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外伝:ルキナの絶叫②

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 だがあの樹木の大精霊はいただけなかった。

「ところで陛下、そろそろこちらの生活にも馴染んでいらしたようですし、オトモダチを増やしてはいかがでしょう?」

 この大精霊はことあるごとに朔弥に側女を作ろうとする。この間もお茶会という名のお見合いを開催していた。当てつけとばかりにお茶会の間は朔弥に始終べったり張り付いてやった。

 朔弥はルキナの!他のお嫁さんゼッタイダメ!
 でも朔弥が他の女の人がいいって言ったら?
 ルキナはまだこんなチビだし。
 大人の女の人とイチャイチャしたいよね?

「え?なんで?いらないし?ルキナいるし?」

 悲しくなるルキナの心中を読んだように朔弥がサラッと殺し文句を吐いた。
 他の女に興味がない。ルキナだけでいい。マイナス1000まで落ち込んだルキナのテンションが一気にプラス1000まで急上昇した。

 好き!やっぱり朔弥大好き!ルキナの旦那様(仮)!

 中の人はたまらず絶叫するも外の人は能面無表情でぎゅっと朔弥に抱きついた。

 朔弥はルキナの部屋の絵を描いていた。器用にサラサラと設計図のように間取りを書いている。朔弥は絵も上手だ。
 朔弥はなんでもできる。カッコいいし器用だし優しい。ゴハンも美味しくて面倒もよく見てくれて。なによりルキナにあれこれ気を遣って大事にしてくれる。話せない自分の話を聞こうと向き合ってくれる。腐ってもルキナは最強の部類に入る光の大精霊だ。誰かに優しく守ってもらうなど初めての経験である。

 まるでお姫様になれたみたい!こんなに素敵な王子様がルキナの旦那様(仮)とか信じられない!

 朔弥の描いた絵には絵本にあった憧れの天蓋付きのベッドもある。基本眠らない精霊にベッドは不要と置いてもらえなかった。そのベッドにレースのカーテン。お姫様のような部屋にルキアのテンションがさらにぎゅーんと限界マックスまで上がった。

 すごい!朔弥はルキナの欲しいものをなんでもくれる!やっぱり王子様だ!

 だが絶頂だった気分がどん底に落とされる。

「精神?」

 朔弥の興味が他の女性に向けられた。精神の大精霊。気さくでルキナにも声をかけてくれる。割と仲のいい大精霊だが今は下界の守護精霊の任を負っている。確かに今は精霊界に帰ってきていた。美人で優しい大精霊だ。しかも人の心を理解する大精霊。

 朔弥、精神が気になるの?

 精神の大精霊の話題を出した樹木の大精霊にガンを飛ばしつつ不安げに朔弥を見やるも外の人の表情はやっぱりない。

「いいって、散歩がてらだ。ルキナも来るかい?」

 もちろんだ。他の精霊を寄せ付けないようルキナはいつも朔弥のそばを離れない。今回も朔弥にちょっかいを出すようなら精神であろうとも容赦はしない。最近特に朔弥のゴハンとお世話のおかげが力も漲っている。これでも精霊界では一、二を争う光の大精霊。力比べなら負けない。鼻息荒く朔弥の手を取った。

 だが目の前の展開は違っていた。精神はすでに酒に潰れて死亡(仮)。起きている二人も朔弥をメシのアテにしかしていない。全く別の意味で朔弥に群がっている。朔弥も恋愛対象ではないようだが邪魔であることに変わりはない。

 もう!ルキナの朔弥なのに!!
 みんなあっち行って!

 そして現在。朔弥はコンロの前で何かぐつぐつ作っていた。とってもいい匂いがする。ルキナのおやつ?!と思ったがそれも酔い潰れた精神のもの。レンジから出たとうもろこしも大精霊に渡された。

 ルキナのは?朔弥ルキナを忘れちゃった?

 ずんといじけかけた時に朔弥がぽんとルキナの頭を撫でた。

「お待たせ。ルキナのおやつはふわふわパンケーキにしような?」

 パンケーキ!!!

 ルキナの大好物のふわふわパンケーキだ。これを食べた時はこの世の食べ物と思えなかった。いちごが好きなルキナのために朔弥特製のいちごソースもかけてくれる。あまおうといういちごから煮たルキナのための特製ジャムソースだ。
 ルキナの心中でぱぁぁと笑顔が弾ける。も表情は無表情だ。せめてとこくんと頷いた。

 可愛らしく盛り付けられたパンケーキにぴょんぴょん跳ねて喜びを表現する。クリームをたっぷりつけて頬張ればもう天国だ。だが大精霊がパンケーキを欲しがった。

 仕方ないなぁ。今日は特別。ちょっとだけだからね。このパンケーキで朔弥の凄さを思い知るがいいわ!
 
 大精霊二人もパンケーキに悶絶している。そうでしょうそうでしょうとルキナが天狗になっていたところでパンケーキのおかわりをもらった水の大精霊がとんでもないことを言い出した。

「ルキナのあの赤いのはなんですの?」
「いちごソースだが?」
「まあ!私もあれかけたいですわ!」

 ルキナは愕然とした。これはルキナ専用のいちごソースだ。朔弥がルキナのために作ってくれた。
 
 ダメ朔弥!これルキナの!あげちゃダメ!

 伝われこの思い!と無表情でぎゅっと目を閉じたが。

「ダメだ。これはルキナ専用。お前らはそこのシロップでもかけとけ」
「なんだよ!扱いが違う!」
「不公平ですわ!」
「当たり前だろ?ルキナは特別なんだから」

 聞こえた言葉が信じられない。クリームまみれの顔で朔弥を見上げれば輝く笑顔でにこりと微笑まれた。無自覚とはいえ大変罪作りな王子である。

 特別?ルキナは朔弥の特別?本当に?

 その日一番の幸福にルキナは悶絶し言葉が出ない。中の人は頬を染めキャァァッと黄色い声で悲鳴をあげるほどの幸福絶頂だったのだが外の人の顔は無表情だった。

 好き好き朔弥大好きー!
 伝われこの想い!って何で伝わんないの?!
 朔弥こっち向いて!ルキナのこと好きって言って!

 中の人はメガホンを持って必死に叫ぶも見た目は鉄仮面少女。朔弥には伝わらない。

 今日も中の人の虚しい絶叫が響いた。



 結局追いかけるルキナの攻めの想いは逃げまくる朔弥に一切伝わらず、その後ルキナが成人を迎えるまでルキナのれに焦れた絶叫は続いたのであった。

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