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048:二人の初夜①
しおりを挟む朔弥の時空魔法で五人は城まで戻ってきた。ミズキにルキナを預けた朔弥にヴァルナが礼を取る。
「寛大な処置をありがとうございました」
「いや、あれ結構キツいでしょ」
「いえ、ファウナは罰を望んでいましたので。ニクスの件もお許しいただき感謝いたしますわ」
「許してないよ。勝手にしろって」
「わざとあのように仰ったでしょう?ニクスが留まりやすいように」
ニクスは牢獄から戻ってこなかった。おそらくファウナと共に牢の中だろう。見張りもいない。錠もない。勝手にあの場に留まっているだけ。被害者ヴァルキリーの手前、望んであの場には留まれなかっただろう。ならば誰かが悪者になればいい。
「別に大精霊が一人増えようが牢は狭くないだろ」
「まあそうですわね。半日後に番人の私が迎えに参りますわ。私はそれでは。忙しくなります」
「ん?何かあった?」
「ファウナの代わりに精霊を取り仕切ります。小精霊が動揺しておりますので落ち着かせなくては。これはニクスにはできないことですわ。ファウナの役割は結構大変なんですのよ?戻ってきたら労ってやって下さい」
「ああ、わかった。みんなの好物作っておくよ」
ヴァルナと別れヒカルとキッチンに入る。ルキナはミズキと共に部屋に戻った。牢での汚れを落とすのだろう。小精霊たちを呼び寄せてご馳走の仕込みに入った。唐揚げ、スイートポテト、抹茶アイスにいちごアイス。皆の好きなメニューを大量に仕込んだ。おかずもふんだんに用意し大精霊が気に入っていた酒も作り出した。ヒカルや小精霊たちと忙しく働いて朔弥は寝室に戻った。
夕飯には誰も戻らない。食事のいらない大精霊だ。ただ賑やかにするためだけに朔弥の元に集まっていたともいえる。ベッドに寝転がりぼそりとつぶやいた。
「久しぶりに静かな夜だな」
色々なことがあった。あの部屋の扉が開いて。そしてヴァルキリーが訪ねてきた。毒を全部吐き出して半日眠りについて。そこからのあの騒ぎだ。
「ヴァルキリー‥どうなったかな」
下界の時間は流れが早い。もう結果は出ているだろうか。だがその様子を知る術はない。守護精霊は不在。誰か下界に送らなければならない。朔弥はふぅと目を閉じた。
疲れているはずなのに眠りは訪れない。もう散々深く眠ったからだろうか。そういえば食欲も以前より湧かなくなっているようにも思う。料理を作り食べて楽しむ気持ちはあるが以前ほどがっついてはいない。
食欲が落ち着いた?睡眠も?
そういう意味では何やら頭がスッキリしたようにも思うが。
当面の問題は解決した。だが根本的には解決していない。子作り問題。そこに朔弥はやる気が全く感じられない。
少子化問題だと言われて?正直俺のせいでもないわけで?不運にも二回連続で召喚に失敗したのがダメだろう。まあだから俺に期待がかけられたんだろうが。どうせ歴代王はこんな手間かからなかっただろうし?
子供作るためにスるってのも違うだろ。自分に欲求があるならまだしも。大体そういう行為は想いあった相手とするべきであって。もしするなら———
脈拍がどくんと上がった。
「———するなら?」
そこへ真っ白いナイトドレスを纏ったルキナが現れた。薄暗い寝室の中でルキナの体が白く輝いて見える。その美しさに朔弥が息を呑んだ。そこで初めてルキナの変化に気がついた。
「あれ?ルキナ?なんだか大きくなった?」
頬を染めこくんと頷いたルキナがベッドに上がってきた。寝転がる朔弥の頭を持ち上げて膝においた。いわゆる膝枕状態だ。真上から見下ろされ朔弥は目を瞠る。ルキナの体の大きさは十八くらい。朔弥と並んでも違和感はない。もう大人の女性だ。それは成長熱の時に一度だけ見せた姿。その輝く笑顔に目を奪われた。二ヶ月前、出会った頃は表情もなく喋ることもない十歳の少女だった。その頬に手を伸ばせばルキナがうっとりと微笑む。するりと頬を朔弥の手にすり寄せて甘えてきた。
え?あれ?いつの間に大人になった?
牢にいる時どうだったっけ?思い出せない。
え?というか?これヤバくないか?
夜。薄暗い寝室。いつもいいタイミングで邪魔してくる大精霊もいない。ヒカルにミズキ、小精霊の気配さえない。完璧な二人きりだ。そして膝枕をするルキナは手を出していいと言われている側女。その状況に煩悩ですでに上がっていた朔弥の脈拍が一気に限界値まで上がる。ドクドクと脈打つ音は自分の心臓の音。うるさいほどに耳朶に響く。ルキナに触れる手のひらが火がついたように熱い。これは自分の熱かルキナの熱か。その手にルキナの手が重ねられた。
子を成さなければいけない。先程の事件で脳に刷り込まれた使命感もあり朔弥の体がガチンと固まった。
「えーと?ルキナ?」
「なに?朔弥?」
カタコトだったルキナの言葉も滑らかになっている。ファウナが以前言っていた光の大精霊の覚醒。このタイミングでルキナが大人に成長したということだろうか。だからここにやってきたのだと。だが色々と経験値の低い朔弥にその判断はつかない。
この状況的にはルキナもオッケーということなのか?わざわざ俺の寝室にやってきたわけで?いやでも側女の義務とか精霊が足りないから仕方ないよね!とかいう使命感とかだと困るし?そもそも俺でいいの?俺なんかにルキナは勿体無いでしょ?王と呼ばれてはいるが男として正直いい要素が全くないし?甲斐性ないし?ヘタレでチキンで逃げ癖つきまくってるし?一人で精霊魔法使えないし?ドラゴンに出会ったら勝てない自信あるし?恋愛経験値ゼロでお付き合いのおの字もわからないし?女の子にカッコいいセリフ一つ吐けないし?キッチンに引きこもる根暗料理オタクだし?あ、自分で言って凹んできた。
ずうんと落ち込んで無限思考に陥ろうとするところを無理やり持ち直した。
こういうところがいけないんだって!根性出せ!見た目年の差はない!ルキナ十歳だけど。あれ?やっぱりまずい?いやいや、こうなればイタいの上等!当たって砕けろだ!
ルキナの頬から手を離しがばりと身を起こした。朔弥はルキナの前で正座した。
「えっと?その‥俺こういうの鈍くてな。ちょっと確認な?」
不思議そうに小首を傾げるルキナにうぉっほんと朔弥が気まずげに咳払いする。
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