【完結】ハンターを愛する公爵閣下の結婚

ユリーカ

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お茶をご一緒に

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 メリッサが邸に来て一週間経ったがアレックスの狼耳だけが消えなかった。

 二日の予定を押してアレックスは番屋で一週間我慢した。魔素は落ち着いてきており尻尾はようやく消せたが、耳だけがどうにもならない。まだとても帰れる状況ではないのだが。

 アレックスは禁断状態にあった。
 あの甘い懐かしい香りに。柔らかい肌に。添い寝した時の暖かい体の温もりに。鈴音のような軽やかな声に。そして輝く笑顔に。一度知ってしまえば後戻りはできない。会えなくてもせめて同じ邸にいたい。
 なだめるグライドを押し切りアレックスは帰還を決めた。このままでもどうせ恋焦がれて気がふれてしまうだけだ。

 この一週間、アレックスはメリッサに毎日花束と贈り物を送った。まさかこんなことになるとは思わなかったが、ダリウスに言われて贈り物を準備しておいてよかったと思った。手紙では何枚になるかわからん!とグライドにカードにさせられた。

 領主の仕事を鬼速で終わらせてカードに書くメッセージを一時間かけて考える。カードに添える花を探して自ら手折る。飛竜で贈り物を届けたグライドから返事を受け取りメリッサの様子を聞く。メリッサに会えたグライドに愚痴る。
 これがアレックスの一日になっていた。

 熱意が通じたのか、メリッサからのカードも、討伐で帰還できないアレックスを労るものや、体調を気にかけるものが増えた。初日に添えられた押し花は初めてメリッサから贈られたもの。アレックスの宝物だ。
 昨日は美しい便箋に書かれた手紙が届き、狼耳が消えずイライラするアレックスの心を癒した。
 “お早いお帰りをお待ちしています”の一行に、我を忘れすぐにでも帰ろうとしたアレックスをグライドがぶん殴った。
 
 この一週間、一番キツかったのは暴走する主人の面倒を見たグライドかもしれない。

「やっとお前の嫉妬や殺気から解放される。一週間しんどかった‥‥」
「仕方ないだろう。お前だけメリッサに会っていたのだから。」
「そう仕方ないんだよっ これが仕事なんだから。俺じゃなかったら誰がカード届けるんだよ?!」
「俺が行けばよかった。魔狼の姿なら問題なかったんだ。」
「どこに公爵様のカードを運ぶ魔狼がいるんだよ‥‥」

 恋とは本当に恐ろしいものだ。あんなに賢かった幼馴染が馬鹿になった。
 グライドはげっそりとため息をついた。



 邸に戻ったアレックスを出迎えるべく、メリッサが玄関で待っていた。あの夜以来である。

「おかえりなさいませ、公爵様。ご無事のご帰還何よりでございます。」
「長く留守にしてすまなかった。」

 淑女の礼を取るメリッサと挨拶を交わし、メリッサはアレックスの顔をじっと見上げる。兜を被ったアレックスを。

 狼耳は消えていない。耳を隠すために包帯か兜か悩み、兜にした。包帯では大きな耳を隠すために目も覆われてしまいメリッサを見られなくなるからだ。鎧は着ていないのでこれまた異様な感じだが、もうこの際だ、と開き直ることにする。

 兜越しではあるが記憶ではない生のメリッサに対面できた。これだけで一週間我慢した苦労が報われたとアレックスは兜の中で目に涙を浮かべた。

 旅装から着替えて落ち着いたアレックスは、メリッサを午後のお茶に誘えないかと考えていた。
 本当は邸に着いた時に誘おうと思っていたのだが、感極まってタイミングを逃してしまった。
 玄関ではいい雰囲気だった。このままお茶に誘えないか、とメリッサに招待を送ると了承がもらえたので、メイドに庭のあずまやガゼボにお茶の準備するよう指示した。

 この一週間、手紙やカードのやり取りでメリッサと親しくなれた気がする。色々あって出鼻をくじかれたが、これからは毎日このような二人の時間を設けて気持ちを温めていけばいいとアレックスは考えていた。

 応接間で待っていると白いデイドレスを着たメリッサが現れる。艶やかな銀髪を背中に垂らす姿はまるで妖精のようだ。
 手首には先日贈った腕輪があった。気に入ってもらえたようだ。あれこれ悩んで選んだ甲斐があった。

 贈り物はメリッサとしたい事を考え準備した。
 手紙の交換、お茶、散歩、チェス。刺繍が好きだそうだから、是非出来上がったものを見てみたい。図鑑は植物に詳しいメリッサと一緒に見られればいいなと思った。
 腕輪はアレックスの所有の印。その証に刻印も入れ有事に備えて護符付きにした。身につけてくれてぐっときた。
 全ての贈り物に自分の瞳の色を入れるのを忘れない。アレックスが傍らにいなくてもメリッサの側が自分の色になればいい。それはメリッサへの執着でもあった。

 そんなことを思いながらメリッサを見ていると、困ったように頬を染めて俯いた。はにかみながらお茶の招待のお礼をいう姿が愛らしい。
 勇ましいハンター姿とはまた違うふんわりとした魅力にアレックスの表情がデレた。

 ヤバい。可愛い。

 赤面しても兜が表情を隠してくれる。しかもこちらの目元が見られない分、思う存分メリッサを堪能できた。この兜、意外に便利かもしれない。

 兜越しの会話、手袋越しのエスコート。兜の金属臭と共にふわりと香るメリッサの香り。障壁が多いが禁断症状のアレックスには十分過ぎるほどで、メロメロにデレまくっていた。背後に控えるグライドの視線が生ぬるい。

 テーブルに着席したはいいが、自分は茶を飲めないのでメリッサに邸での過ごし方を聞きながら茶を勧める。
 カードのやり取りやバースからの報告でメリッサが邸に慣れてきたことは分かっていたが、声が聞きたくて様子を問いかけた。
 もっと喋って笑ってほしい、何を話そうかと思案してると、メリッサは何か言いたそうにモジモジと俯いていた。

 ヤバい。可愛い。

「メリッサ嬢、何か困りごとか?」
「えっと‥その‥」

 ヤバい。本当にヤバい。
 俺の語彙もヤバいがこれしか出てこない。なんだこの愛らしい生き物は!

 視界がピンクがかりデレて脳が液状化していたが、続くメリッサの言葉でアレックスは文字通り凍結した。
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