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第187話 一人戦う⑥
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「キミがねぇ、瞬くんの記憶の封印を破壊したとき……あのときは正直びっくりしたねぇ」
呑気に肴をつまみながら所長が笑う。
例の病院での一騒動のことだ。
あのときは所長も側にいて、その後、暴走した瞬に連れ去られたんだ。
そこまで思い出して、私は気付く。
「……あの時、瞬を暴走させたのは所長だったんですか?」
冷や汗を一つ、私がそう訊くと、
「ピンポ~~ン♪」
と陽気に正解だと告げてくる。
そして箸の頭で額を掻くと所長は苦笑いを浮かべた。
「まさかさ、あそこで僕の『マステマ』による呪縛を破壊されるとは思わなくってね。油断していた僕はファントムを通じてもろにダメージを受けちゃって。それを誤魔化すために瞬を暴走させて場を混乱させたんだよ。そうしなければ、キミはともかく事象に詳しい七瀬くんなら、あの時点で黒幕の犯人が僕だと気付いただろうからね。いやぁ地味に必死だったんだよあのときは。はっはっは」
必死だったのは私たちだ!!
百恵ちゃんも先生も命がけで瞬と戦ったんだ。
それが全部、所長の自作自演だったというのか。
どこまでふざけているんだこの人は!?
「おっと、そんな怖い目で睨まないでくれよ。ああでもしなきゃ、僕はその場でキミたちと戦わなくちゃいけなくなってたんだよ? キミはまぁ……殺さなかっただろうけど、七瀬くんや百恵くんは処分してたろうね。僕だってね、出来ればそんなことはしたくなかったんだよぅ? ま、紆余曲折あって結局殺しちゃったけどね」
これもあの姉妹の運命なのかねぇと付け加え、遠い目をする所長。
「まぁ結局は……僕の誘いを蹴った時点で、あの二人は自ら死を選んだようなものなんだね」
「それで、あなたはどうするのかしら? まだはっきりと返事は聞いていないけれども?」
片桐さんが訊いてくる。
その背には戦乙女の姿が薄く滲んでいる。
返事もクソも……従わなければ無理矢理にでも服従させる気まんまんじゃないか。
しかしその前にどうしてもはっきりさせたいことがあった。
「所長が……ベヒモスを作り出せるというのは本当なんですか……?」
「ん? そうだよ、もう隠してもしょうがないから教えてあげるよ。僕のマステマはねテレパシー系統の最上位ファントムでね、その能力は『思考操作』さ」
「……所長?」
片桐さんが咎めるような視線を送っているが、酔った所長は上機嫌でニンマリと笑う。
「どうせ全てがバレた後だ、ならもうべつに教えてあげてもいいじゃないか。それに知られたからって彼女にはどうすることも出来ないさ」
それを聞いた片桐さんはやれやれと眉を歪め、それ以上は何も言わない。
所長は嬉しそうに説明を続ける。
「思考操作って言うのはね、テレパシー回線を使って相手の思考を乗っ取ることが出来る力でね。これの応用で、能力者の思考を乱れさせ、ファントム押のさえつけを弱くさせる事が出来るんだよ。そうすることで暴走を促し、ベヒモス化させることが出来るんだ」
あっけらかんと、本当に全てのタネを明かしてくる所長。
相手の思考にも影響を及ぼせるほどの強力なテレパシー。
それが元凶となり、瞬は、正也さんは、渦女は覚醒させられた……そういうわけだったのか。
……これで私の答えははっきりした。
後は理性が残っている限り、事情を聞き出すだけだ。
「……ベヒモスを作り出す目的は何だったんですか?」
「三つあるねぇ。一つは配下になってくれる能力者の強化。もう一つは敵になる能力者の破壊。そして最後は、この世界をひっくり返す為の兵隊作りさ」
それを聞いて片桐さんがフッと笑う。
「なんだい片桐くん、人の構想を鼻で笑うのはやめてくれたまえよ?」
「……この世をひっくり返すとか、物語《ファンタジー》の魔王じゃないんだから。あなたそんなこと本気で考えて無かったでしょう?」
「失礼な。僕はねぇ、こう見えてもデカい夢を持つ男なんだよ?」
「ほんとはただ、ゴミ同然の一般人どもを無差別に剥い荒らす化け物どもの群れを作って、その暴れる様子を眺めていたいだけじゃないの?」
「そんな下品な言い回し、僕がしたっけ~~?」
「私と知り合った頃、バーで酔っ払いながらそう語っていたわよ?」
「あちゃ~~。昔の僕って馬鹿だったのかなぁ~~?」
「今よりはマシだったと思うけど?」
「手厳しいねぇ」
悲しげにテーブルに『の』の字を描く所長。
とことんふざけた二人だ。
しかし私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「十年前……私はベヒモスに両親を殺されました」
負の感情を全身に滲ませ、私は昔を語り始める。
身体の修復はすでに完了し、心の中ではラミアに次の指示を出していた。
「そうらしいね」
所長がうなずく。
「正也さんの話では、その頃からベヒモスの出現数が格段に増えてきていたそうです」
「なにが言いたいのかな?」
「私の両親を殺したのは……あんたが作ったベヒモスだったのかと聞いています」
その黒い目から滲み出る憎しみの感情を、まるで子猫の威嚇でも見るかのように優しい笑顔で迎える所長。
そして彼は少し考えて言葉を返してきた。
「それが僕の作ったものなのか……なんてことは今更調べようがないと思うがね。でも、東京でキミを襲った二匹のベヒモス……あれは僕が作ったものだよ♪」
その言葉を肯定と理解した瞬間、私の理性は砕け散った。
呑気に肴をつまみながら所長が笑う。
例の病院での一騒動のことだ。
あのときは所長も側にいて、その後、暴走した瞬に連れ去られたんだ。
そこまで思い出して、私は気付く。
「……あの時、瞬を暴走させたのは所長だったんですか?」
冷や汗を一つ、私がそう訊くと、
「ピンポ~~ン♪」
と陽気に正解だと告げてくる。
そして箸の頭で額を掻くと所長は苦笑いを浮かべた。
「まさかさ、あそこで僕の『マステマ』による呪縛を破壊されるとは思わなくってね。油断していた僕はファントムを通じてもろにダメージを受けちゃって。それを誤魔化すために瞬を暴走させて場を混乱させたんだよ。そうしなければ、キミはともかく事象に詳しい七瀬くんなら、あの時点で黒幕の犯人が僕だと気付いただろうからね。いやぁ地味に必死だったんだよあのときは。はっはっは」
必死だったのは私たちだ!!
