た決意を考えれば当然だろう。
影は付き従うだけ。病んだ少年を慮っても慰めることはできない。ただそっと見守る。
奈落を歩いた少年は外界に出てもやはり奈落の闇の中だった。
恐ろしく聡い少年は幼い頃から戦場にいた。それは自分の境遇にも通じる。だが自分よりずいぶん幼いが故に心に闇を負った。
影となり人を殺め自分も奈落を知った。最初に殺めたものの顔は今でも覚えている。それは善人ではなかったが最初とはそういうものだ。それを思い出せば今でも平静でいられないこともある。
守る為に必要。その技術を仕込まれ戦う術を叩き込まれた。そして最後にすまなかったと抱きしめられた。その手に自分は救われた。
自分には光へと導く手があった。今はもうないその手を懐かしむこともある。それが奈落に落ちない拠り所となった。そしてそのおかげで一族最強とまで呼ばれるまでになった。
だがあの少年には今誰もいない。ただ闇の中をひたすらに歩いている。自分と思考が似た少年の願いが手に取るようにわかる。
影は寄り添い見守るだけ。何もできない。
闇を彷徨う少年にかつての自分を重ねる。
だから影は願い祈る。
今だけでもいい。自分の時のように。
誰かあの盲目な少年の手を取ってはくれまいか。
そう願いやがて少年の前に一人の女性が現れる。
偶然の出会い。仕組まれたのではと思えるほどの邂逅であった。
あれを運命の悪戯というのかもしれない。だが悪戯でもいい。少年は一人ではなくなった。影はその奇跡に感謝した。
その奇跡は少年の手を取り光へと導く。
そして今、二人は手を繋いで光の中を旅立っていく。
いずれは戻るであろう闇に中でもあの二人であれば歩んで行けるだろう。そう確信し侍女はふわりと目を細めた。
だが城にいる姫様達はそれで納得するだろうか?
姫様達の気持ちもわからないではないが、二人だけになりたがっている少年は付きまとう影の存在に激怒することだろう。そこまで予想し侍女は視線を落としため息をついた。
自分は姫様を、王太子妃をお守りする為に控えているのだが、どうやら長い旅に自分もでなければならないようだ。
だが影とはそういうものだ。
命を受け付き従うものの側に寄り添う。
闇でありながら共に光の中を歩く影の存在。
そして盾となり二人を万難より守ってみせよう。
闇を纏う侍女は密やかに笑みを浮かべた。
二人の幸せを願いつつ侍女は音もなく、その気配をゆらりと闇に溶かした。
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