【本編完結】聖女は辺境伯に嫁ぎますが、彼には好きな人が、聖女にはとある秘密がありました。

1章、契約の内容

20.

　ハイセン医師は紅茶を飲み終えると、シェリルの腕をとり、脈をみた。
　耳下線、首と手をあてる。

「シェリル様。睡眠不足です。きちんとお食事は摂ってますよね。薬作りがしたいのはわかりますが、不摂生はダメです。倒れでもしたら、それこそ過保護者が口うるさいですよ」
「ハイセン医師。もっと言って下さい」

　いつの間にか帰ってきた過保護者1がたっていた。肩には小さな馬がいる姿はどこか可愛いらしい。しかし、その目は真剣そのものだった。

「アシュリーさん、怖いです」

　シェリルのカルテをもらったハイセン医師はまだ、彼女の病状を目の当たりにしたことがないので、保護者である二人が過保護なほどに、シェリルを気にしていることがわからないでいた。
　しかも、シェリルのすることに手が出せないでいるようにしか見えない。
　
　いつかわかるのだろうか･･･。
　
　疎外感をいだきながら、部屋を出ていった。


＊**＊**＊

「アシュリー、おかえり。ギルドはどうだった？」
「いつものポーションの依頼でした」
「いくつ？」
「いつもの薄めた物を50、初級30、中級10を10日後に、だそうです」
「そっか、じゃあ、今日はこれから偵察に行こう！！」
「何がじゃぁ、ですか？なぜ偵察ですか？」
「大人しくして一ヶ月半。いろんな本音を聞きに行こうじゃない」

　こちらが聞かせたくないこともある事を知っているのに、敢えて知りたがる幼い主人にあきれる。

「変装していきますよ」
「やった。変装だ！」

　アシュリーの魔法なら肌や髪の色、姿さえも変えることができるが、残念な事に聖女には魔法に耐性がある為、かかることはないのだ。
　その為、どうしても人為的になってしまう。
　アシュリーもアリスも手を加えたくなかったが、今回は渋々行った。

「今回だけですからね」
「銀･･･」

　二人の文句を右から左に流しながら髪を茶色に染める。瞳は、認識疎外機能のメガネをかけて誤魔化す。

「ケヴィン、今回は留守番です」

　足元で遊んでいるぬいぐるみのような馬にアシュリーは声をかけた。賢蒼馬アルヴィスである。
　厩舎に預けようとしたが嫌がり、自分で小さくなって以来、アシュリーの肩を占領していた。
　時たまシェリルが遊び相手になっている。
　ケヴィンにすれば自分が遊んでやっている気になっている。

「館内は目立つでしょう」

　涙目でプルプル震えて、行きたいアピールをしてくる。
　あまりの可愛らしさに絆され･･･、と思いきや、三人はその様子を冷静に見ていた。
　騙されない。

「ケヴィン。今から本館に行きます。シェリルの事がバレたら、･････････責任、とれますか？」

　冷たい目が見下ろす。
　ケヴィンは今度は違う意味でプルプルと震えるのだった。