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第105話 ヨウツベの企み
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「くっそう、あいつなんなの!? いきなりやってきてやりたい放題!! 人をひん剥いておいてお金も置かずに帰っていくなんてサイテーよ!!」
「……いや、そういう問題じゃないと思うぞ……」
先の騒動を共有するべく、開かれた緊急集会。
集落のみなは元一の家に集まって、会議兼夕食兼ヤケ酒会をくり広げていた。
身体に傷を負ってしまった六段と、心に傷を追ってしまったぬか娘は酒をあおり、他の者は節子の用意してくれた晩ごはんをいただく。
「ねぇ~~アルテマちゃん、なんなのあいつ? 異世界の騎士? そんなのがなんでいきなり出てくるの!? なにしにきたの~~??」
半べそになって悪酔いし、アルテマに抱きつくぬか娘だが、アルテマもクロードがどういう経緯でこの現世に現れたのかはよくわかっていない。
「ヤツに関しては私も驚いているが……目的は私の討伐のようだな」
「聖王国の騎士やと聞いたが? ……ヒック」
「ああ、その通りだ。奴は聖王国でも指折り数えられる名門の騎士……私はあいつに追い詰められてこの世界に渡ってきたのだ……」
アルテマは異世界で、あの吊り橋で起こった出来事をみなに話して聞かせた。
「……そうかその時の敵将があいつじゃったと言うことか……」
アルテマを看病していた頃、こちらの世界へ渡ってきた理由をある程度は聞いていた元一だったが、まさかあの男がその話に出ていた騎士だとは思わなかった。
知った元一は「だったら、本気で射抜いてやるべきじゃったか……いや、いっそのこと猟銃で……」などと物騒なことをつぶやいている。
「あの……スケベ金髪……そんなに強いやつだったの?」
「いや……私は確かに逃げはしたが、あの時は満身創痍でとてもまともに戦える状態じゃなかった。そこに都合よくあいつが現れただけだ。……あいつは弱いくせになぜか運に恵まれていてな。こっちが出てきてほしくない時に限って出てくるし、いくら返り討ちにしてもなんだかんだ、のらりくらりと生き延びて、何度でもしつこく舞い戻ってくるやつだった……今回もそうだ」
「そうですか……いやでも、さっきの戦いを見る限り弱くはないですよね?」
「だ、だ、だ、だな。そ、そ、それにあの耳……も、も、もしかしてエルフ族なのでござるか!??」
大皿に盛られた酢豚を突っつきながら、ヨウツベとアニオタがそう聞いてくる。
アルテマはあまり認めたくはない、といった感じでむくれると、
「……いちおう聖騎士ではあるからな。並の兵士よりは強い。……幼児化してしまった今の私とだったら……わずかに向こうに勝ちがあるかもしれん」
本当に認めたくないとこだが、安い意地やプライドは運をこぼしてしまう。
アルテマは冷静にそう分析し、悔しそうにピーマンを噛みちぎった。
「聖王国はその住人のほとんどがエルフだ。そのうちの大半がハーフエルフ。ごく一握りがハイエルフといった構成で、やつはハイエルフにあたる。エルフに関してはこちらの世界にもなぜか知られているようで、その解釈はおおむね正しい。が、魔力に長け長寿なのはハイエルフだけで、普通のエルフやハーフエルフは人間とそうは変わらない。華奢なだけ器用さと素早さが若干上なぐらいだな」
「……なら……ジルは……どうなんだ? あの人も……エルフ族だと言っていたが……むにゃむにゃ」
日頃の寝不足と、昼からの慣れない労働。そして事故と水害に見舞われ疲労困憊のモジョが半分眠りながらパイナップルを横にどけている。
「師匠は……もともと聖王国出身だが……そこはいろいろあってな、詳しい話はまたいずれ師匠の許可を得て話そう。いや、私も全てを聞いているわけではないが……」
「え? じゃあもしかしてあのスケベ男もけっこう年寄りなの??」
