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暴走
しおりを挟む「あのっ シリウスのことなのですが‥‥」
シリウス?
「庭に出てはいけないと言われておりましたが、その、シリウスを見かけてつい降りてしまいました。」
シリウス?ダレソレ?
「シリウスは公爵様のものですよね。もう一度あの魔狼に会いたいのですが‥‥」
シリウス?魔狼?ナニヲイッテ‥‥
アレックスの中に一気にどす黒いものが広がる。
この一週間、俺は君のことだけをあんなに想って‥‥想って想って焦がれていたのに‥‥。君は俺よりも魔狼を‥魔獣ごときに心をかけるのか‥。
ほんの些細なこと。理性では大人気ないと解っていても、禁断症状明けの身では気持ちがついていかない。
先ほどまであれほど心が満たされていたのに、今は体中がザワザワする。
なんとか言葉を縛り出そうと声が低くなる。
「メリッサ嬢。魔狼はそこらの魔獣とは違う。あれは人に決して懐かない。あなたの手には負えない。」
「‥ですが‥」
「ラウエン家には魔獣との付き合い方がある。あなたもそれに倣うように。勝手が過ぎては困る。」
視界の端でグライドが何か言おうとしているが、それどころではない。
口が勝手に何か喋っている。まるで操られているように。ダメだ。抑えが効かない。
じっとしていられず席を立つ。後からグライドが何か叫びながらついてくるが、ドクドクと血がたぎる音がうるさくて聞こえない。
意識を飛ばそうとするものを無理やり抑えこんで自室に駆け込み、それを解放する。
アレックスの体から部屋全体を塗りつぶす程のどす黒いものが吹き出す。続いて部屋に入ったグライドがそれに吹き飛ばされた。
顔と手足は狼に、全身から金色の毛が溢れでる。アレックスは人狼と化していた。体を丸めて吐き出した魔素を再び体内に取り込んで集める。
「やめろアレク!!」
グライドの制止も聞かず人狼はその背をしならせて『威圧』を発動する。
音なき咆哮と共に発せられた大量の黒い魔素がグライドを床に叩きつけた。グライドは必死で魔力抵抗を試みるも更なる魔素に取り込まれそうになる。
『威圧』—— 精神系スキル。魔力抵抗に失敗すれば意識を支配され傀儡となる。抵抗値が低いものは恐慌または発狂し、最悪死に至る。
「下がりなさい。お前では若に敵わない。」
駆けつけたバースがグライドを庇い、両手に幾重にも魔法陣をまとい最上級結界を張る。魔素の勢いで結界がビリビリ鳴った。魔素は炎のように部屋中をなめて家具という家具を破壊する。窓ガラスが弾け飛んだ。
猛烈な勢いの魔素に結界がガラスのように割れた。荒れ狂う風圧で飛び交う木端がバースの頬を切ったがそれに構わず魔力を込めた右手を正面に突き出す。人狼の首にかけられた青いペンダントが輝き魔法陣が展開される。吹き出す魔素を魔法陣が吸い込んでいく。
「ガァッ」
魔素を吸われ人狼より苦悶の声が漏れる。体から出る黒い魔素を魔法陣が全て吸い込み終えると、アレックスは両手をついて倒れ込んだ。
人狼が解けて裸体に戻っていた。体の中に大きな空洞が出来たようで震えが止まらない。乱れた髪をかき上げたバースは自分の上着を脱ぎアレックスの体にかけた。
「久々に寿命が縮む思いがしましたぞ、若。」
「‥‥すまなかった。怪我はないか。」
「大きな怪我はないですがお互いひどい格好ですな。」
こんな魔素暴走、大人になった最近では起こっていなかったのに。
後からやってきたグライドにも肩を貸され、アレックスは穴だらけのソファに座らされる。グライドも結構ボロボロだ。
部屋は魔獣の襲来があったかのように荒れているが、自室に常時張ってある結界のおかけで他の部屋には影響していないようだった。
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