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雨が降っている。
私は黒い喪服に身をつつみ、トークハットを被り、目の前に置かれた棺をみていた。
棺の中には包帯にまかれ、静かに眠っているアルドの姿がある。
あの日、彼は仕事場で事故に巻き込まれた。
出かけ先で、仕事相手と立ち話をしていた時に、運悪く暴走した馬車馬がつっこんできたというのだ。
その知らせを昼過ぎに聞いた私は、急いで病院に行った。
でも、何もかも遅かった。
すでに亡くなっていた。
ーなんでなの?
やっと、お互いに心が通じ合えたと思った。これから本当の夫婦としてやっていけると思っていた。
なのに、あんまりではないだろうか?
私は幸せになってはいけないのだろうか?
つつがなく終わる葬儀。土に埋まっていく棺。
もう手を伸ばしても届かない。
涙は枯れることがなく、私は泣き続けた。
「この疫病神が」
後ろから女性の声が聞こえ、私は固まってしまう。
この声の主はアルドの母親。
「疫病神のせいよ!」
「やめろ!」
「なによ!本当じゃない。アルドを返せ。私の大事な息子を返しなさいよ。あんたが死ねばよかったのよ!あんたがいるから不運ばかり怒るのよ!全部あんたのせいよ!」
「やめろっ!」
アルドの父親が止めているらしい。
ゆっくりと遠ざかってゆく騒がしい声。
私は振り返ることができなかった。
アルドの母親は知っていての言葉ではなかっただろう。だが、それは懐かしい私の呼び名であった。
私を産んですぐに母は亡くなった。物心がつこうかといかろ兄から言われたことがある。母親殺しの疫病神と。あの頃はまだちゃんと理解していなかったが、その言葉が悲しく思ったことがある。
理解している今では悪意ある言葉に聞こえた。
私を気遣ってくれたのか、誰もいなくなる。
1人になった私の足は力が抜け、その場に座り込んだ。
スカートが泥で汚れる。
そんなこと構わなかった。
私は声をあげて泣いた。叫ぶ。地面に何度何度も拳を打ちつけた。
悲しくて、寂しくてそして自分が生きているのが悔しくて。
そんな目に入ったのは彼岸花だった。
私はその一本を手折る。
彼岸花は毒がある。あの綺麗な花にも。茎にもー。だから、昔から侍女に触ったらきちんと手を洗いなさいと諭されてきた。
それの茎を口に含む。
苦い味が口の中に広がり吐き出したくなるのを我慢して食べた。
だが、無理だった。
生理的に胃の中から吐きだしてしまう。
気持ちが悪い。
アルドが死んで食欲がなかったのもあり、胃から出てくるのは黄色い胃液だけだった。
死にたいのに死ねない自分がいる。自分の心が弱いのか・・・。
私は地面に額をつけひたすら雨の中泣き続けた。
それから三日後、両家の話し合いで私は実家に帰ることが決まった。
もし、本当の夫婦なら、妊娠などのこともあり、未亡人として屋敷に残っていたかもしれないが、そんな関係にはなっていなかった。
こんな役立たずはお荷物にしか、ならないのだろう。
アルドの両親は私を睨み、罵ってきた。恨み言をいい、下げ荒んでくる。
私はそれをすべて受け入れた。
どんなことを言われてもどうでも良かった。
彼らが傷にどんな塩を振りかけようと私の心は凍ってしまったのか、痛みさえ感じなくなっていた。
私は怒り狂っているアルドの母親をただ、無表情に無感情に眺めていた。
次の日、私は小さはカバン一つを持って玄関に立った。
振り返り、室内をみる。主人を失った屋敷は静かだった。
「奥・・・リコ様」
アルド付きの執事が私に近づいた。
「リコ様。これをお持ちになってください」
執事は小さな箱を私に手渡した。
「この屋敷の物は置いていくように奥様にいわれてるの」
「これだけはどうか、リコ様がお持ちください。これは、旦那様があの日、リコ様のために買われた物なのです」
「・・・・・・」
私は鞄を落とした。
執事から箱を貰い中を見ると、小さなダイアが一粒ついたネックレスが入っていた。
「アルド・・・」
「どうか、それだけは・・・」
私はネックレスを握りしめ、うなづいた。
泣きたいのに涙がこぼれない自分が虚しかった。
私は黒い喪服に身をつつみ、トークハットを被り、目の前に置かれた棺をみていた。
棺の中には包帯にまかれ、静かに眠っているアルドの姿がある。
あの日、彼は仕事場で事故に巻き込まれた。
出かけ先で、仕事相手と立ち話をしていた時に、運悪く暴走した馬車馬がつっこんできたというのだ。
その知らせを昼過ぎに聞いた私は、急いで病院に行った。
でも、何もかも遅かった。
すでに亡くなっていた。
ーなんでなの?
