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外伝:むかしむかし 下
しおりを挟む「森で初めて会った時、メリッサの香りはとても懐かしいと思っていた。多分その時の記憶が頭のどこかに残っていたんだな。‥って、メリッサ?どうした?!」
涙をポロポロとこぼすメリッサをアレックスは慌てて横抱きにした。メリッサが泣きながらアレックスの首に抱きついた。
「生きてた‥‥よかった‥‥あなたが生きていて本当によかった‥‥。」
「済まない。怖かったか?」
震えるメリッサの肩を抱きしめる。
「黙っていなくなってごめん。心配をかけてしまったね。」
メリッサは首を横に振る。
「ちがう‥‥嬉しかったんです。あの子が無事でいてくれて。あなたが生きていてくれて。よかったぁ」
笑みを浮かべた拍子に流れた涙をアレックスが舐めとり、そのまま目元にキスの雨を降らす。くすぐったくてまた笑みが溢れた。
「「かどわかし」にあってバースの魔法探索にも引っ掛からなかったからね。両親‥‥特に母が心配してね。あの事件の後、これをもらったよ。」
首のペンダントを取り出してメリッサに見せる。アレックスが魔狼の姿の時に首にかけていたあのペンダントだ。
「強い魔素から守ってくれるお守りだと言われてね。子供の頃はこれがないと人になれなかった。俺の名が刻まれることで俺の場所を感知しやすくもなる。俺以外もつけられないらしい。」
そしてアレックスが暴走したらアレックスの魔素を中和する魔符も刻まれている。色々な意味での守り石だった。
メリッサは深い色合いの青い石を覗き込む。石の中にはラウエン家の家紋といくつも魔法陣が微かに刻まれており、裏には「シリウス」と掘り込まれていた。アレックスの幼名だ。
「アレックス様は昔は茶色い毛だったんですね。」
「昔というか、子供の毛は赤茶で、大人になる途中で今の毛に生え変わったから。」
メリッサは目を見張った。あれで?
「え?あの時あれで子供?すごく大きかったのに?」
「それはあの時メリッサが小さかったんだろ?俺はメリッサと同じ歳だし、俺だってあの時はまだ子供だ。」
確かにあの時の毛色は赤茶色だったが。あの獣を抱き上げることができず、頭だけ膝に乗せてあげたのだ。あのサイズで子供。今のアレックスのサイズから考えれば確かにそうであるが。
「母に俺の子供の頃の話を振るなよ。可愛かったーっだけで一時間話すからな。」
げんなりしたようにアレックスが呟いた。今まで散々言われてきたようだ。
魔封の森の側の別邸にあった先代公爵夫妻の肖像画。そういえばお義母様の手に茶色い仔犬が抱かれていた。
「ああ、あれは赤ん坊の俺。人の姿に戻らないからそのまま描いたんだとさ。」
「よくじっとしていられましたね?」
「目が開いてる風に描いてあるけど、実際俺は寝てたらしい。昔からじっとしていられなかったよ。今でも肖像画は嫌いだ。」
母の手を抜け出そうともがいて最後は寝落ちしたのだろう。その愛らしかっただろう様にくすりと笑みが溢れた。
「見たかったなぁ、小さなアレックス様。」
クスクス笑うメリッサの笑顔にアレックスは眩しそうに目を細めた。
「俺の子を産んでくれれば会えるよ。」
アレックスはメリッサの耳元で囁いた。
メリッサはぞくりとした。部屋の空気が一瞬で濃くなる。メリッサを見下ろすアレックスから目を逸らせない。
普段メリッサを見るアレックスは優しくてまるで陽だまりにいるようだが、メリッサを欲しがる時は酷く傲慢で蠱惑的になる。アレックスの色気にメリッサはコクリと喉を鳴らす。
少しくせのある金髪が暗がりの中、暖炉の赤い炎に照らされて赤茶色に見えた。
「メリッサ、俺のこと好きか?」
最初は指先に、ついで額、頬、耳とキスを落としながらアレックスが問いかける。
出会って最初にメリッサの心を溶かした少し甘く掠れた低い声にメリッサの呼吸が早くなる。
こういう時のアレックスの声は特に艶っぽく、耳から脳を侵すそれにゾクゾクする。どろりとした熱いものが耳から脳に流し込まれているようだ。
人差し指がメリッサの顎から喉をつたい胸元までつつとなぞる。
「‥好き‥‥」
「どのくらい?」
「‥‥何をされても‥‥いいくらい‥‥」
「———ッたまらないな‥‥」
メリッサをぎゅっと抱きしめる。あの懐かしい甘い香りがした。
「あの時の俺は目が見えなかったから、小さなメリッサを見られなかった。俺も愛らしいメリッサを見たかったな‥‥」
アレックスはメリッサを優しく抱き上げ続き間の寝室へと向かう。
「明日は一緒にあのうろを探しに行ってみよう。」
続き間への扉がパタンと閉じた。
十ヶ月後、ラウエン公爵家に双子の赤ん坊が誕生した。赤みがかった茶髪の男の子と銀髪の女の子。
二人の望みが叶った瞬間だった。
※ ヒーローサイド完
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アレックスが可愛いー!
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感想ありがとうございます!アレックス編お楽しみいただけてよかったです♪ わんこ気質で考えたらあんな感じになりました。笑
ヒロイン視点の話も読ませていただきました。ヒロインならではの視点とは別にアレックス視点からも面白かったです。続きが気になります。
感想ありがとうございます!読んでいただけて嬉しいです!
当初交互に視点が変わる話のところを、ゴチャついたので二つの話にぶった切ったらヒロインサイドに伏線が散らかってしまいました。
ヒーローサイドで全力回収中?です。たぶん。
もう少しお付き合いください。(;´д`)