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「触らないでくれ」
婚約者の袖に触れようと手を伸ばした私を彼ーマルス・ダーリス伯爵令息は避けるように身を捻った。金色の髪が揺れ、緑の瞳がわずかに細まる。
「マルス・・・様?」
「あっ・・・」
彼は自分が口にした言葉がどれだけ酷いことか理解し、気まずそうして私から視線をはずす。
「ごめん。ごめん・・・」
苦しそうに呟く彼から私は一歩下がると、なぜ触れようとした理由を口にした。
「・・・袖のボタンが・・・取れそう、で・・・」
「えっ?ああっ・・・ありがとう」
袖を確認したマルス様は小さくお礼だけ言って逃げるように去っていく。
私は、なんとも言えない虚しい想いで彼の背中を見送るしかできない。
それもこれも私の顔のせいだろう。
右手で左の目元を押さえる。
目尻にたまっている涙を拭い、私は図書館にむかった。
マルス様と私ーノエル・エルトニー伯爵令嬢の婚約は幼い頃に決まった。
その理由はこの私の左目だ。
私の左目には眉から頬にかけて、10センチ程の青黒い傷がある。傷を隠そうと銀糸の髪を伸ばしているが、生まれつき色素が薄いのもあり水色の瞳の上にある傷はどうしても隠しきれないでいた。
この傷ができたのは8歳の時。母のお茶会について行き、そこで知り合った女の子たちとごっこ遊びをしていた時のことだ。
母親たちのお茶会での佇まいや駆け引きは子供とはいえ女の子にとっては憧れであり、興味のあるものだった。私たちは楽しく会話をしている母親たちの邪魔にならないよう少し離れた茂みの陰へ行く。侍女に言って地面に敷物を引いてもらうと、実際にお茶とお菓子を並べ母親たちを真似て楽しんだ。
そんな時に男の子たちが乱入してきた。
わざとではない。いき過ぎた遊びの延長で周りが見えていなかっただけ。
でもそれは酷いものだった。
茂みからいきなり飛び出てきたものだから逃げることもできず、巻き添えをくらう。
お茶は溢れカップは割れる。お菓子が散らばり、服が汚れた。男の子にぶつかって倒れる子やこの出来事に驚いて泣く子も。
そして私は・・・・・・、マルス様の持っていた木の枝で傷を負ってしまう。
それだけなら、うっすらと傷が残る程度で終わったかもしれない。だがもっと最悪だったのは傷に果実の汁が入ってしまったことだ。
彼らは木の枝を『剣』にする直前までそこらにある草や実を採ってきてはすり潰して遊んでいたらしく、枝の先に果実の汁がついていた。
そんな木の枝でできた傷を見て医師から、一生消えないと言われる。傷に入り込み、色をつけてしまったのだとー。
母はショックのあまり寝込み、父も顔色を悪くし兄は呆然としていた。
私自身も落ち込んだ。家族にこんな顔をさせてしまったことが悲しかったから。
その一ヶ月後、私とマルス様の婚約が決まった。
ダーリス伯爵からの申し出だ。
父は行き遅れることがなくったのを喜んだが、母はこの傷の原因になったマルス様をよく思わず渋る。
会いにきたマルス様は左目に包帯を巻いた私を見て泣き出し、何度も謝ってきた。
私はそんな彼にどう声をかければよいのかわからず困ったのを覚えている。泣く彼を前に責めることができなかった。
私たちはすぐに仲が良くなり、その後正式な婚約を結んだ。
婚約者の袖に触れようと手を伸ばした私を彼ーマルス・ダーリス伯爵令息は避けるように身を捻った。金色の髪が揺れ、緑の瞳がわずかに細まる。
「マルス・・・様?」
「あっ・・・」
彼は自分が口にした言葉がどれだけ酷いことか理解し、気まずそうして私から視線をはずす。
「ごめん。ごめん・・・」
苦しそうに呟く彼から私は一歩下がると、なぜ触れようとした理由を口にした。
「・・・袖のボタンが・・・取れそう、で・・・」
「えっ?ああっ・・・ありがとう」
袖を確認したマルス様は小さくお礼だけ言って逃げるように去っていく。
私は、なんとも言えない虚しい想いで彼の背中を見送るしかできない。
それもこれも私の顔のせいだろう。
右手で左の目元を押さえる。
目尻にたまっている涙を拭い、私は図書館にむかった。
マルス様と私ーノエル・エルトニー伯爵令嬢の婚約は幼い頃に決まった。
その理由はこの私の左目だ。
私の左目には眉から頬にかけて、10センチ程の青黒い傷がある。傷を隠そうと銀糸の髪を伸ばしているが、生まれつき色素が薄いのもあり水色の瞳の上にある傷はどうしても隠しきれないでいた。
この傷ができたのは8歳の時。母のお茶会について行き、そこで知り合った女の子たちとごっこ遊びをしていた時のことだ。
母親たちのお茶会での佇まいや駆け引きは子供とはいえ女の子にとっては憧れであり、興味のあるものだった。私たちは楽しく会話をしている母親たちの邪魔にならないよう少し離れた茂みの陰へ行く。侍女に言って地面に敷物を引いてもらうと、実際にお茶とお菓子を並べ母親たちを真似て楽しんだ。
そんな時に男の子たちが乱入してきた。
わざとではない。いき過ぎた遊びの延長で周りが見えていなかっただけ。
でもそれは酷いものだった。
茂みからいきなり飛び出てきたものだから逃げることもできず、巻き添えをくらう。
お茶は溢れカップは割れる。お菓子が散らばり、服が汚れた。男の子にぶつかって倒れる子やこの出来事に驚いて泣く子も。
そして私は・・・・・・、マルス様の持っていた木の枝で傷を負ってしまう。
それだけなら、うっすらと傷が残る程度で終わったかもしれない。だがもっと最悪だったのは傷に果実の汁が入ってしまったことだ。
彼らは木の枝を『剣』にする直前までそこらにある草や実を採ってきてはすり潰して遊んでいたらしく、枝の先に果実の汁がついていた。
そんな木の枝でできた傷を見て医師から、一生消えないと言われる。傷に入り込み、色をつけてしまったのだとー。
母はショックのあまり寝込み、父も顔色を悪くし兄は呆然としていた。
私自身も落ち込んだ。家族にこんな顔をさせてしまったことが悲しかったから。
その一ヶ月後、私とマルス様の婚約が決まった。
ダーリス伯爵からの申し出だ。
父は行き遅れることがなくったのを喜んだが、母はこの傷の原因になったマルス様をよく思わず渋る。
会いにきたマルス様は左目に包帯を巻いた私を見て泣き出し、何度も謝ってきた。
私はそんな彼にどう声をかければよいのかわからず困ったのを覚えている。泣く彼を前に責めることができなかった。
私たちはすぐに仲が良くなり、その後正式な婚約を結んだ。
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