やっと、お互いに心が通じ合えたと思った。これから本当の夫婦としてやっていけると思っていた。
なのに、あんまりではないだろうか?
私は幸せになってはいけないのだろうか?
つつがなく終わる葬儀。土に埋まっていく棺。
もう手を伸ばしても届かない。
涙は枯れることがなく、私は泣き続けた。
「この疫病神が」
後ろから女性の声が聞こえ、私は固まってしまう。
この声の主はアルドの母親。
「疫病神のせいよ!」
「やめろ!」
「なによ!本当じゃない。アルドを返せ。私の大事な息子を返しなさいよ。あんたが死ねばよかったのよ!あんたがいるから不運ばかり怒るのよ!全部あんたのせいよ!」
「やめろっ!」
アルドの父親が止めているらしい。
ゆっくりと遠ざかってゆく騒がしい声。
私は振り返ることができなかった。
アルドの母親は知っていての言葉ではなかっただろう。だが、それは懐かしい私の呼び名であった。
私を産んですぐに母は亡くなった。物心がつこうかといかろ兄から言われたことがある。母親殺しの疫病神と。あの頃はまだちゃんと理解していなかったが、その言葉が悲しく思ったことがある。
理解している今では悪意ある言葉に聞こえた。
私を気遣ってくれたのか、誰もいなくなる。
1人になった私の足は力が抜け、その場に座り込んだ。
スカートが泥で汚れる。
そんなこと構わなかった。
私は声をあげて泣いた。叫ぶ。地面に何度何度も拳を打ちつけた。
悲しくて、寂しくてそして自分が生きているのが悔しくて。
そんな目に入ったのは彼岸花だった。
私はその一本を手折る。
彼岸花は毒がある。あの綺麗な花にも。茎にもー。だから、昔から侍女に触ったらきちんと手を洗いなさいと諭されてきた。
それの茎を口に含む。
苦い味が口の中に広がり吐き出したくなるのを我慢して食べた。
だが、無理だった。
生理的に胃の中から吐きだしてしまう。
気持ちが悪い。
アルドが死んで食欲がなかったのもあり、胃から出てくるのは黄色い胃液だけだった。
死にたいのに死ねない自分がいる。自分の心が弱いのか・・・。
私は地面に額をつけひたすら雨の中泣き続けた。
それから三日後、両家の話し合いで私は実家に帰ることが決まった。
もし、本当の夫婦なら、妊娠などのこともあり、未亡人として屋敷に残っていたかもしれないが、そんな関係にはなっていなかった。
こんな役立たずはお荷物にしか、ならないのだろう。
アルドの両親は私を睨み、罵ってきた。恨み言をいい、下げ荒んでくる。
私はそれをすべて受け入れた。
どんなことを言われてもどうでも良かった。
彼らが傷にどんな塩を振りかけようと私の心は凍ってしまったのか、痛みさえ感じなくなっていた。
私は怒り狂っているアルドの母親をただ、無表情に無感情に眺めていた。
次の日、私は小さはカバン一つを持って玄関に立った。
振り返り、室内をみる。主人を失った屋敷は静かだった。
「奥・・・リコ様」
アルド付きの執事が私に近づいた。
「リコ様。これをお持ちになってください」
執事は小さな箱を私に手渡した。
「この屋敷の物は置いていくように奥様にいわれてるの」
「これだけはどうか、リコ様がお持ちください。これは、旦那様があの日、リコ様のために買われた物なのです」
「・・・・・・」
私は鞄を落とした。
執事から箱を貰い中を見ると、小さなダイアが一粒ついたネックレスが入っていた。
「アルド・・・」
「どうか、それだけは・・・」
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泣きたいのに涙がこぼれない自分が虚しかった。
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