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8.二人の殿下

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「アルフ。人魚に詳しいというのは彼女か?」

 リュート殿下の声に我に返り、頭を下げた。

「えぇ、これから彼女の世話をしてくれます」

ーうん?この言いようは確定が含まれていないか?

 思わず、わずかに顔をあげアルフ様を見る。始終にこやかな顔に苛立ちを覚えた。

「そうか。名前は何という?」
「・・・フィーです」
「そうか。では彼女のことを頼む」

 先ほどよりわずかに高い声はロイド殿下だろうか。王族に言われ反論できなくなる。

 不躾にならないように前にいる殿下たちを見てしまう。 
 お二人とも声が似ているからつい確認してしまったのだ。
 リュート殿下の方が少し身長があり、髪色が柔らかいぐらいで、二卵性の双子といっても信じてしまうほど、似ている兄弟だ。

「こっちは侍女のマリー。彼女はこの東側の館の侍女頭補助でもある。何か困りごとがあれば彼女に相談してくれ。それと、フィー」
「なんでしょうか?」

 アレフ様の語らいに低めの声が出てしまったのは許してほしいところだ。
 現に殿下の二方は「えっ?」という表情になっている。マリー様は青ざめているのがわかった。

 それなのに、アルフ様は1人楽しそうに言ってくる。

「君はこれからは私の直属の部下扱いとして彼女の世話係になる。これは契約書だ。ここにサインしてくれるかい?」
「・・・」
 
 つい口の端が引き攣ってしまった。
 顔を上げアルフ様を睨む。

「まだ、了承しておりませんが?」
「ここまできて、できませんはないだろう?図書館は魅力でないかい?」

 ここで図書館を持ち出すとは、本当に腹立たしい限りでしかない。

 だが、ソファーに座る人になった人魚の女性が視界の端に写った。

 細い眉を下げ不安そうに私たちのやり取りを見ている。

 そりゃあ、知らない世界は怖い。ましてや人間の生活は海の中とは違う。
 私でいいのなら手助けしてあげたい。

 ふぅ・・・、と息を吐いた。

「かしこまりました。いたらないながらもお手伝いさせていただきます。ですが私には平民ですので、多くのものを求めないでください。特になどです。それでよければお引き受けいたします」
「それでいい」

 アルフ様から契約書の紙をもらい、名前を書いた。

「字が書けるんだな」

 素朴な疑問にむっとする。

「名前くらい書けます。人を馬鹿にしないでいただけますか?」
「悪い。そんなつもりはなかった」

 この方は何から何まで私をイラつかせるのにたけているように感じた。

「必要なことは終わりましたよね。女性同士で話したいこともありますので、2人っきりにさせてください。むさ苦しい男性方はご退場してください。マリー様もしばらくはご遠慮ください」 

 むさ苦しいなど言われたこともないのだろう、殿下二人の間抜けな顔を見て、心の中で笑ってやった。

「フィー!!」

 アルフ様の慌てるような声を無視して部屋から押し出すようにしてやった。

「平民ですので、失礼~」
 
 そう言って、部屋から追い出すと鍵を閉める。

 何事が起きたのかまだわかっていない人魚の女性に私は近づくと手を取った。

「怖くはないわ。私はフィー。あなたの名前を教えてくれるかしら?」

 私は彼女の震える冷たい手を握った。
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