【完結】ありのままのわたしを愛して

彩華(あやはな)

文字の大きさ
49 / 76

49.エマ視点

しおりを挟む
 母様の行動は早かった。テキパキと準備を済ませると、馬車に用意した荷物を積み込み、ロマニズ公爵家へと向かう。
 馬車の中で、小さな小瓶を渡された。

「これは・・・?」
「予防薬よ。さあ、飲んで」

 いつの間に用意していたのか?
 隣に座るノエルは考えることもなくすぐに飲み干した。

「エマまで来る必要はないのだから、飲まないなら帰りなさいね」
「飲みます。ノエルだけにはしないわ」

 アーサーの元にノエルを置いておけるわけがない。わたしは薬を一気に飲み干す。その甘苦い味に眉をしかめた。

 ロマニズ家に着くと、いつもなら人の出入りが多い屋敷は静かで、警備に立つ兵も硬い顔をしている。

 馬車が中庭を抜け、建物の前に止まった。

「姉上!なぜきたのです?」

 叔父様が急いでやってきて、叫ぶ。
 母様が先に降りようとして、ノブに手をかけたが開かない。
 叔父様が、馬車の扉を押して開かないようにしていた。

「姉上。すぐにお戻りください」
「アルバート!わざわざ来た姉を追い出すの?」
「ですから、アーサーが風邪を引いたのです。隔離はしていますが、この屋敷も人数を制限して外部との交流も遮断しているんですって」
「わかっているから、当面の食料なども用意してきたのよ!」
「そ、それはありがたいですが。いえ、荷物は受け取りますからお帰りを!」
「もう、くどい!心配して来たわたくしたちを追い返そうだなんて・・・」

 母様はドレスの裾を持ち上げたかと思うと、すっと息を吸い込み勢いよくドアを蹴った。

 バァンと音と共にドアの金具が外れ、叔父様とともに吹っ飛ぶ。
 それを見たノエルが固まった。

「エマっ!?」 

 火事場の馬鹿力というのだろうか。怖い母様の本性が垣間見る。怒ると凶暴化する母様。変人であるロマニズ家の家系で母様が肉体的変人かもしれない・・・。

「ノエル・・・。なにも言わないであげて・・・」
「・・・うん」

 母様は素知らぬ顔でゆっくりと馬車から降りると、ドアを抱え倒れ込んでいる叔父様の前に立って見下ろしていた。

「アルバート。予防薬は飲んだから大丈夫よ。なんとかなるわ。それより、アーサーを心配してる子がいるのよ、ねっ?言いたいことわかるわね?」
「今・・・、屋敷には兄上はいません。アーサーの風邪が判明した時点で皇城に泊まり込みになりましたし、ロイドも同様ですので、今この屋敷は僕が代行しています。姉上・・・やエマに何かあればヴァンダー侯兄君になんと言えば・・・、それにノエルも・・・」
「あぁ、もう、学者のくせに、こういうことに関しては頭が固い!そんなこと、なったらなった時にでも考えればいいのよ!」

 ふんと鼻を鳴らす。

「ほら、元気な者は荷物をおろして。よく食べてしっかり寝たら風邪を引きにくくなるものよ。辛気臭い顔もダメよ。笑う方が免疫力も活性化するっていうでしょう!!」

 元気な声が響く。その声にメイドたちが動き出す。
 そろそろ大丈夫かと思い、わたしたちも降りた。
 
「先生、大丈夫ですか?」

 ノエルはドアを盾にしたままの叔父様に近づいてしゃがみこむ。

「ノエル・・・」
「アーサー様は?」

 叔父様は、ドアを横に置くと、ノエルの頭を軽くなぜた。

「大丈夫だ。汗をかき出したからもうじき、熱が下がるだろう」
「アルバート」
「あ、はい、姉上!」

 母様の声に叔父様の手は止まり、その場で姿勢が伸びる。

「馬車のドアの修理お願いね。あと・・・、お兄様と夫には黙って頂戴よ」

 蝶番が壊れた馬車とドアを見て、みんなの心が聞こえた気がした。

(あの修理、簡単に直せないわよ。絶対にバレるに決まってるって。黙ったままなんて・・・確実に無理よ・・・。あとは・・・アルバート様に任せましょう・・・)

 わたしがメイドたちならこう思う。
 案の定、荷物を運ぶメイドたちは呆然としている叔父様を哀れげに見ている。
 
 ただ、私だけは違う光景も見えた。父様が壊れた馬車を見て、肩を落として涙を流す姿が・・・、思い浮かんだ。

 
しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

王女殿下のモラトリアム

あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」 突然、怒鳴られたの。 見知らぬ男子生徒から。 それが余りにも突然で反応できなかったの。 この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの? わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。 先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。 お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって! 婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪ お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。 え? 違うの? ライバルって縦ロールなの? 世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。 わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら? この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。 ※設定はゆるんゆるん ※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。 ※明るいラブコメが書きたくて。 ※シャティエル王国シリーズ3作目! ※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。 上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。 ※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅! ※小説家になろうにも投稿しました。

さよなら 大好きな人

小夏 礼
恋愛
女神の娘かもしれない紫の瞳を持つアーリアは、第2王子の婚約者だった。 政略結婚だが、それでもアーリアは第2王子のことが好きだった。 彼にふさわしい女性になるために努力するほど。 しかし、アーリアのそんな気持ちは、 ある日、第2王子によって踏み躙られることになる…… ※本編は悲恋です。 ※裏話や番外編を読むと本編のイメージが変わりますので、悲恋のままが良い方はご注意ください。 ※本編2(+0.5)、裏話1、番外編2の計5(+0.5)話です。

某国王家の結婚事情

小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。 侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。 王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。 しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

さようなら、私の愛したあなた。

希猫 ゆうみ
恋愛
オースルンド伯爵家の令嬢カタリーナは、幼馴染であるロヴネル伯爵家の令息ステファンを心から愛していた。いつか結婚するものと信じて生きてきた。 ところが、ステファンは爵位継承と同時にカールシュテイン侯爵家の令嬢ロヴィーサとの婚約を発表。 「君の恋心には気づいていた。だが、私は違うんだ。さようなら、カタリーナ」 ステファンとの未来を失い茫然自失のカタリーナに接近してきたのは、社交界で知り合ったドグラス。 ドグラスは王族に連なるノルディーン公爵の末子でありマルムフォーシュ伯爵でもある超上流貴族だったが、不埒な噂の絶えない人物だった。 「あなたと遊ぶほど落ちぶれてはいません」 凛とした態度を崩さないカタリーナに、ドグラスがある秘密を打ち明ける。 なんとドグラスは王家の密偵であり、偽装として遊び人のように振舞っているのだという。 「俺に協力してくれたら、ロヴィーサ嬢の真実を教えてあげよう」 こうして密偵助手となったカタリーナは、幾つかの真実に触れながら本当の愛に辿り着く。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

処理中です...