【完結】R18 オオカミ王子はウサギ姫をご所望です。

ユリーカ

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第一章 ウサギの攻防編

第七話 「‥‥会いたい‥」

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 悩んだ挙句、結局縁談は全て断った。

 金脈はまだ調査中だ。あるかどうかもわからないものをアテにされて結果何もなかったら目も当てられない。せめて結果が出て、あったとしても金が採掘され始めてからの話だろう。
 マテオ兄様からは好きにしていと言われている。今は噂だけで私が高騰してるだけだ。ならもう少し様子を見るべきだろう。

 そこまで考えて夜、ベッドの中で寝返りを打った。

 あれからアウル様が会いにいらっしゃらない。

 もう二週間になる。一週間以上空けることはなかったのに。あんな別れ方をしたから?だからいらっしゃらないの?
 私はアウル様の求婚を断っている。あの後アウル様は茶化してくださったがもう私のことなど愛想が尽きたかもしれない。

 だから会いに来て下さらない。

 ずきりと胸が痛む。
 その事実だけでこれだけ体が震える。怯えている。

 このままお別れなのだろうか。
 私はアウル様の求婚を断ったのだ。当然じゃないか。何を今更。
 それなのに浅ましくすがってしまう。
 優しいアウル様は会いにきてくださる。またいつものように私を可愛いウサギと呼んで下さると信じている。
 拒絶しておいてなんて図々しい。

 でもこのままもう会えないのはつらい。あの笑顔を見られないのは悲しい。これが今生の別れとなってしまうのだろうか。
 私からは会いにいけない。物理的にもそうだが立場的にも超格上国の王太子にそうそう会えるはずもない。

 寝具の中で震えて唇を噛み締める。

 もうどうすることもできない。
 私は間違えたのだろうか?

 枕を抱きしめればなぜかアウル様の匂いがする気がした。時間も経っているしありえないのに、それに縋り枕を抱きしめ顔を埋めればさらに胸が苦しくなった。

「アウル様‥‥会いたい‥会いたいよぅ‥‥」

 アウル様に会いたい。もう一度。
 そうしたら———


 マテオ兄様の謎かけを考える。
 私の望み。したいこと。

 あの王太子に、アウル様に愛されたい‥‥
 耳じゃなく私自身を好きになって欲しい。
 切実に、心からそうお願いすればアウル様は私を愛してくださるだろうか?

 でもそれももう無理だ。
 間違えた。
 もう壊れている。

 私がつまらない嫉妬で捨ててしまったのだから。

 切なくて悲しくてぎゅっと枕を抱きしめた。



 ことり


 その時何かの気配に気がついた。バルコニーの窓の辺りで微かな音がしたように聞こえた。
 気のせいじゃない。ウサギ耳は小さな音も拾う。普通なら気がつかないくらい些細な音だ。


 ことり


 まただ。寝具に顔を埋め目だけを出して暗闇に目を凝らす。しばらくすれば窓が音もなく静かに開いて黒いものが部屋に入ってきた。

 最初はアウル様かと心弾ませたが、流石に夜這いを仕掛けてくる性格ではない‥はずだと考え直した。
 更に目を凝らせばそれは屈んだ人の大きさ、だが闇の中でうごめくそれは音が全くしない。その場を動かず漂うように闇の中で揺れていた。

 目の錯覚?夢?

 非現実的な様子に目を疑い躊躇った。本能では警告を発していたのに。
 だからそれがやはり人だと気がついたのはもう目の前にそれが迫った時だった。

 私が声を上げる前にそれが襲いかかってきた。咄嗟の反撃も封じられ口に何か当てられて、そこで意識が途絶えた。





 意識が戻ったのはどのくらい経ってからだろう。ひどくぼろぼろの木製の床で目を覚ました。
 月明かりで部屋の中は明るい。月の位置からあまり時間が経ってないとわかる。長く意識は失っていなかったみたいだ。

 拘束はされてないが夜着のままでシーツに包まれた状態だ。これは一体どういうことだろう?ざっと体を改めて怪我もない。

 部屋には他に人がいない。扉と窓が一つ。そして背後に大量の何かが袋詰めで山積みされている。手に取ってみれば‥‥。

 ん?これはジャガイモ?ここは備蓄庫か?

 ここでふぅと深呼吸。
 心を落ち着けて状況を整理する。

 多分誘拐された。薬を嗅がされた記憶がある。キツい薬じゃなかったから目覚めもスッキリで後遺症もない。
 離宮の警備はそういう前提じゃない。だからあっさりさらわれたんだろう。まだ生きているのは私を生かす意味があるから。

 目的は身代金?まだ金が取れるかもわからないのにこのタイミングで貧乏王国の姫を攫う?金脈を担保に金を借りろと?ちょっと無理がある。

 お、割と冷静に現状解析ができた。意外に自分は危機的状況でも動揺しないようだ。ここで悪いことを予測して怯えても建設的ではない。

 シーツに包まって立ち上がる。
 うん、立てる。やはりキツい薬じゃなかったんだ。そっと窓から外を伺うが森が見えるだけで場所はわからない。どこぞの農家だろう。まだリーネント国内だろうか?