「いや、ヤツは二十歳そこそこだと聞いていたぞ? ゆえにまだまだ魔法が未熟なのだ」
「ほぉ……あれで未熟か……ワシには充分達者に見えたがのう?」
元一の言葉にアルテマは少し考え込んだ。
たしかに異世界で戦ったときよりも若干魔法のキレが上がっていたように感じた。
まるで長い間修行していたかのように。
「で? 流れてしまった芋はどうしたんじゃ? 回収できたのか?」
肉を噛み切るのに苦戦しながら占いさんが聞いてきた。
それに対し、面目ないと頭をかきながらヨウツベが苦笑いする。
「いやまぁ……僕たちみんな頑張ったんですが……その……半分くらいは流れていってしまって……」
クロードたちがいなくなってからボートを出し、できる限り回収しようとしたのだがほとんどは手遅れで、下流の彼方に流れてしまっていた。
「やれやれ、貴重な種を……罰当たりなことじゃな」
「それも痛いが問題は、明日からまだ偽島組が動き出すと言うことじゃ」
物資の問題もあるが、そっちの問題もある。
元一はそのことについて、みなに何か対策はないか見回す。
するとヨウツベが元気に手を上げて、
「はいはい。そのことならおまかせ下さい。僕に妙案がありますから!!」
「ほう?」
「ただ、明日の朝までに撮っておきたいものがありますので、みなさん、とくにアルテマさん。今日は夜まで付き合っていただきますか?」
「撮る? いったい何をするというのだ?」
アルテマが眉をひそめるが、ヨウツベは悪戯っ気にまあまあともったいぶる。
そして他の若いメンバーにも協力を頼んでいた。
アルテマの写真や映像を弱みに無理やり工事を進めようとする偽島組。
しかし映像のことならこっちが専門とばかりにヨウツベは自信たっぷりに、何かを企んでいるようだ。
そんなヨウツベは
「先日はみんなに迷惑をかけちゃいましたからね。ここでひとつ名誉挽回とさせていただきましょう!!」
と力強く胸を叩くが、
「……ニートのどこに挽回する名誉があるというのかね……ぐうぐう」
的確にモジョに切り替えされ「それは言わないでくれよ……」と、また苦い顔をするのだった。
「……いや、そういう問題じゃないと思うぞ……」
先の騒動を共有するべく、開かれた緊急集会。
集落のみなは元一の家に集まって、会議兼夕食兼ヤケ酒会をくり広げていた。
身体に傷を負ってしまった六段と、心に傷を追ってしまったぬか娘は酒をあおり、他の者は節子の用意してくれた晩ごはんをいただく。
「ねぇ~~アルテマちゃん、なんなのあいつ? 異世界の騎士? そんなのがなんでいきなり出てくるの!? なにしにきたの~~??」
半べそになって悪酔いし、アルテマに抱きつくぬか娘だが、アルテマもクロードがどういう経緯でこの現世に現れたのかはよくわかっていない。
「ヤツに関しては私も驚いているが……目的は私の討伐のようだな」
「聖王国の騎士やと聞いたが? ……ヒック」
「ああ、その通りだ。奴は聖王国でも指折り数えられる名門の騎士……私はあいつに追い詰められてこの世界に渡ってきたのだ……」
アルテマは異世界で、あの吊り橋で起こった出来事をみなに話して聞かせた。
「……そうかその時の敵将があいつじゃったと言うことか……」
アルテマを看病していた頃、こちらの世界へ渡ってきた理由をある程度は聞いていた元一だったが、まさかあの男がその話に出ていた騎士だとは思わなかった。
知った元一は「だったら、本気で射抜いてやるべきじゃったか……いや、いっそのこと猟銃で……」などと物騒なことをつぶやいている。
「あの……スケベ金髪……そんなに強いやつだったの?」
「いや……私は確かに逃げはしたが、あの時は満身創痍でとてもまともに戦える状態じゃなかった。そこに都合よくあいつが現れただけだ。……あいつは弱いくせになぜか運に恵まれていてな。こっちが出てきてほしくない時に限って出てくるし、いくら返り討ちにしてもなんだかんだ、のらりくらりと生き延びて、何度でもしつこく舞い戻ってくるやつだった……今回もそうだ」