百恵ちゃんも先生も命がけで瞬と戦ったんだ。
それが全部、所長の自作自演だったというのか。
どこまでふざけているんだこの人は!?
「おっと、そんな怖い目で睨まないでくれよ。ああでもしなきゃ、僕はその場でキミたちと戦わなくちゃいけなくなってたんだよ? キミはまぁ……殺さなかっただろうけど、七瀬くんや百恵くんは処分してたろうね。僕だってね、出来ればそんなことはしたくなかったんだよぅ? ま、紆余曲折あって結局殺しちゃったけどね」
これもあの姉妹の運命なのかねぇと付け加え、遠い目をする所長。
「まぁ結局は……僕の誘いを蹴った時点で、あの二人は自ら死を選んだようなものなんだね」
「それで、あなたはどうするのかしら? まだはっきりと返事は聞いていないけれども?」
片桐さんが訊いてくる。
その背には戦乙女の姿が薄く滲んでいる。
返事もクソも……従わなければ無理矢理にでも服従させる気まんまんじゃないか。
しかしその前にどうしてもはっきりさせたいことがあった。
「所長が……ベヒモスを作り出せるというのは本当なんですか……?」
「ん? そうだよ、もう隠してもしょうがないから教えてあげるよ。僕のマステマはねテレパシー系統の最上位ファントムでね、その能力は『思考操作』さ」
「……所長?」
片桐さんが咎めるような視線を送っているが、酔った所長は上機嫌でニンマリと笑う。
「どうせ全てがバレた後だ、ならもうべつに教えてあげてもいいじゃないか。それに知られたからって彼女にはどうすることも出来ないさ」
それを聞いた片桐さんはやれやれと眉を歪め、それ以上は何も言わない。
所長は嬉しそうに説明を続ける。
「思考操作って言うのはね、テレパシー回線を使って相手の思考を乗っ取ることが出来る力でね。これの応用で、能力者の思考を乱れさせ、ファントム押のさえつけを弱くさせる事が出来るんだよ。そうすることで暴走を促し、ベヒモス化させることが出来るんだ」
あっけらかんと、本当に全てのタネを明かしてくる所長。
相手の思考にも影響を及ぼせるほどの強力なテレパシー。
それが元凶となり、瞬は、正也さんは、渦女は覚醒させられた……そういうわけだったのか。
……これで私の答えははっきりした。
後は理性が残っている限り、事情を聞き出すだけだ。
「……ベヒモスを作り出す目的は何だったんですか?」
「三つあるねぇ。一つは配下になってくれる能力者の強化。もう一つは敵になる能力者の破壊。そして最後は、この世界をひっくり返す為の兵隊作りさ」
それを聞いて片桐さんがフッと笑う。
「なんだい片桐くん、人の構想を鼻で笑うのはやめてくれたまえよ?」
「……この世をひっくり返すとか、物語《ファンタジー》の魔王じゃないんだから。あなたそんなこと本気で考えて無かったでしょう?」
「失礼な。僕はねぇ、こう見えてもデカい夢を持つ男なんだよ?」
「ほんとはただ、ゴミ同然の一般人どもを無差別に剥い荒らす化け物どもの群れを作って、その暴れる様子を眺めていたいだけじゃないの?」
「そんな下品な言い回し、僕がしたっけ~~?」
「私と知り合った頃、バーで酔っ払いながらそう語っていたわよ?」
「あちゃ~~。昔の僕って馬鹿だったのかなぁ~~?」
「今よりはマシだったと思うけど?」
「手厳しいねぇ」
悲しげにテーブルに『の』の字を描く所長。
とことんふざけた二人だ。
しかし私が聞きたいのはそんなことじゃない。
「十年前……私はベヒモスに両親を殺されました」
負の感情を全身に滲ませ、私は昔を語り始める。
身体の修復はすでに完了し、心の中ではラミアに次の指示を出していた。
「そうらしいね」
所長がうなずく。
「正也さんの話では、その頃からベヒモスの出現数が格段に増えてきていたそうです」
「なにが言いたいのかな?」
「私の両親を殺したのは……あんたが作ったベヒモスだったのかと聞いています」
その黒い目から滲み出る憎しみの感情を、まるで子猫の威嚇でも見るかのように優しい笑顔で迎える所長。
そして彼は少し考えて言葉を返してきた。
「それが僕の作ったものなのか……なんてことは今更調べようがないと思うがね。でも、東京でキミを襲った二匹のベヒモス……あれは僕が作ったものだよ♪」
その言葉を肯定と理解した瞬間、私の理性は砕け散った。
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