 ただこの部屋は残念ながら二階だった。窓から簡単に逃げられると思ったのに。

 そこで人の歩く気配がして慌てて先程倒れていた場所で寝たふりをする。

 部屋に入ってくる複数の足音。男の声が聞こえる。

「まだ寝てるのか?」
「もうすぐ目を覚ます。弱い薬だ」
「淡いブロンド、目は赤茶、そして長い耳。間違い無いな?」
「その耳の娘は王女一人だけだ。間違いない」
「いいだろう」
 
 寝ているところを襲われたから髪は結ってない。ウサギ耳はむき出しだ。

 何かやりとりをしているが目を瞑っているからよくわからない。だが私を狙って攫ったのだということはわかった。最後に金属の音がした。

 金貨?報酬だろうか?プロを雇った?

 足音が一人出ていく。そして残った男に穏やかに声をかけられた。

「さて、リーネント王国ノワゼット王女殿下、お目覚めですか?」
「‥‥‥」
「起きていらっしゃるのはわかっています」

 バレてる。仕方なくゆっくり起き上がる。

 目の前には身なりの良い初老の、いかにも善人そうな男が微笑んでしゃがんでいた。言葉に訛りもなく発音もきれい。きちんと教育された身分のものだ。
 でも目が笑ってない、と思う。見た目はこの状況とあまりにそぐわない。男の背後にも数人の男。こちらも身なりがいい。

 その男は私の目を覗き込んでいた。

「瞳は赤茶‥と。間違いありませんね」
「なぜ私を攫ったのですか?」

 聞いてみた。当然の疑問だ。どうせ無視されるだろうが。
 答えを期待してなかったが、男は微笑んで意外にもあっさり教えてくれた。最悪の答えを。

らしめるため‥‥だそうです」
「は?」

 目を瞠ってしまった。意味がわからず思考が停止する。

 ナニヲイッテ?身代金目的ではない?

 私の反応にその男はさらに笑みを深める。

「我が国の王子殿下が御立腹でして。王子殿下の求婚を王女殿下は断られましたね?王子殿下はそういうことに慣れておいでではないのですよ」

 国と王子の名前を教えてくれたがわからない。そもそもまとめて断ってしまってたし。

「これから王女殿下には我が国にお越しいただきます。不敬罪として罰せられるか、側妃になっていただくか、またはそれ以外か。それは王子殿下がお決めになります」

 そう話す男は相も変わらず笑顔だ。礼儀正しく覗き込む男を、私は目を瞠り唖然として見上げた。

 要約すると。
 私が求婚を断ったから攫われた、と。
 最悪だ!!!

 あまりの事に鈍くなる頭で必死に考える。
 誘拐なら解放される目もあったかもしれない。だがこれはどう転んでもバッドエンドだ。
 不敬罪は死刑。側妃もこの経緯からすれば地獄だ。その他も碌でもないだろう。三択なら死刑が一番楽かもしれない。身代金目的の方がまだ良かった。

 勝手に求婚してきて!求婚断ったら逆恨みで攫うとか!懲らしめるとか!頭おかしい!

 まじまじと正面の男を見上げた。体に微かに震えが走る。正面の笑顔の男も狂っている。嗜虐性。使用人もこれ。もうこの国の王族がおかしいのかもしれない。

「ご安心ください。国にお連れするまでは王女殿下には指一本触れません。傷つけるなとの命です。それは王子殿下がなさるそうですので」
「ヒッ」

 どこに安心しろと?国に着いたら流血決定じゃん!
 悲鳴が出る。その様子に男は満足げに微笑む。

「今移動の準備をしております。王女殿下にはそちらにお乗りいただきましょう」

 冗談じゃない。リーネントを出ればおしまいだ。二度と帰ってこれない。


 二度とアウル様に会えない。


 ぐっとお腹に力を込める。そうすれば少し勇気が湧いた。

 ふざけるな!こんなやつらに私を勝手にさせない。
 王女が抵抗すると思っていないのだろう。だから拘束されていない。なんてバカなんだろう。

 俯いてニヤリと笑う。震える体を叱咤して口角を上げて無理矢理笑ってみせる。そうして全身から勇気を絞り出した。

 折れるな!諦めるな!私は帰るんだ!
 私は必ずアウル様の許に帰ってみせる!
 王女ウサギだからって舐めるなよ!!

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