「そうですか……いやでも、さっきの戦いを見る限り弱くはないですよね?」
「だ、だ、だ、だな。そ、そ、それにあの耳……も、も、もしかしてエルフ族なのでござるか!??」
大皿に盛られた酢豚を突っつきながら、ヨウツベとアニオタがそう聞いてくる。
アルテマはあまり認めたくはない、といった感じでむくれると、
「……いちおう聖騎士ではあるからな。並の兵士よりは強い。……幼児化してしまった今の私とだったら……わずかに向こうに勝ちがあるかもしれん」
本当に認めたくないとこだが、安い意地やプライドは運をこぼしてしまう。
アルテマは冷静にそう分析し、悔しそうにピーマンを噛みちぎった。
「聖王国はその住人のほとんどがエルフだ。そのうちの大半がハーフエルフ。ごく一握りがハイエルフといった構成で、やつはハイエルフにあたる。エルフに関してはこちらの世界にもなぜか知られているようで、その解釈はおおむね正しい。が、魔力に長け長寿なのはハイエルフだけで、普通のエルフやハーフエルフは人間とそうは変わらない。華奢なだけ器用さと素早さが若干上なぐらいだな」
「……なら……ジルは……どうなんだ? あの人も……エルフ族だと言っていたが……むにゃむにゃ」
日頃の寝不足と、昼からの慣れない労働。そして事故と水害に見舞われ疲労困憊のモジョが半分眠りながらパイナップルを横にどけている。
「師匠は……もともと聖王国出身だが……そこはいろいろあってな、詳しい話はまたいずれ師匠の許可を得て話そう。いや、私も全てを聞いているわけではないが……」
「え? じゃあもしかしてあのスケベ男もけっこう年寄りなの??」
「いや、ヤツは二十歳そこそこだと聞いていたぞ? ゆえにまだまだ魔法が未熟なのだ」
「ほぉ……あれで未熟か……ワシには充分達者に見えたがのう?」
元一の言葉にアルテマは少し考え込んだ。
たしかに異世界で戦ったときよりも若干魔法のキレが上がっていたように感じた。
まるで長い間修行していたかのように。
「で? 流れてしまった芋はどうしたんじゃ? 回収できたのか?」
肉を噛み切るのに苦戦しながら占いさんが聞いてきた。
それに対し、面目ないと頭をかきながらヨウツベが苦笑いする。
「いやまぁ……僕たちみんな頑張ったんですが……その……半分くらいは流れていってしまって……」
クロードたちがいなくなってからボートを出し、できる限り回収しようとしたのだがほとんどは手遅れで、下流の彼方に流れてしまっていた。
「やれやれ、貴重な種を……罰当たりなことじゃな」
「それも痛いが問題は、明日からまだ偽島組が動き出すと言うことじゃ」
物資の問題もあるが、そっちの問題もある。
元一はそのことについて、みなに何か対策はないか見回す。
するとヨウツベが元気に手を上げて、
「はいはい。そのことならおまかせ下さい。僕に妙案がありますから!!」
「ほう?」
「ただ、明日の朝までに撮っておきたいものがありますので、みなさん、とくにアルテマさん。今日は夜まで付き合っていただきますか?」
「撮る? いったい何をするというのだ?」
アルテマが眉をひそめるが、ヨウツベは悪戯っ気にまあまあともったいぶる。
そして他の若いメンバーにも協力を頼んでいた。
アルテマの写真や映像を弱みに無理やり工事を進めようとする偽島組。
しかし映像のことならこっちが専門とばかりにヨウツベは自信たっぷりに、何かを企んでいるようだ。
そんなヨウツベは
「先日はみんなに迷惑をかけちゃいましたからね。ここでひとつ名誉挽回とさせていただきましょう!!」
と力強く胸を叩くが、
「……ニートのどこに挽回する名誉があるというのかね……ぐうぐう」
的確にモジョに切り替えされ「それは言わないでくれよ……」と、また苦い顔をするのだった。
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