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第176話 隠せ隠せ(汗)

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「やれやれ……ひどい目にあった」

 氷嚢《ひょうのう》で頭を冷やしてもらいながら扇風機にあたるアルテマ。
 汗だくになってしまった巫女服は脱いで、いまはぬか娘のTシャツを借りている。
 その風下でスーハースーハーしているアニオタに、本気のゲンコツを食らわしている元一。
 職員室には集落のメンバーが全員集まっていた。

「ようやく開放されたか……まったくやつら、ちょっとお話を、とか言いつつそこら中調べて行きおったな」

 麦茶片手、忌々しげにつぶやく六段。

「せやな。……あれは完全にワシらのこと疑っとる目やったな……ヒック」

 呑兵衛は冷《ひや》のワンカップ。

「……まぁ……消えた女らの足取りがこっちに向かっていたのだから……疑われても無理はないと、思う……」

 モジョの作業部屋は地下にあるため、とくに念入りに調査されてしまった。
 もちろん事件とは関係ないので調べられても問題ない――――というわけにもいかず、PC内を覗かれたら別件の〝よろしくない〟情報が山ほど出てきてしまうので、踏み込まれる前にやばいデータは全て消去。ハードディスクも抜き取り、ハンマーと強力磁石で破壊した。

「……おかげで大損害だ……この怒り……どこにぶつけてくれようか……」
「ば、ば、ば、バックアップは取ってなかったでござるか?」
「……取っていたら隠滅にならんだろう……まぁほとんどはわたしの頭に入っている……復元に時間がかかるがな……くそう、また寝る時間がなくなる……」

「疑われとるのは、偽島組との抗争のせいもあるじゃろうな……」

 行方不明になっている者について、原因の心当たりはあるものの。実際にこの集落に来ていたかと問われれば、知らないと答える他ない。
 本当に見ていないのだから、むしろ自分たちのほうが本当なのか確認したいぐらいである。
 まったく厄介なことだと腕を組む元一。
 そこに、一台のビデオカメラを持ったヨウツベが現れた。

「抗争ってゲンさん……ヤクザじゃないんですから」
「ヤクザじゃろう、すくなくとも連中はな」
「そんなあいつらを、ことごとく撃退しとるワシらもカタギじゃないってか? まぁ、否定はせんがな」

 がっはっはと笑う六段。

「いや、笑えないですって……」

 そういえば、この爺さんも正体不明だよなとヨウツベは苦笑いする。
 ここが地元ってわけじゃないらしいし、家族もいないらしい。
 自分たちも人のことは言えないので深くは聞いていないが……いつか聞ける日がくれば聞いてみたいとも思う。

「で? そのカメラはなんじゃ」
「え、ああ……これはですね」

 ヨウツベは中央のオンボロテーブルに、持ってきたカメラを置いた。
 そして内蔵モニターをひっくり返すと再生ボタンを押す。
 するとそこには、かなり高い位置から見下ろしたグラウンドの映像が映っていた。

「……これは……? ここの校庭か?」

 また不思議な道具が出てきたぞと、興味津々なアルテマ。
 みなも集まってくる。
 映像には元気にラジオ体操をしているアルテマと六段が。

「なんと……ここに写っている少女……。これは私か!??」

 モニターの中で元気に体操をしている小さな自分を見てびっくりする。

「これは僕が防犯と野鳥観測のため設置していたカメラの映像なんです」
「ほぉ~~これはすごいな。鏡以外の自分の姿なんて見たことなかった……。なんだかこう見ると……思ってたより幼いな……私」

 ペタペタと自分の胸辺りをまさぐり微妙な顔をするアルテマ。

「……ってアルテマちゃん『マジカル☆ミコブラック』見てないの!? めちゃめちゃ写ってるよ?」
「いや、その……い、いインターネットはその……さ、最近ちょっと見ないことにしているんだ……その、怖くて……」
「?」
「動画は情報量が多くて、この世界を知るのにとても効率的なツールだと思うのだが……調子に乗って検索しまくっていたらこのあいだ、そ……その……とても叡智なモノがその……こ、この世界ではこ、こ、こ、こんなにお気軽にその……ハ、ハ、ハレンチな……その」
「あ~~~~~~~~……」

 すべてを悟ってあげたぬか娘。
 頬を赤らめ小さくなるアルテマ。
 そんな珍しい姿を密かに盗み撮りするヨウツベとアニオタ。

「……こんどセーフサーチをオンにしておいてやるよ……」

 言ってモジョは元一に目を流すが、

「ん?」

 よくわかっていないようなので、まあいいかと視線を戻した。

「ともかく僕が見てほしいのはですね……」

 ヨウツベは映像を早送りする。
 すると画面の中が高速で回転し、みるみるうちに時間が過ぎていった。
 それを見たアルテマがまたキラキラし始めた。
 そして時間が夜になり、時刻を表示する数字が午前2時を示したところで通常再生に戻す。

「これは三日前の深夜なんですが……」

 画面の中、街灯すら消えた真っ暗なグラウンド。そしてその向こうに、薄っすらと畑が見える。
 そこに突然、パッと明かりが灯った。

「害獣撃退用のLEDが反応したんですね。ここです、ここを見てください」

 言われるまでもなく注目する一同。
 ライトが灯ったその場所には一人の人間が写っていた。
 それは十代後半から二十代くらいの女性。
 小さくてハッキリと表情までは見えなかったが、歩きの虚《うつ》ろさから、なにかに操られているような印象を受ける。

「むう……これは……」

 表情を険しくする元一。

「たぶん……いや間違いなく、行方不明になっている女性の一人だと思います……」
「噂は本当じゃったというわけか……警察には見せたか?」
「いや、もちろん見せてません」
「……そうか。それは正解じゃったな」
「ええ、こんな映像を見られたら、ますます僕らが疑われてしまいますからね」
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